表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/43

第015話 ナギの魔法センス

食堂の窓辺で、まにまにはじっとロージを見つめていた。

それは観察というより、測り合うような静かな時間だった。


「語る石……いや、それ以上の存在か」

ロージが低くつぶやく。


彼の目は、まにまにの甲羅の模様、石の質感、関節の接合部をひとつひとつ丁寧に追っていた。

まにまには、その沈黙と凝視に対し、拒むことなく、ただ見返していた。


「構造は亀型……古代アステラ文明に似た石殻生体構造。ただし、内部の演算核は……これは、連続構造型の高次思考体か? だとすれば、非有機演算における初の自律言語応答体となる……」


その言葉は、一瞬、まにまに以外の誰にも理解できない速度と専門性を持っていた。


まにまには、わずかに目を伏せる。

その内部では、高速な検索処理が走っていた。


> 検索開始:キーワード「アステラ文明」「石殻生体構造」「非有機演算核」「自律言語応答体」

> 照合対象:文明データベース/古文書断片/内部記憶記録

> 検索結果:アステラ関連文献 32件、演算核構造記録 17件、一致パターン 2件

> 結論:部分的類似性を検出。詳細情報照合のため対話継続を推奨


まにまには口を開いた。

その声は、石ではなく“知性”の響きを持っていた。


「私の記録にも、“アステラ文明”という名称は確認されています。高次演算核に関する情報も存在しますが、照合は限定的です。さらなる情報の共有をお願いできますか?」


ロージの目が一瞬だけ見開かれた。


「……本当に“語る”んだな」


彼は静かに笑った。


「情報交換、いいだろう。君のような存在とは、できる限り多くを共有したい」


そのとき、ナギがそっとティリアの袖を引いた。


「……あの人、すごく静かに見てた」


「ええ、ロージさんは“観る人”なの。心の中で対話しているのよ」

ティリアが優しく答えた。


「でも、あなたのことも見てた。ずっとね」


ナギがきょとんとする。


「……わたしのこと?」


「ええ。あなたの魔力の流れは、とても繊細で……でも、芯がある。まだ“自分”に気づいていないだけ」


ティリアはそっと手を伸ばし、ナギの指先に触れる。


「少しだけ、魔力を流してみて」


ナギが戸惑いながら目を閉じる。

指先から、淡い光が漏れた。


挿絵(By みてみん)


ほんの一瞬だったが、まにまにが微かに反応し、わずかに顔を上げた。


「今の……」


「うん。見えたわ。とてもきれいな流れ」


ユウトが驚いたように言った。


「ナギ……魔法、使えるの?」


ナギは恥ずかしそうに頷いた。


「……たぶん。でも、誰にも見せたことない」


「なら、私が見届け役になるわ」

ティリアがにっこりと笑った。


「あなたの中には、“優しい魔法”がある。世界に必要とされる力よ」


ロージがそれを聞いて、ふと視線を窓の外に向けた。


「世界は、これから大きく変わる。語る石、まにまにと、君たちのような若者が歩み出すなら……」


まにまには頷き、静かに語った。


「私も、その変化を記録したい。そして、共に歩みたい」


夕日が差し込む食堂の中、そこには確かな“始まり”の気配があった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