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エルフはセクハラなんかに負けません


 地球上のどの国よりも、法の支配がかぎりなくゆるい王国で。


「るーしぃー、セクハラ選手権開催してもいーい?」


 世界統一王国の第三皇女リーズリットは、その権力を思う存分振るっていた。

 人通りが少ないとはいえ、回廊の出会い頭に行うような問いかけではない。


「上司の発言としては最低の部類ですが、なにか釈明することはあります?」


 仕事が一段落した夕暮れ時に襲来した悪の権化に、ルーシーは薄い笑みを貼りつけたまま対応する。

 そんな専属メイドの寒々しさなど気にもせずに、リーズリットは楽しそうに両手をパーにして掲げて言った。


「ぜんぶで10個のセクハラをするから、耐え切れたらルーシーの勝ち!」


「ああ、私が選手なのですね。では、参加を辞退させていただきたいと思います」


「でも気をつけて、セクハラのレベルはどんどん上がっていくよぉ♪」


「あれ、リズ様、お耳が取れてしまったのかしら?」


「セクハラに耐えられなくてギブアップしたくなったら、この×(ばつ)印の札を挙げてね」


×(ばつ)


 クイズ番組で使われそうな、大きくバツ印の描かれた札だ。

 それを手渡されたルーシーが、即座に、よく見えるようにリーズリットの眼前に札を掲げる。


「よーし、選手の準備はバッチリだ! さっそくレベル1のセクハラが執行されるぜっ」


×(ばつ)ですよー、リズ様ー? お目々も腐ってしまいました?」


 札を左右にふりふりするルーシーを無視して、リーズリットは跳ねるように動き。


「おっ、今日のパンツは白か」


「ふぇ?」


 ルーシーのメイド服のスカートを、がっと掴んでがばっと持ち上げる。

 広がったスカートの屋根の下、ひかえめに張ったお尻を隠す純白の下着から、それに劣らぬ白さが眩しい脚がすらりと伸びていた。


「もっと色気のあるやつ穿いてこーいっ!」


「ひゃうんっ!?」


 ぱちん、と軽快な音が回廊に響く。


 唐突に下着を晒されたうえに、思いっきりお尻を(はた)かれたルーシー。

 目をぱちくりさせる様子は、不憫と言うよりほかない。


「ルーシー選手、レベル1をクリア! 幸先のいいスタートを切ったぁ!」


「ちょっ、ちょっと待ってくださいっ……!」


「なによ、もう。選手権は序盤も序盤、まだレベル1なんだけど?」


「えっと、びっくりしちゃって、気持ちの整理が……」


 ひるがえって乱れたスカートの上からお尻を擦りながら、ルーシーは狼狽(うろた)える。

 先ほどの羞恥による頬の赤らみが、ここに来て現れていく。


「ちっ、とろくせーなぁ、けつかっちんだぁ早く話せよなぁ」


「はい、威圧的な態度×(ばつ)です。あのですね、リズ様がお尻たたきをレベル1だと考えていることが恐怖なのです」


「どうして?」


「その一点の曇りもない眼差しが、なおさら恐ろしいのですが……」


 もしかしたらリーズリットに悪気などなく、遊びの延長として捉えているのかもしれない。

 どちらにしても、たちが悪いことに変わりはない。


「あのちょっとした挨拶でセクハラだなんだの、最近のエルフはお高くとまってしょうがねーや」


「社会的風潮との乖離×(ばつ)です。えっと、先に聞いておきたいのですが、レベル10はどんなセクハラですか?」


「××××に乗せたまま××××しながら××××のオンパレード」


 ルーシーの問いに、平然とした顔で答えるリーズリット。


 検閲のために載せられない言葉だらけで頭を抱えざるを得なかったのだが、ぜひ想像しうる卑猥な単語を当てはめてみてほしい。

 その想像から百倍はエグいものが、伏せ字の中に隠されている。


「たぁすけてぇぇええーーーぇっ! だれかっ、だれかいないのっ!? ×(ばつ)×(ばつ)×(ばつ)×(ばつ)ぅっ、(けが)されるぅぅうううぅうっ!」


「大げさだなぁ、ルーシーは」


「自分勝手な裁量×(ばつ)ぅぅぅうっ――!」


 リーズリットに掴まれたメイド服を脱がんとする勢いで、ルーシーはその場からの撤退を図る。

 だが、第三皇女の魔の手から逃れられるはずもなく。

 助けを求めて泣き叫ぶルーシーの悲鳴は、広い回廊に反響して、やがて消えていくのだった。


 ひとつ、慰めになるかわからないが付け加えておくとしたら。

 ルーシーは、なにか大切なものを失ったかもしれない。

 しかし、その代わりに手に入れた“優勝”は、何ものにも代えがたい栄誉。

 この先強く生きていくための、糧になるであろう。たぶん。


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