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冥界第七管理局。
深夜三時。
本来なら静寂に包まれているはずの死神本部は、現在――地獄のような有様になっていた。
「第三魂魄倉庫が満杯です!!」
「だめだ!! 第五搬入口も詰まってる!!」
「誰だこんな数持ってきたの!?!?」
「知るか!!!!」
廊下を大量の下級死神が走り回る。
積み上がる書類。
鳴り止まない警報。
青ざめる管理官たち。
そして。
巨大な魂輸送コンテナの山の上で。
「のだっ♡」
銀髪の死神レイが超ドヤ顔で座っていた。
ふんぞり返っている。
めちゃくちゃ偉そうである。
「うむ!頑張ったのだぁ!吾輩、超働いたのだぁ!」
周囲の死神たちは唖然としていた。
「……」
「……」
「……おい」
「何人分だこれ」
「まだ集計中です……」
事務官の死神が震える声で答えた。
「現時点で……約百三十万人です……」
「…………は?」
空気が止まった。
レイはニコニコしていた。
「のだっ♡」
「いや待て待て待て待て!!!!」
監察官イリゼアが絶叫した。
「何をした貴様ァ!!!!」
「のだっ?未処理案件を終わらせてきたのだぁ!」
「規模がおかしいだろうが!!!!」
レイはえっへんと胸を張った。
「うむ!吾輩、考えたのだぁ!」
「嫌な予感しかしない」
「一人ずつ刈るから面倒なのだぁ!」
「当たり前だ!!!!」
「だから王国ごと刈ったのだぁ!」
沈黙。
完全な沈黙。
数秒後。
「……………………は?」
イリゼアの声が裏返った。
レイは得意げに説明を始めた。
「まずぅ!寿命近い人を探すのが面倒だったのでぇ!」
「王国の上空から超広域死霊術式を展開してぇ!」
「“寿命判定省略・まとめて刈り取りモード”を使ったのだぁ!」
「何を使った!?!?」
「便利だったのだぁ!」
「禁術だぞそれ!!!!」
周囲の死神たちも騒然としていた。
「お、おい……」
「冥王戦争時代の術式じゃねぇか……」
「しかもあれ、一級災厄指定の……」
レイはキラキラした顔で続けた。
「そしたら超早かったのだぁ!
一瞬で終わったのだぁ!
うむ!効率化なのだっ♡」
「効率化で国家滅ぼすな!!!!」
イリゼアの怒声で窓ガラスが割れた。
レイはビクッとした。
「のだぁっ!?」
「貴様、自分が何をしたかわかってるのか!?!?」
「仕事したのだぁ!」
「やり過ぎだ!!!!」
レイは不満そうに頬を膨らませた。
「だってぇ……未処理案件を全部終わらせろってぇ……」
「“普通に”終わらせろ!!!!」
「説明不足なのだぁ!」
「常識で考えろ!!!!」
下級死神たちは遠巻きに震えていた。
「王国って……あの……」
「ベルグラン王国ですよね……?」
「人口百万人超えてるぞ……」
レイはニコニコしていた。
「のだっ♡」
「褒めるな!!!!!!」
「まだ褒めてないのだぁ!?」
イリゼアは頭を抱えた。
胃が痛い。
本気で痛い。
「ちなみに……どうやって刈った……?」
「のだっ?」
「詳細を言え」
レイは嬉しそうに説明し始めた。
「まずぅ、王都の真上でぇ!」
「超巨大死神モードになったのだぁ!」
「は?」
「身長300メートルくらいなのだぁ!」
周囲がざわついた。
「馬鹿か!?」
「霊力どうなってんだよ……」
「そんなの維持できるの冥王級だけだぞ……」
レイは気にせず続ける。
「それでぇ!空から鎌を振ったのだぁ!」
「…………」
「そしたら王国全域の魂が“スパァン!”ってなったのだぁ!」
「雑すぎる!!!!」
「超気持ちよかったのだぁ!」
イリゼアは震える手で机を掴んだ。
「その後は!?」
「のだっ?」
「当然大混乱になっただろ!!!!」
「のだぁ。人間たち、みんな空見て固まってたのだぁ」
レイは妙に嬉しそうだった。
「なんかぁ、“終末だ”とかぁ、“神罰だ”とか叫んでたのだぁ!」
「当たり前だ!!!!」
「うむ!吾輩、超怖かったと思うのだぁ!」
「自覚あるのか!?」
「のだっ♡」
最悪だった。
すると。
奥からヨロヨロと老死神が歩いてきた。
魂管理局長・グラドール。
数千年生きる大物である。
そのグラドールが。
積み上がる魂コンテナを見て固まった。
「……何じゃこれは」
全員が静かにレイを指差した。
「また貴様かァーーーーーーッ!!!!!!」
「のだっ♡」
「可愛く誤魔化せる規模ではない!!!!」
グラドールは杖を振り回した。
「国家一つ消えておるではないか!!!!」
「仕事したのだぁ!」
「限度を知れ!!!!」
レイはキョトンとしていた。
「でもぉ……未処理ゼロなのだぁ?」
その瞬間。
事務官が青ざめた顔で走ってきた。
「た、大変です!!」
「今度は何だ!?」
「急死者数が多すぎて輪廻システムが詰まりました!!」
「は?」
「転生待機列が二百年待ちになってます!!!!」
全員が静止した。
「……………………」
レイだけが首を傾げていた。
「のだぁ?」
「貴様ァーーーーーーーーーーッ!!!!!!」
次の瞬間。
冥界全域に怒号が響いた。
レイはものすごい勢いで逃げ出した。
「のだぁあああああ!!怒るななのだぁあああ!!効率化なのだぁあああ!!」
「待て!!!!」
「拘束しろ!!!!」
「今月の始末書全部こいつに書かせろ!!!!」
「嫌なのだぁあああああ!!!書類は嫌なのだぁあああ!!!」
黒翼をバサバサさせながら逃げ回るレイ。
だが。
下級死神たちは別の意味で震えていた。
「……でも」
「ああ……」
「やっぱレイ先輩……」
「スペックだけは化け物すぎる……」
たった一晩。
それだけで。
王国一つの命を刈り尽くしたのだから。




