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響命未來  作者: アマビエの案山子
第一章
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四話 美山中学校 全校朝礼

 翌日、糸桜姉妹の通う美山中学校では、毎週水曜の朝にある全校朝礼が体育館にて行われていた。


「———とのことなので、皆さんも十分に気をつけるように。それでは最後に校長先生のお話です。檜山(ひやま)校長よろしくお願いします」



「えー。皆さんおはようございます。近頃は段々と寒くなってきま———」


「ねぇねぇ、心…!」


「…なに?」


 美山中学教頭が朝礼を進行し、校長が話を始める中、心は隣のクラスの友人である百崎(ももさき) 桃香(ももか)と密やかに会話をしていた。


「なんで岸戸(きしど)君の告白断ったの?本当に付き合わないの?」


 その質問を耳にした途端、心はつまらなそうに前に向き直る。というのも、告白をされてからの一週間、心の周りではその話題で持ちきりとなり、すでに心底うんざりしていたのだった。


 それでもなお、諦めずに絡んでくる桃香に対し、心は完全に無視を決め込み、普段は退屈な校長の話に意識を集中する。


「学校の周りの木々も色付いて———」


 告白の件よりかは幾分かマシな校長の話に今だけは感謝し耳を傾けていると


「[ここがイイんでしょ?]」


「ヒャウッ!?」


 突然桃香に首筋を指で撫でられ、変な声を上げる心。


 心は周りの視線が自分に集まったのを感じ、ニヤニヤしている桃香に対して怒りと羞恥で赤面しながら小声で問いかける。


「ちょっと桃香…!どういうつもり…!?」


「だって、ずっと話しかけてるのに無視するんだもん」


「だからって言霊まで使うことないでしょ…!あなたの言霊、心臓に悪いのよ…!」


 百崎 桃香が使用した言霊は、<感>の〈感じさせる〉能力である。


 日本人は皆生まれた時点で漢字を一つ以上所持している。その漢字の意味を逸脱しない範疇で能力を設定し、その能力を明確に想像しながら詠唱を行うことで、発動することができる。これを現代の日本では言霊術と呼び、人々の生活の根幹を成している。


 桃香の〈感じさせる〉に関して、何をどう感じさせるのかは、彼女本人と受けた者のみぞ知るといったところである。


「それに、もうあの件の話にはうんざりなのよ…!周りはみんないじってくるし、一部の女子からは妬まれるし…」


「あー…だろうね。岸戸君人気あるし。でも実際、良物件だと思うけどな。文武両道才色兼備。大企業の息子でありながらそのことをひけらかさないし、人当たりも良いから友達も多い。あと何せ優秀。二年の時点で、もうあの言霊高専への推薦も可能性があるって話じゃん」


「だからーー、私恋愛には興味ないんだって。もう、そういうキラキラした恋とか愛とかじゃ、若い子たちみたいにはしゃげないのよ」


 心は桃香にそう言いながら、呆れた表情でやれやれといった手振りをとる。


 心の大人びた言動に対して逆に呆れた表情になった桃香が


「そのませた感じ、昔から変わらないね。まぁ心がいいならいいけど」


 と、小学生から縁がある友人に対しそう告げる。


 そこで会話が一区切りつき、心は校長の話に再び耳を傾ける。


「———といいます。元々、紅葉というのは、葉が紅く変わるものを紅葉。黄色く変わるものは黄葉と———」


「そういえばさ」


 心が時計を眺めながら校長の話を聞き流していると、再び桃香が話しかけてきた。


「ん?」


 退屈な時間を紛らわすために、今度は返事をする。


「この前のYANAGY(ヤナギ―)の動画見た?」


「いや、見てないけど。何やってたの?」


 YANAGYとは、動画配信プラットフォームにて動画を投稿をしている投稿者の一人である。


「すごかったよー。『紛争地で路上ライブしてみた!』」


「なにそれ…。やっぱりあの人無茶苦茶だよね…」


 別世界に住んでいるとも捉えられる存在を思い浮かべ、心は呆れ交じりの笑みを浮かべる。


「ねー。思いっきり戦いの最中なのに、全く攻撃に当たらないし、爆音とかすら演出に見えるし。ヤラセとも思わせない妙なリアルさもあるし」


「それに歌もめっちゃ上手かったよね?」


 YANAGYは、所謂マルチクリエイターという種類の配信者で、企画やゲーム、歌などの幅広いジャンルを自由に動画化し、サイトにアップロードしている。


心はそのことを思い出しながら、彼のチャンネルに上がっている歌動画を思い浮かべていた。


「そうそう!凄いよ、あの臨場感。やっぱり言霊術、使ってるのかなー?」


「まぁ、そうでしょ。じゃないとしたら本物の天才だよ」


「だねー」


「……」


 そこで話題が底を突き、再び校長の話に二人は耳を傾ける。


「———といえば、紅葉は短歌・和歌などにも日本古来からの非常に趣深い———」


(校長、まだ紅葉について話してる)


 檜山校長の話の長さといえば、他校にまで知れ渡るほどに有名な話であり、よほどの真面目か物好きでないと熱心に聞く集中力はもたないのである。


 心は周りにも校長の話を聞いている生徒がいないことに、呆れながらため息を吐く。そして、暇潰しのために今度は自分から桃香に話を振る。


「そういえばさ。最近、学校を狙った犯罪が増えてるらしいね」


「あぁ。今朝ニュースでやってたかも。物騒だよね」


「ねー。東京周辺では、学生のデモ運動も収まらないって聞くし。最近だと、どこだったかの学園祭も襲撃にあったとか…!」


「うわー、最悪じゃん」


 現在の日本は、政府の方針に対して反感の意を示している学生の集団が、言霊を攻撃的に使用し抗議を行う学生デモや、裏社会で暗躍している組織が複数存在しているという噂などが横行し、治安が良いとはお世辞にも言えない状況に置かれている。


 東京などの都心では特に問題が激しく、それらを鎮圧するために“軍”という組織が設立されている。反社会派勢力と軍の戦闘は熾烈を極めることもしばしばある。 そのため、人手不足に喘いでいる軍は、日本各地に設立されている日本言霊高等専門学校の言霊軍事科から有能な人材を募っている。


「都会って便利なんだろうけど、怖いねぇ。それに比べて茨城の田舎のなんたる平和な事か…」


「治安悪いよりは良いことじゃん」


「まぁソダネー」


 若干不服そうな返事をする桃香であったが、心もその心境は察する所があったのか


「落ち着いたら、遊びに行こうね」


と、笑いかけながら提案する。


 それに対し桃香が


「そうね。早く落ち着いて欲しいわ…」


と、少し遠い目をしながら呟いたところで


「———校庭を見れば、落ち葉なども「校長先生のお話の途中ですが、全校朝礼を終了したいと思います。それでは三年生から———」教頭…?」


教頭が校長の話を遮り、体育館からの退出を言い渡したことで、三年生の生徒達が出口に向かって歩き出した。


 不満ありげな校長を相手する教師は一人もおらず、不貞腐れている学校のトップを遠目に眺めながら、心達二年生も出口へ向かって歩き出すのだった。

※この物語はほたての時代との共同制作となります。この作品は「選択未来」のスピンオフです。

同設定でほたての時代が書いた原作もありますのでよければ下記のURLからそちらもご覧ください。

https://ncode.syosetu.com/n0782id/

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