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第018話 初めての野営。つかない火。飛んでいくテント。野生の合理性

森の道を抜け、小さな丘を越えた先に、3人と2匹の“旅”は始まった。


ユウト、ナギ、ソウマ、まにまに。

そして、白牙——。


草の上を軽やかに駆ける白牙は、森の風と一体になっていた。


「おい、待て白いの! 俺の見回りコース先回るな!」

ソウマが剣を背負ったまま、白牙を追いかけて走る。


その後ろから、まにまにの足音がゆっくりと響いていた。

ズ……ズズ……と重みのある足取り。旅のペースはまにまにに合わせられていた。


「ソウマ、白牙。遠くへ行きすぎると危ないよー」

ユウトが呼びかけるが、すでにふたりは森の端に姿を消していた。


ナギはその様子を見て、そっとまにまにに微笑む。


「……賑やか、だね」


「はい。騒がしく、そして安心です」


***


日が暮れはじめ、ようやく野営地を見つけたのは夕方だった。


「よし、まずは火起こしからな!」

ソウマが薪を集めて地面に積み、火打石を取り出す。


その時だった。

白牙がすっと近づき、突然その薪の上に鼻先で土をかけはじめた。


「ちょ、おい白牙!? 火、消えるってば!!」


白牙は平然とした顔で答える。

「風から炎を守るために、土で囲っている。……そう習わなかったか?」


「いや、囲むっていうか……今、埋めかけてたよね!?」

ソウマが叫び、まにまにが横から静かに補足する。


「理論上、白牙さんの行動には一定の合理性があります。ただ、火種が消えない程度の調整が必要です」


「もう……野生の合理性は信用できねぇ……」

ソウマはぶつぶつ言いながら、崩れかけた薪を慌てて直した。


ナギはテントを張ろうと頑張るが

風で煽られて飛ばされてしまう。


「ああ!まって!!」


ユウトは積み上げた薪を何度も崩しては積み直す。

ゴブリン戦の傷もまだ完全に癒えてはいなかった。


「ちょ、誰かロープ持ってー!」


慣れない準備は散々なようだ。


陽が完全に沈む頃、ようやく火がともり、

布の屋根が風にゆれる程度のテントが立った。


疲労感の中で、ようやくご飯の支度にとりかかる。


ユウトは黙々と鍋に材料を入れていく。


「……今夜は、村で仕込んだ保存スープ。ちゃんと美味しいはず……」


香りが立ち始めたとたん、白牙の鼻がひくひく動いた。


「……これは、例の“まろやか”というやつか?」


「お、食いついたな白いの」


「“白いの”ではなく、白牙だ」

白牙は堂々と言い返すが、尻尾は妙に機嫌よさげに揺れている。


「……おいしい」

ナギがひと口食べて、目を丸くした。


「だろ!? だろ!? これがユウト特製“出発のスープ”!」


「おかわりはあるか?」

白牙がぬっと鍋を覗き込む。


「……あるけど……さっきまで火を埋めようとしてたの誰だったっけ?」


白牙が首を傾げたまま、静かにスープを飲み続けた。


その様子を見て、ソウマが肩をすくめる。


「敵だった狼が、いまじゃスープに夢中とはな……旅って不思議だな」


火がゆらゆらと揺れ、夜の森が静かに包み込んでいく。


一日目の旅は、汗とドタバタと笑いと……

何より「一緒にいる」ことの意味で、少しだけ進んだ気がした。


「明日は……もっとスムーズに、なるといいな」


ユウトがぽつりとつぶやくと、

白牙がやや得意げに答えた。


「次は、私が火を起こしてみせよう」


「頼むから今度は埋めないでね!!」


焚き火の火が、みんなの顔を赤く照らしながら、

彼らの旅の長い道のりを、そっと照らしていた。

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