冷たい風
夜の冷たい風が、静まり返った村の外を吹き抜ける。翼とエルナは、物陰に身を潜めながら、森の中に潜む敵の動きを見極めようとしていた。
「……まだ動かないね。」エルナが小声でつぶやく。
慎重に頷きながら、暗闇に目を凝らした。敵は五人。それぞれが森の中に分散し、何かを待っている様子だった。普通ならばすぐに襲撃を仕掛けてきそうなものだが、彼らは慎重に機会を伺っているようだった。
「ただの山賊じゃないな。」翼は小声で言う。「計画的な動きだ。リーダー格のあの男……あいつが何かの指示を出している。」
鋼鉄製の片腕を持つ大男が、暗がりの中で低く何かを囁いているのが見えた。周囲の部下たちが、その指示に頷いている。
(何を待っている……? 増援か? それともリーナの動きを見ているのか?)
《サウンド・ミミック》を使い、少し離れた場所で物音を立てた。敵の反応を見るためだった。
「……何だ?」
敵のうち二人が音のした方向を気にするが、すぐに戻る。「違う、まだだ。合図があるまで待つぞ。」
「合図?」その言葉に眉をひそめた。
エルナがそっと翼の袖を引っ張る。「ねえ、あいつら、本当にリーナのことを狙ってるのかな? もしかして……他に目的が?」
翼は考え込む。確かに、リーナを狙うのなら、村の様子をもっと探るはずだ。だが、彼らは一定の距離を保ち、何かの指示を待っているようだった。
「とにかく、もう少し様子を見よう。」
二人はさらに慎重に敵の動きを見守り、隠れながら村の反対側へと回り込むことにした。
「リーナに関係する何かが、村にあるのかもしれない。」翼は小さくつぶやいた。
敵の目的が明確にならないまま、夜は更けていった——。