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地味で気弱な僕が初めてリーダーシップを発揮した話

作者: こま

 それは今から遡ること、二十数年前。 高校最後の夏の終わり。。。

 その前に当時の僕がどんなだったかというと。 気が弱くて地味、これに尽きる。

 僕らの時代もいわゆる学校内カーストみたいなものが存在してて、 もれなく僕はその下層に位置していた。地味Sジミーズとでも呼んでおこう。

 もちろんそれとは逆の存在、派手で目立ってちょっとヤンチャな感じの奴ら派手Sハデーズも存在する。その取り巻きのハデーズJrも(笑)

 僕らの学校は秋口に体育祭があり、それが我が校のメインイベントだったりする。競技以外で目玉となるのは応援合戦。ダンスや演武など各チームが趣向を凝らし格好良さを競うイベント。もちろんジミーズの僕は応援合戦のメンバーからは外れている。

 そういう選に漏れたやつらは何をするかというと、もう一つの目玉、パネル作成。思い思いの絵を描いた大きなパネル(縦4m、横6mぐらい)をチーム席のバックに設置し、その出来でポイントが入る。

 これはそのパネル作成の時のお話。


 ミーン、ミン、ミン。


 高校最後の夏休み、進学する生徒はもれなく必要科目の補習に出る。数学の時間、授業も上の空。ぼーっと窓の外を眺める僕。

 だってそこには「あの子」がいたから。

 女子生徒が何名か中庭に板を何枚も並べ、一生懸命絵を描いている。 体育祭のパネルらしい。あの子は文系に進学する。 文系の子たちは必要のない数学の補習には出なくていいのだ。

 真面目で少し不思議ちゃんで大人しい、そんなあの子はもちろんジミーズ。だからパネルを描いている。

 体育祭なんて面倒臭いし、ジミーズの僕には関係ない。でもラッキーだったことがただ一つ。クラスの違うあの子と同じチームになれたこと。 そもそも文系と理系ではクラスが違う。でも、体育祭のチームは2クラス合同。

 なんとまぁ神様の粋な計らいによって、あの子のクラスと同じチームになった。・・・だからと言って何の接点もない。ただ、照りつける日差しの中、パネルに絵を描いてるあの子を眺めるだけ。

 そんな日が何日も過ぎ、2学期が始まり体育祭が迫ってくる。

 日が経つにつれ、何の絵かがわかってくる。大海原を行く船の絵。その船の絵の上から書かれた「voyage」の文字。 今年卒業する僕達にピッタリの「航海」の文字。

 ハデーズの男女は応援合戦の練習に勤しみ、ジミーズの女子はパネルに絵を描く。 ジミーズの男子は未だ出番なし。


 そんな僕らに出番が回ってきたのはなんと体育祭前日! パネルの絵を木枠に打ち付けろとのお達し。木枠は先んじてハデーズJrが作成済みとの事。

「ほら、地味なお前らでもパネルを張り付けるぐらいは出来るだろ?」って事なんだろう。

 とはいえ、あの子たちが描いた大事な絵。しっかりやらねばと静かに気合を入れる。


 そんな時事件は発生した。

 なんと、ハデーズJrが作った木枠がグラグラなのだ。こんな枠、立てた瞬間に崩れてしまう。たぶんその前に絵が割れてしまうだろう。

 呆然と立ち尽くすジミーズ男女。

 特に女子のなんとも言えないつらそうな顔は、それまで何もしていなかった僕たちジミーズ男子の胸をも締め付ける。

 立ち尽くしてからどのぐらい時間がたっただろう。そこに現れたのが応援合戦の最終練習を終えたハデーズのリーダー、応援団長というやつ。あの子のクラスの人気者、ちょっとヤンチャそうだけど行動力があって、いつも人の輪の中心にいる彼だ。


