獄潰し ~最初と終わりは違うもの~
天導時時雨:どっかの小説の主人公。若干、むっつりな好青年。
白河輝:龍を従えることのできる少年ですが、あいにく、この話には龍が出てきませんので無意味な存在です。
雨乃零一:意外と女子に人気のある少年。今回、先輩の二人に新人いびりにあいます。
霜崎賢治:まれに名前が剣治だったりします。今回の出番はちょっとだけ。
獄潰し ~最初と終わりは違うもの~
零一「話ってなんだよ。放課後にいちいち体育館裏に呼び出したりしてさ」
佳奈「あ、あのね。前々から言おうって思っていたんだけど………私、零一のことが好きなんだ」
零一「は…………おいおい、冗談はよせよ」
佳奈「ううん、違うの。冗談なんかじゃない。もう一度言うけど、あなたのことが好きなのよ」
零一「は、はぁ………俺のどこがいいんだよ。別に格好いいってわけじゃないし、頭もよくないぞ。運動だっていまいちだし………」
佳奈「そんなこと、関係ないっ。私は零一のことが好きなのよっ」
零一「……佳奈………」
時雨「ちょっと待ったぁあっ」
零一「うわっ」
佳奈「きゃっ」
時雨「よく考えなおすといいよ。後悔する前に。よくよく考えてみてごらん。勉強する意義をっ。いい点数を取るためなのか、これから先の人生で必要なのか、どっちだと思う。そう、もちろん後者だ。いい点数取るためなんかじゃあない」
零一「あの、一体ぜんたい貴方は誰なんですか」
時雨「僕は時雨さ。天導時時雨」
零一「それで、何か用ですか」
時雨「だから、さっきからも言っている通り、それでいいのかいと尋ねているんだ。離婚になったら大変だぞ」
零一「いや、別に付き合うからって結婚するとは………」
佳奈「ひどいっ。私は結婚まで考えていたのにっ」
零一「ええっ」
佳奈「零一なんてもう、知らないっ。結婚詐欺師に騙されればいいんだわっ」
零一「あ、ちょっと佳奈待てってっ。って、何ニヤニヤしているんですか」
時雨「や、新たに仲間が出来て嬉しいなぁって。あ、おーい、みんな、新入りが出来たよ」
輝「え、本当っすか。ああ、この青臭そうな少年ですか。はじめまして、おれの名前は白河輝っていうんだ。“てる”じゃなくて“あきら”と呼んでくれ」
零一「は、はぁ。よろしくお願いします」
時雨「人生、横道それるのも大変なんだよ。そして、無限に広がる選択肢。もし、君が先ほど彼女を作ってしまっていたら下手したら話が崩壊していたかもしれない」
零一「何の話ですか………」
輝「そうだな、じゃあ仲よさそうなカップルがいちゃいちゃしているのを一時間見るのと、男女三角関係の修羅場を一時間見るのどっちが楽しそうだと思う」
零一「そりゃあ、修羅場でしょうね。いちゃついているのを一時間も見ることなんて出来ませんよ。イライラしてくると思います」
時雨「だろうねぇ。だから、さっき君が彼女を振ったのは正解だった」
零一「いや、振ってませんって。貴方のせいでしょう」
輝「ま、君は身体からラブコメっぽい匂いがしているからな」
零一「に、匂い………するもんですか」
輝「ああ、するする。特に入学式とか、新学期とか、転校とかでな」
時雨「ほら、噂をすればあっちから誰か走ってくる」
夏樹「せんぱーいってうわ、誰ですかこの人たちは」
零一「え、えっと………さぁ」
時雨「まぁ、この零一君の友達みたいなものさ。ところで、彼に用事があったんだろう」
夏樹「あ、そうでした。零一先輩、今度の日曜日一緒に遊園地に行きませんか」
零一「ああ、別にいいぜ」
時雨「よし、橋渡し成功」
輝「成功ですね」
零一「…あの、結局何がしたかったんですか」
輝「一見、デートの約束を取り付けられたかのように見えるが、心ない一言で男女関係なんて壊れるものなんだよ。時雨先輩、お願いします」
時雨「うん、夏樹ちゃんと言ったかな」
夏樹「あれ、名乗った覚えありませんけど」
時雨「いいんだよ、そんなこと。さっきね、この零一君………雨乃佳奈ちゃんに告白されてOK出したんだよ」
夏樹「え、そ、それって………本当なんですか、零一先輩っ」
