【第二十話】 泉の水
僚太は泉を覗き込む、そして自らの体を手で探ると先ほどの傷跡や脇腹の痛みがない事を再確認する。
そして先程、ローズが泣きながら言っていたのだが、この泉の癒す力は誰にであるわけでは無いのだと断言していた。
「じゃなんで俺は助かったんだ......」
心当たりがあるとすれば何時もの幸運か、だが今回だけは運だけが働いたと考えるのは腑に落ちない。
そもそも僚太が助かったのなら、そしてローズが生きているのなら、スフスクがなぜ再び襲ってこないのだろうか。
エルフの森の泉を占領していたのは奴らも泉がもたらす効果を知っていたはずだ。
「なら、なぜ奴らは来ないんだよ」
瓶に栓をして近くに止めてある馬車まで運ぶ、僚太は妙な光景を目の当たりにする。
木の枝に引っ掛かりぶら下がっている男、後ろ姿だが嫌でも理解できてしまう、後ろから恐る恐る声を掛けると不機嫌そうな返答をする。
「なんだガキ、見てるなよ......」
緊張感が解けてからしばらくたつが、クロウを見た僚太は余計に安堵して声をだして控えめに笑う。
何とか地面へと足を着くクロウは事の経由を聞いてもいないのにしゃべりだす
が僚太は黙ってうなずいている。
簡単にまとめると、エルフの森はローズ達が去った後、大罪者の一人によって奪われたのだと、それを知っていたクロウは僚太達の様子を見に来たらしい。
それで意気揚々とカッコつけて帰ろうとしたら枝に引っ掛かったのだと。
「つまり、クロウ......あんたはレベッカと同じタイプか」
「おい、あいつと同じにするなよ!!」
遠まわしに哀れという言葉を僚太の優しさで使わなかったのだが、まぁこの話自体を聞いたらレベッカが可哀そうだとは言わない僚太、それも一つの優しさなのか。
再び声を荒げ始めるとローズがやって来る、手には鉈が。
「クロウ、何故? 貴方が此処にいるのですか」
「まぁあれだ、散歩だよ、何だよ!?」
何も聞いていないのに慌てるクロウ、というより散歩でここまで来る人間は恐らく存在しないだろう。
____森を出て昨日の村に寄る、だが村の人間が誰一人として見当たらない。
辺りの建物は苔が生えていて風化している、それを見ていたローズは屋敷の近くに馬車を止める。
やはりどの建物と同じように屋敷も苔や砂ぼこりが固まってついている。
散々見て回っていると、僚太の脇に並ぶローズがポツリと呟いた。
「昨日見た光景すらも大罪者の仕業なのでしょうか、人の弱みに付け込む、痛みを踏みにじる......」
見ていた僚太も怒りをどこに向ければいいのか分からず地面を睨みつける。
眠そうな顔を見せながら後を付いてきたクロウが頭を掻くと二人の想像をかき消す答えを持っていた。
「なんだお前ら、この辺りの人間は随分前にアルタイトに逃げたんじゃなかったか? つーか、この屋敷の執事、えーと」
名前をグリムス・アストロイ、かつて魔王軍に猛威を振るっていたアルタイト騎士団の団長だと言う。
今は団長の座を降りてアルタイトで執事をしているらしい、この屋敷で一人生き残った少女の面倒を三人のメイドとグリムスが見ているのだと付け加える。
「ローズ聞いたか? おいクロウもっと早く言えよな!!」
「なんだよ? 聞いてこなかったから言わなかっただけだろうが」
その後、黙って聞いていたローズは言い合いをする二人の仲裁に入る、そしてクロウと僚太の腕を引っ張ると馬車まで引きずっていった。
三人を乗せた馬車は再び走りだす、ひたすら進む事数時間。
息を上げはじめた馬の表情を確認すると街道の途中で馬車を止める、居眠りをしているクロウは瞼を開けると辺りを見回して。
「僚太とローズ、俺が今晩見張るからお前らは寝てろよ」
言い方に棘があるが優しさが無いわけじゃないのを知っている二人は素直に聞き入れる、いや、ローズだけは違った。
「あたりまえでしょう、先ほどから寝てたではありませんか?」
今回はクロウが黙って手をヒラヒラさせながら腕を組んで馬車の車輪に腰を掛ける。
____朝、鳥のさえずりで久しく目を覚ます僚太は馬車の近くでうずくまっているクロウを見つける、後ろから声を掛けるが返答はない。
よく見ると血が辺りに付いていて、僚太の額から汗が見え始める。
「おい、クロウ、どうしたんだよ?」
それでも返答をしないクロウの肩を掴むと声を掛ける、そして。
「あッッ間違ったじゃねぇかよ!! うるせ~んだよさっきから!!」
「えー俺のせいかよ、てかそもそも何してんだよクロウは!!」
わざと大きなため息を吐き出して見せると手には何かの肉だろうか、黒い小型の刃物で切り分けていたようだ。
機嫌が悪くなるクロウはそのまま肉を掴むと近くにあった焚火の燃えカスの中に投げ入れる。
それからどこかから戻ってきたローズがクロウの背中に跳び蹴りを決めると謎のうめき声を上げながら倒れた。




