やっぱりやめる ~ おしとやかな淑女を目指した結果 騎士団長が降ってきた ~
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「何度いったらわかるんだ、僕の婚約者になる気はあるのかい?」
「サミュエル様……。学生の間は良いとおっしゃったではないですか」
「私が表向きにそう言ったとしても、君が配慮して剣術部はやめるべきだろう。アイリー。君の見た目は完璧なんだ、もっと慎ましやかな淑女であってほしいものだよ」
サミュエル様は、腕組みをして私を見下ろしている。
「……わかりました」
私は4カ月後に目の前で立腹されている、ゼックス伯爵家のサミュエル様と婚約を結ぶ予定だ。
私の両親は貴族では珍しく恋愛結婚で、お互いを知るためにまずは恋人同士から♡と言う方針の元、2ヵ月前から毎週カフェデートなるものをしているのだが……。
たいていはサミュエル様に、私の内面をダメ出しされて終わる。
私は小さなころから体を動かすのが大好きで、気になる事は調べずにはいられない。
7歳の時から剣術を習っていて、人助けが大好きだ。
困っている人を見れば助けたい。
そしてついつい考える前に行動してしまい。
この間も転んだご老人に駆け寄り助け起こしたのをサミュエル様に怒られた。
サミュエル様は私の外見は褒めてくれるが、その3倍くらい内面をけしてくる。
おしとやかであれ、慎ましくあれ、かわいらしあれ!
んん~。私だってサミュエル様の見た目は凄く好きだ!
だから私がおしとやかな淑女になれば、サミュエル様も怒らずに穏やかになってくれるのではないかと、デートの時もお家の中でも学院でも剣術部以外では、【おしとやかな淑女であれ!】を目標に頑張っているのに……。
私はついに、心の支えであった剣術部を退部する事になってしまった。
✿ ✿ ✿
「本当にやめるのかよ~」
「そうよ、騎士団入りも目指せるレベルなのにもったいない」
「女性で騎士団に入れれば、王妃様や王女様の近衛になれるかもしれないのよ」
「そうだけど……。婚約できなくなっちゃうし」
「「「……。」」」
剣術部のみんなは引き留めてくれたけど。
貴族として……。私が頑張ればみんな幸せになれるんだから。
「じゃあ。休日や部活のない日には私達と出かけない?」
「そうよ、剣術じゃなくても体を動かせることをしましょうよ」
「放課後は、マナーやフラワーアレンジメント、裁縫にバイオリンのお稽古を始めたの……。ごめん」
「いいよ、いいよ。昼休みに愚痴を聞いてあげるから」
「ありがとう」
みんなの優しさに、涙がにじむ。
それからの毎日は私の心を削った。
それでもいっぱい頑張った。
こっそり寝る前に剣を振ることは貯められなかったけど。
1カ月ほどすると私の心はペシャンコになったが、サミュエル様の目指す淑女が完成。
サミュエル様はご満悦で、私をあちこちに自慢して回りカフェデートもお店の奥や個室だったのに、テラス席に変った。
「やあ。アイリー、今日もかわいいよ」
サミュエル様が、私が膝の上に置いている手を握る。
私が望む姿になってからのサミュエル様はなんだか距離が近い……。
そして触れられるとゾワリと背中が寒くなる。
私が思っていた感じと違うな……。
「ほら、アイリーあーん。してあげる」
サミュエル様のホークの先にあるケーキがどんどん私に近づきてくる!
どうしようあたし。やっぱり無理かも!
ぎゅっと目をつむると、ドカンと大きな音がして、大きな男の人がテラス席に転がり込んできた。
「キャー」
「逃げろ!」
テラスにいた人達が逃げ出す。
道には転がってきた男性と同じ様な風貌の人があと2人。
その向こうに騎士様が3人。
転がり込んできた男性が、震えて動けない隣の席の女性に短刀を突きつけ抱え込む。
「キャー。助けて~」
私は、そっと椅子の背もたれを握り持ち上げる。女性を人質にしている男性の後ろから頭を目掛けて椅子を振り下ろした。
「痛てーな!」
男性は少しふらついたが、倒れることなく振り返る。
やー。なんて頑丈な頭なの!
「おい。今殴ったのは、にーちゃんか!」
サミュエル様を見据えて、男性が凄む。
「僕じゃないです!」
そう叫んだサミュエル様は私を男性の方に突き飛ばした。
私は突然のことに、前のめりに転倒する。
「キャー。 いたたた。」
男が油断して女性を離した瞬間を狙い、私は立ち上がると同時に転がった椅子を握り、男性の横腹目掛けて振り抜いた。
「グハァ!」
さすがの男性もお腹を抱えて倒れる。
「逃げましょう」
私は人質になっていた女性の手を引と、騎士たちが男の仲間と道の真ん中で剣を交えているのが見える。
ガキーンと大きな音がして、騎士が男の仲間の剣を弾くと剣は地面に落ち、回転しながら私達に向かって飛んでくる。
「キャー」
剣が飛んできたことに驚いて人質の女性がしゃがみ込む。
女性を助け起こそうとすると、椅子で殴った男がふらふらと立ち上がった。
「この女!」
叫びながら、私達目掛けて剣を振りかざしながら向かって来る。
私は足元で止まった剣を拾い上げて何とか男の剣を受け止めた。
「うぅぅぅ」
さすがに重い……。
押し負けそうになったその時、銀髪で黒い騎士服に身を包んだ騎士様が、目の前に降ってきた。
地面に下りるとともに男に剣を振り下ろし、男は背中を切られて倒れる。
「グワーーーー。」
はぁぁぁ。助かったぁ。
私はぺたりと座り込む。
騎士が数名、駆け寄ってきて礼を取る。
「団長。すべて捕らえました」
「あ。こいつもフラットでの打撃だ、連れて行け」
団員に指示を出すと、騎士団長が剣を構えたままの私に手を差し出した。
隣の女性は、既に他の騎士様に助け起こされている。
「勇敢なお嬢さん。私は第一騎士団長のアンドリューと申す者。剣をお預かりしても?」
私は慌てて剣を渡すと、団長は隣の騎士に剣を預けてもう一度私に手を差し出す。
銀色の髪が差し込む光に輝き青い瞳は、暑い日の空に似ている。
騎士の方なのに細見……。でもしっかりとした前腕筋群、上腕もきっといい筋肉なはず。
んー。見てみたい。
「お嬢さん、手を取っていただけますか?
