プロローグ
「奨水君、一つお話をしてあげよう。僕と同じ心のお医者さん達の話だ………
その昔、戦争が終息した直後の話。日本国内で繰り広げられた、言霊使い達の激しい戦い。山の木々は燃え尽き、いくつもの都市が廃墟と化して、それはそれは見るも無残な惨状になっていた。生き残った人々も、大切な人を奪われた者ばかり…お腹も心も満たされず、日本は真っ暗に落ち込んでいった。
しかし、その状況から、今の明るいこの街のように日本を生き返らせた者達がいた。ある者は、歌で。またある者は、話で。人々へ語りかけ、苦しみを分かち合った。人々の心に、「命」に、その者たちの言葉が響いたんだ。悲しみと怒りが爆発し、生の喜びが溢れ出しその者達と人々は朝まで泣いた。その言葉は、少し前まで暗く淀んでいた街に光をもたらした。その光は街から都市へ…野を越え山を越え、やがて日本全土に広がっていった。この現象を人々は「響命」と名付け、その者達を敬意を込めて“響命者”と呼ぶことにした。
………病んで心を閉ざしてしまった人も、決して死んでいるわけじゃない。僕はね、そんな人達の心に潤いをもたらせられる、この話の響命者達のような医者でありたいと思っているんだ。奨水、君の名前は「ほめて、元気付ける」という意味の「奨」と「清く美しく潤いをもたらせる」という意味の「水」からできている。君は、自分のやりたいことをやって自由に生きてくれれば良い。ただ…ただ、もし君の前に心の病に苦しんでいる人が現れたら、力になってあげてほしい。これだけが僕たちの願いだ。その時が来たら…どうか…この話を[お———」
この話を聞いたのが僕の父に関する最古の記憶。僕はこの時点で精神科医になることを決めていたのだと思う。
※この物語はほたての時代との共同制作となります。この作品は「選択未来」のスピンオフです。
同設定でほたての時代が書いた原作もありますのでよければ下記のURLからそちらもご覧ください。
https://ncode.syosetu.com/n0782id/