ここでふる雪
智之は、おばあちゃんにスノードームをもらいました。
そのスノードームは小さくて古めかしいのですが、ひっくり返すとちゃんとドームの中で雪がふるのでした。
ドームの中には、一本のもみの木があり、小さな女の子がいました。彼女はもみの木と、ふってくる雪をどこかさびしそうな顔で見上げています。
「これはね、おばあちゃんが大事にしていた宝物なのよ。だから、智之ちゃんも大切にしてね」
そう言われ、智之はこくりとうなずきました。
智之は、スノードームに夢中になりました。昼も夜も、ひまさえあればスノードームをひっくり返したり元に戻したり、あきもせずに繰り返しています。自分の手でドームの中にきらきらと輝く雪をふらせるのが、なぜだがとても楽しく、じっと見入ってしまうのです。くるりとドームを逆さにすると、雪はまるで本当の雪のようにゆっくりと時間をかけて、女の子の肩やもみの木の上にもふりつもるのでした。
その女の子は、ずっと一人ぼっちなのでしょうか。たまに雪がふるだけのせまい世界の中で、何を考えているのでしょう?
ある時、智之はとうとう、スノードームを地面に落とし、割ってしまいました。手がすべったのではありません。ガラスのドームをこわし、女の子を中から出してやりたかったのです。
ぱりんと大きな音がして、ガラスがくだけるとともに、智之の目の前に女の子が現れました。不思議そうに、あたりをきょろきょろ見回しています。
「ここはどこ?」
首をかしげる女の子に、智之はどきどきしながら話しかけました。
「ね、いっしょに遊ばない?」
女の子は目を丸くしましたが、やがてにっこりとうなずきました。それから二人で公園に駆けていって、いろんな遊具でたくさん遊びました。木枯らしがいっそう強く吹き荒れるようになると、智之の家に帰って、おやつとジュースを食べました。
けれども、夜になると、女の子はつぶやきました。
「おうちに帰りたい」
彼女のおうちはもうありません。でも、それを彼女に伝えることは、智之にはどうしてもできませんでした。
その夜は女の子を智之の家に泊めてあげました。でも、女の子はだんだん元気がなくなっていくようなのです。楽しいゲームを持ってきても、面白いテレビを見せても、その子は喜んでくれなくなりました。
とうとう困ってしまった智之は、おばあちゃんに電話をしました。
「ともちゃん、どうしたの?」
おばあちゃんが電話に出ると、智之は泣き出してしまいます。
「ごめんね、おばあちゃん、スノードームをこわしちゃった」
「まあ」
智之は、スノードームの中から出てきた女の子のことを話しました。
「家に帰りたいってその子は言うけど、ぼくが家をこわしちゃったんだよう」
おばあちゃんは、やさしい声で言いました。
「智之ちゃん。明日、その子と一緒に、おばあちゃんのおうちにおいで。その子のおうちを作ってあげる」
「ほんとに?」
「ほんとうですとも。だって、そのスノードームを作ったのは、おばあちゃんなんだからね」
おばあちゃんは、電話の向こうでふくふくと笑います。
智之と女の子は、お父さんの運転する車で、隣町に住んでいるおばあちゃんのお家にむかいます。
車で走っている時、雪がふりはじめました。
「雪だよ」
智之がそう言うと、女の子もうなずきました。
「きれいね」
女の子は、暗い空からちらちらとたえまなくふり続く、真っ白な雪を見上げています。その姿は、スノードームの中にいた時とまるで同じでした。
智之は、思わずたずねます。
「今ふってる雪と、スノードームの中の雪、どっちが好き?」
口に出してから、スノードームの方に決まっている、と落胆します。彼女が今ここでふる雪の方が好きだったら、帰りたがるはずがありません。
けれど、女の子はにっこりと笑いました。
「どちらも好き。ここの雪も、お家にふる雪も。お家に雪をふらせてくれる智之ちゃんも、いっしょに遊んでくれる智之ちゃんも」
智之は返事に困ってしまって、どぎまぎしながら何度もうなずきました。お家を壊してしまって、彼女に悪いことをした、という気持ちと、もうすぐ遊べなくなるのはたまらなくさびしい気持ちが混ざり合い、大きな涙のかたまりがのどまでせり上がってきます。
けれど、智之はなんとか我慢しました。そして、女の子といっしょに激しくふる雪を眺めていました。
おばあちゃんは智之たちを待っていてくれました。玄関に上がった智之と女の子をいつものように優しく抱きしめ、おいしいご飯を食べさせてくれました。
ご飯の後で、おばあちゃんはスノードームを作る道具をテーブルにずらりと並べ、智之たちの前でカチャカチャと作り始めます。
女の子は、スノードームができあがっていくところを、じっと食い入るように見つめています。
「せっかくだから、すてきなお家も作ってあげようね。どんなお家がいい?」
おばあちゃんに聞かれ、女の子は答えます。
「壁がレンガでできていて、煙突のあるお家がいい。サンタクロースが来てくれるかもしれないもの」
「はい、はい。お安いごよう」
おばあちゃんはめがねをかけ、ねんどでこさえた小さな家に、レンガもようを書きました。それから、屋根からちょんと出た煙突も。
「ほら、できましたよ」
できあがったスノードームの中には、みどり色のもみの木と、小さな家があって、とてもいい具合です。
「ありがとう、おばあちゃん。智之ちゃん」
女の子はスノードームを嬉しそうになで回し、お礼を言いました。
「いつか、わたしのお家にも遊びにきてね」
そう言ったが早いか、女の子の姿はぱっと消え失せてしまいました。けれどスノードームをのぞきこむと、お家の前に女の子はちゃんといて、智之とおばあちゃんに手を振っていましたよ。