団長様の声で我に返り、急いで手を取り立ち上がる。
「私、ジール伯爵が娘、アイリーと申します。助けていただきありがとうございます」
反対の手で、スカートをつまみ挨拶をする。
団長様はじっと私の腕を見つめ、おもむろにむにむにと大きな手で包むように握る。
「うん」と頷いて、反対の腕も。
やややっやっや。
腕がどうかしたのですかー?
私は声にならない叫びをあげる。
むにむには続く……。
「あああ あの」
なんとか絞り出した声に団長様が腕から目線を私の顔に移す。
私の顔は既に真っ赤だ。
「す すまない。あまりにしなやかな筋肉だったものでつい……。」
「いえいえ。私も先ほど団長様の前腕筋群に見とれておりました」
言ってはみたものの、私はなんて恥ずかしいことを~。
「いやしかし。女性は鍛えていても俺達とは違うのだな、男性はただムキムキしてむさくるしくなるだけだが、女性は柔らかな層の下にしっかり筋肉がついている」
団長様は無意識なのか話しながらずっと私の二の腕をむにむにしている。
恥ずかしいし、くすぐったい。
心臓もすごいドキドキして落ち着かない。
「ところでこのカフェには先ほどの女性と来たのか?」
は!サミュエル様のこと忘れてた。
振り返ると既にサミュエル様の姿はない……。私はサミュエル様いた場所を見つめ決心した。
「わたし。やっぱりやめます!」
「な。なにをだ?」
「このカフェには婚約者候補の方と来ていました。貴族として婚姻できるように、その方の意に沿える様に頑張ってきましたが、そんなの何の価値もないことに気がつきました。私はもとの自分の方が好きです」
「そうか。詳しくは知らないがアイリー嬢。以前に学院の剣術大会でアイリー嬢のことは見かけて筋がいい子だと思っていた。さらに先ほどの身のこなし!とてもドレスを着て動いているとは思えなかったぞ、卒業したら私の騎士団に来ないか?」
ペシャンコだった私の心はみるみる膨らみ、自然と笑顔になる。
「はい。再入部してさらに剣を磨きます。そして騎士団に入隊できるよう頑張ります」
私の眼を見て、団長様もにっこり笑う。
「では、ひとまず伯爵家に送らせてもらおう」
団長様は馬車の中で、今回の騒動の事を簡単に教えてくれた。
あの男たちは隣国から来た強盗団で、物だけではなく情報も売るため第一騎士団が動いており、強盗団のアジトがカフェの隣の建物であることを突き止め、踏み込んだところ男たちは抵抗して逃げだし戦闘となった。
団長様は二階に逃げた男を追い捕縛し、テラスから私のことを見つけて飛び降りて助けてくれたのだ。
横に座り両手で私の手を握る団長様に、横腹に椅子を振り抜いた時の姿は見事だったと熱く語られ、胸がバクバクしすぎて馬車の中で気を失いかけたがなんとか家に到着。
団長さんは両親に今回の出来事を説明してくれて私はサミュエル様のことを話した。
両親はカンカンに怒りサミュエル様との婚約の話は無くなった。
✿ ✿ ✿
私は剣術部に再入部して充実した日々を送っている。
サミュエル様は、学院で剣術部の仲間が私の退部理由を話したことやあの事件の日、サミュエル様の対応を見ていた人も多く学院の中で孤立してる。
この様子だと婚約者を見つけるのは難しそうだ。
そして私は。
婚約者ができました。
「アイリー。早くしないともうお迎えが来てるわよ~。」
「はい。頑張って急いでいます」
友達に急かされ裏口に走る。
私の婚約者はなんと、ブルックス公爵令息で第一騎士団長、アンドリュー様だ。
あれから直ぐにアンドリュー様から釣書が届き、両親の進める恋人期間も、アンドリュー様は運命の出会いであるから不要であると両親を説き伏せて直ぐに婚約の運びとなった。
そして婚約してからは毎日学院に送り迎えしてくれる。
「あの。アンドリュー様さま。騎士団長様の仕事は、忙しいのではないですか?」
「リューだ」
「あの。リュー様は忙しいのでは?」
「仕事や物事には優先順位がある、かわいい婚約者を守るのが最優先事項だ」
そう言いながら隣に座るリュー様は、私の二の腕をむにむにしている。
「リュー様。くすぐったいですよ」
私は頬を赤く染め訴える。
「頑張れ、俺はこうすると癒されて一日の疲れが飛んでいく」
ぐぅぬぬ。
リュー様には、触れられてもどんなに頑張れと言われても嫌じゃない。
あの時やっぱりやめて本当によかった。
恋人との時間は、ゾワゾワするものじゃなくて、胸がぎゅっと苦しくなるけれどこんなに幸せな時間だと知りました。
~ 終わり ~
誤字脱字などいつもありがとうございます。




