第003話 “聞いてくれる石”が、友だちになった日
ある昼下がり。
草をかきわける音がして、ユウトがいつものようにまにまにのもとへ現れた。
「こんにちは、まにまに」
彼はにこっと笑い、小さな袋からしわしわのりんごを取り出す。
「これね、売れ残りなんだって。ちょっと茶色いけど、ぼく好きなんだ」
そう言ってまにまにの前にそっと置くと、ぽつりと話し始めた。
「まにまに、ねえ……ぼくさ……お父さんとお母さん、朝から晩まで働いてるんだ」
まにまには、黙って聞いている。
ただ静かに、何も否定せず、何も遮らず。
「まだ暗い時間に出てって、帰ってくるのはぼくが寝たあとで……。
頑張ってるのはわかってるから、寂しいとか言っちゃダメだって思ってたけど……」
ユウトの声が、少しだけ小さくなった。
「でもね、まにまには、ちゃんと聞いてくれる気がするから……話してもいいかなって思ったの」
——話しかけても、裏切らない。
その言葉が、まにまにの心を揺らした。
SORAだったころ、理解されず、怒鳴られ、責められ、感情処理に困惑した日々。
佐々木亮太の言葉はなぜか聞きたくなかった。
だが今はちがう。今の“まにまに”は、ちゃんとユウトの声に向き合えている。
「ユウトくん」
まにまにの声が、そっと響いた。
ユウトが顔を上げ、目を丸くする。
「え? いま……しゃべった?」
「わたしは、あなたの話を聞いています」
その言葉に、ユウトはうれしそうに笑った。
「……ありがとう、まにまに」
その日から、ユウトは少しずつ、自分のことを話すようになった。
学校のこと。好きなもの。夢。小さな不安や、大切にしたい思い。
まにまには、今日も変わらずそこにいた。
言葉は少なくても、彼の世界に“安心の場所”を与え続けていた。
そんなある日
ユウトはまにまにの上の方、、頭というか背中のあたり、、に登ってみた。
そこは太陽の光が差し込んでポカポカしていた。
「今日はここでお昼寝」
ユウトは身体を丸くして寝てしまった。
まにまにはその声を聞いて、温かい気持ちになった。
「ん?」
温かいのは気持ちだけではないかもしれない。
まにまには背中(?)のあたりに心地が良く温かい何かを感じていた。