君が贈った『かくれんぼ』
またまた夏のホラー2021に書かせていただきました。
妻の幽霊が口にする『かくれんぼ』の謎。
夫は果たして解けるのか。
またも怖いけど怖くない、少し怖いホラーになります。
よろしければお楽しみください。
ーー探して……。見つけて……。
蓮梨、何をだ? 何を探せばいいんだ?
ーーかくれんぼ、だよ。
かくれんぼ? お前を見つけろって言うのか?
でもお前はもう死んでるじゃないか。
葬式もして納骨もして、三回忌も済ませたのに。
今更お前の何を探すんだ?
ーーかくれんぼ、だよ。
妻・蓮梨の幽霊が家の中に現れるようになったのは、蓮梨を送って三年目の盆の入りの日だった。
先祖が帰ってくる日とは聞いていたが、まさか蓮梨が生前の姿で現れるとは。
しかし様子がおかしい。
ーー探して。
ーー見つけて。
ーーかくれんぼ、だよ。
そう繰り返すだけだ。
何か心残りのものがあるのだろうかと、棺に入れなかった私物や、思い出の品などを並べてみたが、蓮梨の様子は変わらない。
何を探せばいいのか。
何を見つければいいのか。
何が蓮梨の魂を安らかにするのか。
「お盆が、終わるな……」
それまでに見つけられなかったらどうなるのか。
蓮梨はあの世に帰るのか?
それとも未練のままこの家に残るのか?
……私を連れて行くのかもしれない。
「見つけないと……」
わかるのはこの家の中にあるだろうという事だけ。
もう少しヒントがほしい。
かくれんぼ、と言っているが、それが何を意味するのか……。
「なぁ蓮梨、探してほしいものって何なんだ?」
ーーかくれんぼ、だよ。
「……かくれんぼ、ねぇ……」
蓮梨は病弱で、あまり家から出られなかった。
その分本を読み、様々な知識を持っていた。
よく私を、言葉遊びや謎かけでからかったものだ。
だとしたらこの『かくれんぼ』も何かの謎かけや暗示なのだろうか。
「かくれんぼ……」
鬼……。
隠れる……。
もういいかい……。
まぁだだよ……。
見ぃつけた……。
ダメだ。何も思いつかない。
「!?」
物音に振り返ると、本棚から本が落ちていた。
間に挟まれていたのか、見慣れない封筒が目に入った。
「……もしかして、これか?」
封はしていない。
中には普通の便箋が一枚。
『陽善さん
あなたの妻にしてくれてありがとう!
お陰でお医者さんの見立てより、三年も長生きできちゃった!
あなたの妻でいた五年間、本当に幸せだった!
大好き! 愛してる!
私は本当に満足してるよ!
だから私が死んだ後は、新しい奥さんを見つけて幸せになって。
私を想って一人でいないで。
まだ若いし、いい男なんだから、すぐ再婚できるって!
私が保証する!
世界で一番大好きな旦那様だもん!
私の最後のわがまま。
お願いね。
蓮梨』
「おい、蓮、梨……」
読み終えた時、蓮梨の姿はなかった。
このためだけに来ていたのか……?
私に先に進ませるために……。
「……しかし何だって『かくれんぼ』だったんだ? これなら宝探しじゃないのか?」
まだどこかに蓮梨がいる気がして、大声で呟きながら、落ちた本を拾い上げる。
「……あぁ、そういう事か……」
本は恋の詩集『戀慕の聲』。
蓮梨からの最後のラブレターに、我知らず涙がこぼれた。
読了ありがとうございます。
答えはわかりましたか?
つまり『かくれんぼ』ではなく、『かく れんぼ』だった訳です。
旦那との最後の言葉遊びでした。
あんまり早く見つかっても、側にいられなくなるから、というのもありまして、やたら面倒くさい事をしてました。
ほんのり優しく哀しい幽霊譚、いかがでしたでしょうか?
こんなホラーもあっていいのかな、と。
え、こんなのホラーじゃない?
でしたら翌年のお盆に、嫁どころか彼女もいない陽善に業を煮やした蓮梨が、自殺志願の女の子に「死ぬくらいなら身体貸して!」と取り憑いて、「陽善さん、私と結婚して!」と迫るホラーを……。
もしくは順当に再婚したところでお腹の子どもに転生して「パパ大好きっ」と迫るホラーか……。
……ラブコメにしかならなさそう……。
2021/7/16
『死んだ妻がお盆に嫁を連れて来た』(連載)
https://ncode.syosetu.com/n0922hc/
ラブよりコメディーの濃いものができました。
この余韻で十分という方は、どうかお読みになりませんように……。