村へ連れ帰る
エルナを村へと連れ帰ると、すぐに村の医師の元へ運んだ。診察の結果、幸いにも彼女の傷は軽傷で、衰弱していたものの、しっかり休めば回復すると言われた。
「とにかく、しばらく安静にしていれば大丈夫だよ。」
そう医師が告げると、ほっと胸をなで下ろした。
エルナは村の一室に寝かされ、翼とリーナが交代で看病することになった。食事を用意し、水を飲ませ、彼女が目を覚ますのを待つ。
そして、翌日——。
「……んっ……」
微かに身じろぎする気配に、翼が顔を向けると、エルナがゆっくりと目を開けた。琥珀色の瞳が天井をぼんやりと見つめ、次に翼の姿を認めると、驚いたように体をこわばらせた。
「お、お前……!」
「落ち着いてくれ。ここは安全だ。」
慌てて両手を上げ、敵意がないことを示す。だが、エルナは警戒したまま、体を縮こまらせた。
「君の名前は?」
しばらくの沈黙の後、エルナは小さく唇を開いた。
「……エルナ。」
「エルナか。俺は翼。ここはエルムの村ってところだ。」
ゆっくりと説明すると、エルナは周囲を見渡しながら、小さく息をついた。
「私は……どこに行けばいいの……?」
その問いに、言葉を詰まらせた。エルナがどこから来たのか、なぜ森の外れで倒れていたのか、それをまだ聞ける状態ではない。
その時、リーナが入ってきた。
「目が覚めたのね。エルナ、あなたのことを村長に相談したの。しばらく村にいてもいいって。」
「……いいの?」
エルナの目がわずかに揺れる。彼女はまだ完全に警戒を解いたわけではないが、拒絶されなかったことに少し驚いているようだった。
「もちろん。無理に話さなくてもいい。でも、君が困っているなら、力になりたいんだ。」
翼の言葉に、エルナは少しだけ表情を緩めた。
「……ありがと……。」
こうして、獣耳の少女エルナはエルムの村での生活を始めることになった——。