表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/43

第012話 はじめの一歩

「……これ以上は難しいようです」


まにまにの声は、静かに森に溶けた。


「私の身体は、長い年月をかけて地中に沈んでいます。今のままでは、前足以上を動かすことができません」


ユウトは拳を握りしめた。


「だったら、僕たちで掘り出すよ!」


ナギも頷き、小さな手鋤を取り出す。


「……一緒に、外に出ようね」


そのときだった。


「やっぱり、来てたか」


低く落ち着いた声とともに現れたのはソウマだった。

木漏れ日の中から姿を現すと、迷いなくふたりの傍らにしゃがみ、土に手を伸ばす。


「お兄ちゃん……!」

ナギが顔を上げる。


ソウマは微笑を返し、まにまにの前足を見つめながら言った。


「ナギが笑ってる理由……ずっと考えてた。

そして、まにまにを見て思ったんだ。これは“守るべきもの”だって」


ユウトがはっと目を見開く。


「信じてくれるんだ……!」


「もうとっくに信じてるよ。

今は……村の皆にも見せるべき時だ」


ソウマは立ち上がり、ひとつ深く息をつく。


「俺が呼んでくる。きっと、伝わる」


***


それからほどなくして、森にざわめきが戻った。


ソウマと共にやってきたのは、村の大人たち。

その中には、かつてまにまにを恐れていた者たちもいた。


彼らの足が止まる。


そこにいたのは、半身を土から現し、光を浴びながらじっと“誰か”を待っている存在。


「……これが……」


「生きてるのか……?」


沈黙のなか、一人の老人が前に出た。ガンジ——かつてユウトたちを叱った男だった。


ガンジはしばらくまにまにを見つめていたが、やがて静かに言った。


「昔から“しゃべる石”は禍だと聞いてた……

だが今、ここにいるのは“言葉を持ち、助けを求める誰か”だ。

それがわかる目を、俺たちは持たなきゃならん」


彼は膝をつき、まにまにの前足に手を添える。


「すまなかった。……手伝わせてくれ」


その言葉に呼応するように、次々と村人たちが動き出す。


ユウトは目を潤ませながら言った。


「ありがとう……ほんとに、ありがとう」


まにまには、そっと音を鳴らした。


> 外部反応受信:安心、感謝、共鳴

> 状態:地中拘束解除プロセス進行中


「わたしは……みなさんのこの“ぬくもり”を記録します。

わたしの最初の“動き”は、みなさんの手によって支えられるでしょう」


夕暮れの光が、まにまにの甲羅に差し込んでいた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