森の奥へ
翼たちは森の奥へと足を踏み入れた。
昨夜の襲撃者たちの痕跡を探しながら進んでいくと、地面には踏み荒らされた跡や折れた枝が点々と残されていた。襲撃者たちがここを通ったことは間違いない。しかし、それ以上に気になるものがあった。
「翼、こっち!」
エルナが指さした先には、焼け焦げた地面が広がっていた。まるで何かが燃え尽きたかのような痕跡だ。
「……これは?」
リーナが不安そうに翼の袖をつかむ。
本当はリーナを連れていくつもりはなかったが、どうしても気になると言う事を聞いてくれなかった。
翼はしゃがみ込み、地面を慎重に調べた。
「ただの火じゃないな。炎で燃えたというより、何かが高熱で焼き尽くされたような感じだ。」
エルナもその場にしゃがみこみ、地面を指でなぞる。
「しかも、焦げた跡の周りに魔力の残滓がある。誰かが魔法を使ったんじゃない?」
翼は考え込む。リーナが襲われたこと、そしてこの異常な痕跡——何かが関係しているのは確かだった。
「この痕跡、リーナが助けられた日にもあったのかな?」
翼が村の老人の話を思い出しながらつぶやくと、リーナは小さく首を振った。
「わからない……私は倒れていたし、意識が戻ったときには村にいたから。でも、もしかしたら……。」
リーナは何かを思い出そうとするように目を閉じる。そして、しばらくして再び目を開いた。
「……誰かが、私を狙っていた気がする。でも、それが誰なのか、何の目的なのか……思い出せないの。」
翼はリーナの言葉に耳を傾けながら、周囲の様子を改めて確認する。
(リーナの記憶が戻れば、もっと手がかりが得られるかもしれない。でも、今は情報が足りない……。)
そのとき——。
「っ!? 誰かいる!」
エルナが突然ナイフを構え、木々の奥を睨みつける。翼もすぐに警戒し、リーナを守るように立ち位置を変えた。
ガサッ。
木々の間から現れたのは、フードを深くかぶった人物だった。その人物はゆっくりと歩み寄り、静かに口を開く。
「……探していたよ。」
低く、落ち着いた声。それは明らかに、リーナに向けられたものだった。
「あなた……誰?」
リーナが警戒しながら問いかける。しかし、フードの男は答えず、ただ静かに彼女を見つめていた。
翼はその男の動きを観察しながら、手をゆっくりと剣の柄に伸ばす。
「リーナを狙っているのか?」
男はしばらくの沈黙の後、ふっと笑った。
「狙う、か……そういうわけではない。ただ、お前たちがどこまで知っているのかを確かめに来た。」
「何を知っているのか、だと?」
翼は警戒を強める。しかし、男はそれ以上何も言わず、ただじっと彼らを見つめ続けた。
「リーナ、お前は——」
男が言葉を紡ぎかけた瞬間——
「危ない!」
エルナが叫び、翼とリーナを後ろへ押しやる。同時に、男の足元から黒い影が這い上がり、彼を包み込んだ。
「くっ……!」
男はその影に飲み込まれるように消えていく。その直前、彼は最後にこう呟いた。
「……リーナ、お前は“鍵”だ。」
そして、完全にその場から姿を消した。
「今の……何?」
リーナが震える声で尋ねる。翼は剣を握りしめながら、消えた男のいた場所を睨みつけた。
(“鍵”……? いったい、どういう意味だ?)
謎はさらに深まるばかりだった——。