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雪見祭りの夜  作者: 季慧
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序章

 風が吹く夕暮れの丘を二つの影が歩いている。一つは少女、もう一つは少年の影である。風に舞う二人の銀色の髪は美しく、夕日に照らされキラキラと輝いている。しかし、何やら少女の表情はご機嫌というには少し無理がある程に険しく、眉間にしわを寄せて地図とにらめっこしている。


 「サン、もう日が暮れるし今日はこの辺で休まないか?」


 少年がそう言うと、サンと呼ばれた少女は首を横に振った。


 「だってもう三日も野宿してるんだよ?今日という今日は絶対に宿を見つけるんだもん!・・・この辺に村が一つあるはずなんだけど・・・」


 サンは風になびく長い髪をおさえながら辺りを見渡した。ふと後ろから、豪快に腹が鳴る音が聞こえた。


 「サン・・・腹減った。まぁ、近くに村があるのはわかってるんだし、別に明日でも・・・」


 「カンの馬鹿!」


 サンはそう怒鳴ると眉間のしわを深くして、再び地図に目をやった。カンと呼ばれた少年はやれやれと言わんばかりに首を振ると、のんびりとサンの隣まで歩み寄った。カンは自分が羽織っていた外套をサンの肩にかけた。サンは、自分よりもやや高めの位置にある優しい顔を見上げた。


 「まぁ、日も落ちて寒くなるし、とりあえず羽織っておきなよ。」


 そういうカンの外套の下はタンクトップ一枚で、外套の下に長袖を着ているサンよりよっぽど寒そうである。


 「いいよ、なんか見ててこっちが寒くなりそうだし。コレはカンが羽織ってて。そんな心配するくらいならなおさら早いこと村を見つけないと。」


 そう言うとサンは、やや急な坂を急いで上がっていった。それをみたカンも慌てて後を追う。


 「サン、こういう長旅に無理は禁物だっていつも言ってるだろ!まったく、お前は・・・」


 「カン・・・あれ・・・」


 「お前!!人の話聞けよ!せっかく珍しく兄貴らしいこと言ってるのに!」


 「良いから見て!」


 サンが指さす先を見ると、いくつもの光が集まっている。・・・村だ。

 少し遠いようだが、二人の歩速なら日付が変わるまでには到着するであろう。


 「おぉ、村だ!やったな、サン!」


 「やっとちゃんとした宿にありつける・・・行こ!」


 サンとカンは闇に沈んでいく空を照らす小さな村の光に向かって歩き出した。夕日はもうほとんど沈んでしまい、外灯の光が道を照らしている。ふとサンが空を見上げると、彼女はハッとしたようにカンの外套を掴んだ。カンはというと、少々勢い付けて歩いていたため外套で首が絞まり、「きゅぇっ」と、小動物のような声を漏らした。


 「サン、お前・・・自分の双子の兄貴を絞め殺す気か?!・・・サン??」


 サンはカンの訴えがまるで聞こえていないらしく、茫然と空を見上げている。カンも、サンが見つめる先を目で追うとそこにはただ一つの星が、薄暗い空にポツンと煌めいていた。


 「カン・・・星だよ。久しぶりに見た。」


 そう言うサンの声はやや小さかったがどことなく嬉しそうな響きを持っており、空色の瞳がいっそう輝いたようにも思えた。

 カンも嬉しそうなサンの横顔を見て、目を細めた。


 「村も近いし、ここにきてようやく星も見れた!俺達の目標は近いんじゃないか?」


 「・・・そうだね!・・・早く、見つかるといいね。」


 しばらく空に浮かぶたった一つの星を眺めていると、再びカンの腹が鳴った。さっきより豪快な音だ。

 雰囲気が台無しになり、カンは申し訳なさそうに笑い、サンは呆れた。


 「は、腹も減ったし、行こうぜサン!今日中にあそこに行くんだろ?」


 空気に耐えられなかったのか、カンは遠くの方に光る人工の光に向かって駆けだした。サンは、呆れながらも子供のように駆けてゆく自分の双子の兄の優しい背中にそっと声をかけた。


 「カン、そのまま行くと崖が・・・」


             ズシャァアアアアアアアアアア


 カンの悲鳴と共に豪快な音が夜空に響き渡った。サンはまさかホントに落ちるとは思っていなかったらしく、慌ててカンの後を追う。

 そんな二人の様子を空に浮かぶ星は優しく、静かに見守っていた。。。

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