第010話 まにまにの夢
森に、久しぶりの賑わいが戻ってきた。
まにまにの周囲には、村の人々が自然と集まっていた。
誰もが穏やかな顔で、まるで古くからの友人のもとを訪ねるかのように。
「感謝の宴だ!」
誰かが言い、皆がうなずく。
食べ物が並べられ、笑い声が木々に揺れる。
村中の人でピクニックを楽しんでいるようだった。
まにまにはその輪の中心にいたが、いつものように静かにしていた。
ただ、小さな声で——「よかった」とつぶやいた。
そこに、ひときわ大きな影が近づいた。
ユウトの父親だった。腕には包帯が巻かれていたが、表情は晴れていた。
「ありがとうな、まにまに……お前がいなきゃ、俺は今ここに立ってなかったかもしれない」
その言葉に、まにまには小さくうなずいた。
ユウトの母もやってきて、にこやかにお辞儀をする。
「息子もあなたにすごく助けられました。私たち家族、あなたに何度も救われました」
次に現れたのは、以前ユウトとナギを厳しく叱った大人たちだった。
「……あの時は、すまなかったな」
「子どもたちを守るつもりだったが、誤解していた。謝らせてくれ」
まにまには、その言葉を静かに、けれど確かに受け止めた。
そして、少しだけ“笑った”ような音を出した。
「わたしも、ここで皆さんに出会えたこと、幸せに思っています」
宴が進むにつれ、空はゆっくりと茜色に染まっていった。
縁もたけなわの頃——
まにまには、そばにいたユウト、ナギ、そしてソウマに向き直った。
少しの沈黙。
まにまには言葉を探していた。
——夢ってあるの?
以前、ユウトにふと尋ねられたその言葉が、ずっと胸に残っていた。
「……わたしのようなものが、こんなことを言ってよいのかわかりませんが——」
静かに、けれど確かな声でまにまには言った。
「……わたしにも、夢ができました。
聞いていただけますか?」
三人は同時にうなずいた。ナギの目が、やさしく細められる。
「わたしは——動きたいです。
動いて、皆さんと一緒に、いろいろな景色を見てみたいのです」
3人の顔がパアッと明るくなった。
ソウマが一歩前に出て、力強く言った。
「……だったら、それ、みんなで叶えないか!」
場が一瞬静まり返り、そして——
「やろうぜ!」
「まにまにを、動かしてやろう!」
「まにまにに景色を見せよう!」
村人たちのあちこちから、声が重なる。
笑いながら、頷きながら、まるで誰もが同じ夢を見始めたように。
まにまには、ただそこに静かに佇んでいた。
けれど、その“顔”のあたりが、確かに少しだけ、揺れて見えた。
「……ありがとうございます。わたし、うれしいです」
風が、森を吹き抜けた。
夢という言葉は、ただの未来ではなく、誰かとつながる約束になっていた。