零一「え、あ、ああ………」
時雨「その上で夏樹ちゃんと日曜日遊びに行こうだなんておこがましいっ」
輝「男として二股なんて最低だな」
零一「さっき三角関係がどうのこうのって言っていませんでしたかっ」
時雨「細かい事を気にしていたら女の子に嫌われちゃうよ」
夏樹「れ、零一先輩にばかーっ」
零一「………もう、嫌われた後ですけど」
輝「な、言っただろ。男女関係なんて何気ない一言で壊れちまうものなんだよ」
時雨「はっはっはぁ、振られた男の顔ほど最高なものはないよ」
輝「そうですね、憂さが晴れますよ」
蕾「ちょっとお兄ちゃんっ」
時雨「え、つ、蕾っ」
蕾「エッチな本を勝手に捨てたのはわかるけど他の人に迷惑かけちゃダメでしょ」
零一&輝「……………」
蕾「あんなのばっかり見てちゃ頭悪くなるでしょ」
時雨「ぐっ、エロ本読まない男はな、男じゃないぞっ。二人とも読むだろっ」
零一「ま、まぁ(エロ本って読むって言うのか……)」
輝「たしなむ程度ですけど(どっちかというと眺めるけどなぁ)」
時雨「僕のベットの下からマッチョお兄さんの写真集が出てきたほうが気持ち悪いだろっ」
蕾「そ、そりゃまぁ」
時雨「だから、僕は正しいのっ」
零一「すごい理屈だ………」
輝「理屈じゃなくてへ理屈だけどな」
葵「輝さん、人のことを言っている場合ではありませんよ」
輝「なっ、葵………」
葵「探しましたよ。もう、後輩いじめなんてしないで帰りますよ」
輝「嫌だっ」
葵「嫌とかなんとか言わないで下さい。子供じゃないんですから」
輝「だって、お前すぐ怒ると噛むじゃん」
零一「………か、噛むって………」
葵「何言っているんですか。マジ噛みしたら輝さんの腕なんて千切れますよ」
零一「…………」
碧「あら、噛むのは私の専売特許よ」
輝「って、碧さんまでっ」
零一「か、噛むって何のことなんですか」
碧「世の中には知らなくていい事もあるの。じゃあね、坊や。輝君がお世話になったわね」
葵「失礼します」
輝「やだっ。帰りたくないっ。助けて、零一少年っ。いたっ、噛まないでくださ………にゅああああああっ」
零一「………あの人、結局なんだったんだ」
時雨「………わかったって、わかった。僕が悪かったよ。エッチな本をしっかりと隠しておかなかった僕が悪かった」
蕾「だから、そうじゃなくて…」
零一「こっちはまだ収束してなかったんだな」
千夏「だっしゃあっ」
時雨「ぐほっ」
蕾「お姉ちゃん」
零一「え、今度はお姉ちゃん登場………」
千夏「やれやれ、まったく血がつながっていないとはいえ言い訳するところは蕾にそっくりだわ」
蕾「わ、私はいいわけなんてしないもんっ」
千夏「はいはい、じゃあ帰るわよ」
蕾「うんっ」
零一「………本当、あの人たちは何がしたかったんだろう」
佳奈「ちょっとっ、女の子が走って逃げたら追いかけるのが普通でしょっ」
零一「か、佳奈………」
夏樹「なんで追いかけてきてくれなかったんですかっ」
零一「な、夏樹まで………」
その後、体育館裏でぼろぼろになった一人の男子生徒が発見されたそうである。
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賢治「いやぁ、今回の話は為になったね」
亜美「そうかしら」
賢治「人の恋路を邪魔するものは馬に蹴られてしまうってのをよく理解したよ」
亜美「邪魔されたほうもただでは済まなかったようだけどね」
賢治「まぁ、時雨君は違うことが言いたかったみたいだけど」
亜美「世の中、自分の思い通りに行くときは疑ったほうがいいわね」
賢治「今回はこの辺でお別れしましょう」
亜美「それでは皆様また今度」
基本、この小説ではラブなんてありません。皮肉っぽいこと言ってごまかして終わりです。いいんですよ、書いていて面白ければそれでいいんです。目標はあくまで一人、笑ってくれればそれだけでいいんです。何、ハードルが低すぎるってあんた、人を笑わせるのはとっても大変なんですよ。だから、低すぎなんかじゃあありません。