派手「どうしたの?」

地味「いや、木枠がグラグラで・・・」

派手「ん、こんなの簡単じゃん」


 無造作にパネルの絵を数枚打ち付け、「じゃ、後は頼むから」 颯爽と去っていく。

 後に残ったのはガタガタの枠に打ち付けられたズレズレの絵。


・・・しばしの沈黙。

・・・っうっ、ぐっ・・・、うぇ・・・

 ん、見るとジミーズ女子のリーダーSさんが顔を覆っている。

 声にならない嗚咽だけがその場に響く。

 そして少しずつ、一人二人と広がっていく。


「いやだ・・・」

 不意に心の中に沸き上がった小さな声。それがどんどん大きくなってくる。


 いやだ、イヤダ、イヤダイヤダイヤダイヤ・・・・


 何故だかわからないけど、その状態が無性に嫌だった。

 泣いている女の子がいる事が嫌だった。

「とにかくその涙を止めなきゃいけない!」

 そんな風に思ったとき僕の中で何かが弾ける音がした。

「外そう!」

「えっ?」

「一回外そう!!」

 みんなキョトンとしている中、無造作に打ち付けられた絵を外す。何人かがそれに続く。

「で、どうするの?」

「うん、どうしよう。。。」

 当たり前のノープランだ。

 与えられた時間は数時間、木枠を作り直す時間も材料もない。

 そんな中、男子の一人W君から提案が。

 ぐらついている部分に添え木を当てるのはどうだろうか。

 うん、これなら残った材料で行ける!一も二もなく即採用!

「うん、やってみよう!」

 まずは一か所補強する。

 グラつきがおさまった。

 これならいけそうだ。

 どうかな?て感じで視線を向けるW君に対して

「よし、これで行こう!」

 補強作戦の始まりだ。


 W君の指示のもと、木枠を補強する男子。 僕は作業に入らず全体を眺める。 そして不安そうに作業をしている男子のところに行ってチェックする。


 そうこうしているうちに4つある木枠のうち1つが完成。


「よし、じゃぁこれに絵を張って行こう!」


 手すきの男子に指示を出す。


 残りの木枠も補強し終わり、最後はみんなで絵を張っていく。 4つの木枠に綺麗に張られた航海の絵。 みんな声には出さない。 でも、聞こえる声。


「やった!!!」


作業を終えた男子の顔から何とも言えない「やったった感」が溢れている。 女子の顔からは安堵の表情。 泣いている子はもういない。


 その後も作業は続いた。グラウンドに足場を組んでその足場に木枠を張り付けていく。 結構な大仕事だ。重みで歪みそうな木枠を太い針金で足場にしっかりと結び付けていく。とにかく夢中で、声を掛け合い、助け合いながら。


 夕焼けの中、グラウンドに立つ大きな船を見たとき、僕たちの「やったった感」は最高潮になった。今まで成し遂げてこなかった僕たちにとっては大偉業。誇らしいようなちょっと恥ずかしいような、はにかんだ笑顔があちらこちらに咲いている。


 お腹いっぱいだ、帰ってお風呂にでも入ろう。


 これまでにない充実感の中、汗だくの体操着を着替えて帰ろうとすると、女子が二人話しているのが見える。 リーダーのSさんとあの子だ。


 やばい・・・急に我に返る。


 何も声をかけずに帰るのも変な気もするし、だからと言ってこれまで親しく話したこともないし。。。 通り過ぎる瞬間、やっと出せた言葉は一言だけ。


「おつかれさん」


  我ながらなんとも情けない話だ。向こうの返事も待たず、高鳴る心臓に従って足早に歩く。


「ありがとう!」


 響く二人の声。


 どれだけ後ろを振り返りたかった事か、笑顔を見たかったことか、話しかけたかったことか、想いを伝えたかったことか。


 でも、僕に出来たのは背を向けたまま手を振ることだけだった。


 たったそれだけのお話。もちろんその後、僕とあの子が親しくなったとか付き合ったとかいう話は一切ない。会話もしていないと思う。ただ、卒業アルバムにあの子がパネルの事を「忘れられない思い出」として書いてくれた。それだけで十分だ。


 ちなみに、僕たちのパネルはもちろん1位に選ばれた。


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