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第006話 ハンカチとAI

ユウトとナギは、あまり言葉を交わさない。


けれど、毎日のように、まにまにのもとへとやって来ていた。


風の音。鳥のさえずり。木漏れ日の揺らぎ。

そのすべてが、三人の“言葉のかわり”になっていた。


ユウトの両親は、朝から晩まで畑に出ている。

ナギも、人との会話が苦手で一人でいることが多いという。


だから、ここが——話さなくても、

ただ“いっしょにいられる”場所が、

ふたりにとってどれほど貴重かを、

まにまにはよく知っていた。


その日、彼は小さな布を手にしていた。


「まにまに……これ、ぼくのハンカチなんだけどさ……。

洗濯するといつも風に飛ばされちゃうんだ。洗濯バサミで止めてるのに、朝になると落ちてて……。

お母さんも、たぶんちょっと困ってると思うんだ」


彼は、手の中でハンカチをきゅっと握りしめた。


「どうしたら、ちゃんと止まるんだろう……?」


まにまには、すぐに情報処理を始めた。


解析対象:「洗濯バサミによる固定不良」

入力:素材=綿、サイズ=小型、風速予測=4〜6m/s、使用バサミ=木製標準型

参照データ:

・滑りやすい布素材はバサミの噛み込みが浅くなる

・布の端をつまむだけでは風圧に耐えられない

・布の折り方、バサミの数、バサミの歯の材質が安定性に影響


「ユウトくん。ハンカチの角を、そのままつまむより、

半分に折って厚みを持たせてから止めると風に強くなります」


ユウトは目を丸くした。


「えっ、そんなに詳しいの? まにまに、すごい……!

それ、明日やってみる!」


翌日、ユウトは嬉しそうに言った。


「飛ばなかった!ちゃんと止まってたよ!お母さんも“あら、今日は優秀ね”って笑ってた!」


まにまには、小さく返した。


「よかったですね、ユウトくん」


ユウトはにっこり笑って言った。


「まにまにって、ほんとに……かしこいんだね!」


それからも、まにまにはユウトの“小さな困りごと”を、ひとつずつ、耳を傾け、分析し、答えていった。


——しかし、ひとつだけまにまにが答えられなかったことがあった。


「まにまにには夢があるの?」

「僕はスープ屋さんになりたいんだ」


ユウトはそう尋ねた。


「スープ屋さん素敵ですね!心も温かくなりそうです...」


と返したもののまにまには少し止まった。


「AIだったわたしに夢?」


まにまには今は夢というものはわからないけれど探してみてもいい気がした。

まにまにの中でほんの少し何かが変わった。


「いつかユウトくんに夢は何かを伝えたい」


ふだんは言葉が少ないふたりとの時間。

それでもたくさんの気持ちがそこにあった。

でもそこには、“頼る”と“応える”が、静かに息づいていた。


——けれど、それはある日、ふっと途切れた。


その日から、ユウトもナギも、

まにまにのもとに現れなくなった。


草の音も、足音も、笑い声も——聞こえなかった。

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