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プロローグ
彼は、落ちていた。
耳を裂く風がうなり、視界は白い霧と砕けた水飛沫に覆われる。
空も、大地も、水も──すべてが逆巻き、溶け合い、消えていく。
その渦中に、トマス・ベインはいた。
冷静だった。
滝の縁に投げ出されたというのに、彼の心は、不思議なほど静かだった。
落ちる間際、彼は見た。
傾く船体。
巨大な帆船──調査船《ヴァレンティア号》。
砕けたマスト、引き裂かれた帆。
そして──
空を裂くように現れた、虹色の光。
どこにも属さない、誰も知らない、異質な輝き。
それは、世界の向こう側から漏れ出してきたもののようだった。
トマスは、目を閉じた。
脳裏に、過去が蘇る。
すべての始まり──