草むらの奥から
草むらの奥から現れた影に息を呑んだ。
鋭い牙を持つ狼のような魔物——灰色の体毛に覆われ、目は血のように赤い。翼は本能的に後ずさった。
『冷静に。魔物の習性を分析します……この個体は単独行動が多く、縄張り意識が強い。威嚇すれば撃退できる可能性があります。』
「威嚇って……どうすればいい?」
『大きな音を立て、相手を怯ませてください。手持ちの石を投げるのも有効です。』
地面から適当な石を拾い、思い切り投げた。石は魔物の額をかすめ、地面に落ちる。
「グルルル……!」
しかし、効果はなかった。魔物は低く唸りながら、じりじりと距離を詰めてくる。
「やばい、逃げるしか——」
その瞬間——
「《ファイアボルト》!」
轟音とともに炎の弾が魔物を直撃した。魔物は悲鳴を上げ、すぐに逃げ去る。
驚き、声の方を振り向くと、そこには一人の少女が立っていた。
肩まで伸びた栗色の髪に、緑色の瞳。軽装のローブを身にまとい、腰には小さな杖を差している。
「大丈夫? 怪我はない?」
「あ、ありがとう……助かった……」
息を整えながら礼を言った。少女は安心したように微笑む。
「あなた、こんなところで何してるの?」
「それは……俺にもよく分からないんだ。」
困惑しながら翼が答えると、少女は小首をかしげた。
「とりあえず、ここは危ないから私の村に来ない? あなた、旅人でしょ?」
「……まあ、そんなところかな。」
本当のことを話すわけにもいかず、曖昧に答える。
「私はリーナ。こっちよ。」
リーナと名乗った少女に導かれ、未知の世界の最初の村へと足を踏み入れることになった。