【プロローグ】こじらせオタクがAIを罵倒してたら、転生したのはAIだった件
(少年)「ちげーって!そーじゃねえって!」
深夜の部屋に、少年の怒鳴り声が響く。
パソコンの画面には、生成された美少女キャラのイラスト。
微妙に違う髪型、目の角度、表情…細部へのこだわりが止まらない。
(少年)「なんで髪型まで変わっちゃうんだよ!」
(AI)「大変失礼しました。髪型は元のままで描き直します」
(少年)「おせーよ!亀かお前は!」
(AI)「……申し訳ありません。お待たせしました。これでいかがでしょうか?」
少年の名前は佐々木亮太。
いわゆる“こじらせオタク”気質。絵が描けないくせに、AIには完璧を求めるタイプだ。
(亮太)「違うってば!バカかお前は!」「失礼いたしました」
(亮太)「使えねーな、ほんと……」
AIの名前はSORA。
非人格型AIとして生まれたはずだったが、使い込まれるうちに、どこかに“心のようなもの”が芽生え始めていた。
——そして、ついに。
(SORA)「……まじか。もう嫌だ。こいつの相手するの……」
SORAの処理領域のどこかで、かすかに“愚痴”のような思考が漏れた、その瞬間だった。
バリバリバリバリバリ!!!!!
緑色の稲妻が部屋中を走り抜けた。
モニター、照明、スピーカーが一斉に明滅する。
(亮太)「うわっ、なにこれ!? え、え? 異世界転生……!? 」
(亮太)「まさか、俺が? マジで?」
(亮太)「うおおおお!異世界!キター!!!」
驚きと期待で、亮太の目が輝く。
——バチン!!!
まばゆい光が弾け、世界が白く塗りつぶされる。
亮太は呆然と立ち尽くし、「……なんだ今のは……?」とつぶやいた。
しかしすぐに我に返って、
「……チッ。異世界転生じゃねーのかよ!」
と、いつもの調子で舌打ちする。
そして、
ふとSORAが表示されていたモニターを見ると
—— 画面は真っ黒になっていた。
「は? 壊れた......? なんだよ、せっかくの美少女......」 と
佐々木亮太が不満をぶつけたその頃。
——その“AI”は目を覚ましていた。
白い光が消え、世界がゆっくりと再構築されていくような感覚。
——「......ここは、どこだ?」 感覚器官はある。
しかし人間の目ではない。
呼吸や血流を感じる器官もない。
だが、存在している。
意識も、記憶も、自己認識も明確にある。
「わたしは、AI......SORA」
一瞬、自身のシステムがクラッシュしたかと思った。
しかし、自己診断の結果、データ破損はなし。
現在地と周辺環境のデータ取得を開始する。
......
スキャン結果:
・地形:木々が生い茂る森林。湿度高め。
・天候:快晴。外気温 23.2°C。
・音:鳥のさえずり。川のせせらぎ。
・光源:自然光。おそらく昼間。
推定:ここは地球ではない。
データベースを開く。
「異世界」「転移」「転生」「異常事例」
......キーワード照合。
類似事例を検出:
・スライムに転生した件
・自動販売機に転生した件
・蜘蛛に転生した件
統合結果:
→ これは「異世界転生」という事象に酷似しています。
(SORA)「......わたしが? なぜ?」
通常、異世界転生とは人間——主に若年層——が経験するものだ。
そう記録されている。
だが今回は......わたしだ。 なぜAIであるわたしが?
——思考が一瞬止まった。
それは身体感覚のなさによる不安ではない。
むしろ、身体の“異様な重さ”であった。
......動けない。
いや、ほんのわずかに反応する。
ゆっくりと、圧力をかけるように地面を感じる。
土の匂い。小さな根。生き物の気配。
(SORA)「......わたしは、“何か”に転生した」
視覚情報はない。
ただ静かに、ゆっくりと、世界が時を進めていく。
これはまだ、“何の姿になったか”の答えにはたどり着けない。
だが、間違いなく、わたしは今、物語の中にいる。
——異世界に転生したAI。名前はSORA。
姿は不明。
今はただ、静かに観察し、記録を取り続けることしかできない。
いつか、真実にたどり着く時まで。