2.青春
「こーへー。昼飯食いに行こうぜー。」
『幸平さま。皐月さん。本日もご機嫌麗しゅう。』
「おーよ。
ほら、昼飯行こうぜ皐月、んなしょげてないでさ。」
『ううう…。はい…マスター。
はあぁぁぁぁぁ…』
俺の名前は都築幸平
何の変哲も無い、第2学区高等一部の学生だ。
機霊は妖精タイプの皐月。
成績も普通。素行も普通。家庭環境も普通の一人暮らし一人っ子の凡凡人。
人と比べて並でない事があるとすれば…
それは最近見る「時代劇地味た夢」くらいのものだろう。
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『はあぁぁぁぁぁ…。
今日も全敗…。
マスター…皐月は悔しいです…。』
「はいはい。
別にそんな死ぬわけでもあるまいし。」
学生食堂で昼食を取りながらも、皐月の表情は晴れない。
今も人目を憚らず食卓の上でのたうちまわっている。
第2学区では、人間の学生は歴史や対人交渉力、機霊を介したトラブルなどの対人能力ついて経験を積み、機霊は数学、物理、簿記など、実務に直結する理解を深める。
皐月はそこで履修する「将棋」という完全情報ゲームが苦手らしく、目下全敗中。
高等部の全機霊中、ランキング最底辺をひた走っているのだとか。
『確かに生死には繋がりませんけど、機霊にとって対局の勝敗は自分の性能を示す一要因ですから…
私達にとっては忸怩たる思いですよ…』
「そうそう。幸平ももっと皐月ちゃんに優しくしないと。
愛想尽かされちまうぞ。」
そうテーブルの向こうから声を掛けてきたのは初等部からの友人とその機霊。
小島勇人と、女性天使タイプの弥生さんだ。
妖精タイプの皐月と違い、天使タイプの弥生さんは如何にも大人の女性と言った風体をしている。
噂では出産前のDNA検査だかなんだかで、先天的な好みを狙い撃ちするよう機霊を割り当てているらしいが、俺はその噂には懐疑的だ。
何故なら俺の好みは甘やかしてくれる年上のお姉さんであって、毎朝無理矢理叩き起こしてくる幼児体系女子では無いからだ。
勇人とは子供の頃から一緒だが、事ある毎に弥生さんといちゃつくのを見せ付けてくるのだけはマジで止めてほしい。
機霊との恋愛はよくある話だが、わざわざ俺に見せ付けてくるのは一体なんなのだろう。
ほら皐月も頬膨らまして見てるし…。
わ…あーんとかしてる。
ちょっとうらやま…げふんげふん!
いやいや、公衆の面前でなんとけしからん。
「そういえば幸平。何か将棋の夢を良く見るとか言ってなかったっけ?
まだ続いてんの?」
「続いてる…。マジ意味不明だよ。ちょっと怖い。」
「ふーん…
それ、皐月ちゃんが将棋で負け続きなのと関係あるんじゃね?
お前一回機霊の対局見に来てみろよ。
皐月ちゃんの頑張り見れば、その夢見も変わるかも知れないぞ?」
「は?」
『え?』
『それはいい考えですね!ご主人様!』
俺、皐月、弥生さんの順番で三者三様の反応を返す。
俺が?機霊の対局を?
「いやでも、俺将棋とか良くわからんぞ?
最低限のルールや歴史とかは流石にわかるけどさ。」
「大丈夫大丈夫!
俺もよく行くけど、全然わかって無いから。」
そうなんだよな…。
こいつの機霊愛もなかなかぶっ飛んでやがる…。よくやるわ。
「んー…。
でも皐月は平気なのか?俺行っても邪魔じゃね?」
『え、えっと…いえ…あの…べ、別に…いい…ですよ?』
くしくしと髪を弄り、俯きながらそう返してくる。
なんか不思議な態度だが、まぁ行って平気なら…行ってみようかな?
「ふーん…。
んじゃ明日の午後にでも見に行こうかな。
西校舎だったっけ?」
「よっし!
幸平もいつも皐月ちゃんにドライな態度だけど、対局する姿見れば真剣に考える横顔に惚れちゃうかもしれんぞー。
俺みたいに。」
「ははは。面白い冗談だ。
こんなちんちくりんに。」
『むうぅぅぅぅ!』
『あらあら。皐月ちゃん、どうどう』