【第十七話】 エルフ
屋敷の中庭から顔を出す三人のメイドはローズの顔を見るなり、大粒の涙を深緑の瞳から溢れ出させて駆けよってくると飛びついた。
「無事だったのですねッ!! アイナ様__」
ローズは一瞬だけ見せた穏やかな表情を曇らせると何時もの仏頂面に戻って三人を押し払いながら真紅の瞳を彼女達に向ける。
その再会と思われる光景を黙って見ていた僚太は、ローズに声をかけようとするのだがローズは片方の手のひらを見せながら上げると制止した。
「貴女達はエルフ、私とは違うのですよ? それに私は先ほどからローズと名乗っていますしアイナなる人物は知りませんね」
彼女達の内の青い髪のエルフは涙を堪えながら静かに口を開く、それは後悔と謝罪の言葉。
「アイナ様が怒るのは当然ですよね、あの森で禁忌を犯させてしまった事......わたし、わたし達は今まで謝りたかったんです、あの森でアイナ様をただ一人残して逃げ出した事も」
エルフの寿命は人間では計り知れないほどの命の長さだと言われていて、本来この世界のエルフは寿命を終える頃には英霊へと姿を変える事が出来ると言う。
ただそれはエルフと中でも名のある血筋を引き継いだ者しか資格はないそうだ。
そしてその者はエルフの森の泉を守るのが宿命なのだと。
「アイナ様がそのような姿になられたのは、わたし達の__」
それを黙って見ていた僚太は眉を上げるとまるで唾でも吐き捨てるかのように
口を開く、ローズを否定された事への怒りだろうか。
「あのよ、俺はアイナなんて人は知らないけどさ、ただ、否定はするな......」
「僚太_」
「つーかッ、あんたらアイナと生きてまた会えたのに第一声がそれかよ!!」
暫く続く罵詈雑言、まだ言い足りなさそうな僚太をローズがなだめる形で幕を下ろす。
__日が暮れた村の宿の部屋では僚太が正座を強いられている。
理由は至極簡単でこの村の屋敷での失態だ、ローズが腕を組んで正座する僚太を睨みつけながら述べる。
「それで、僚太は悪気はないと? なるほど、あれだけの事をなかなか言えませんよね、ちなみにアイナなんて私は知りませんし」
「あれは俺が悪いけどさ、ただアイナでもローズでも俺からしたらどっちでも関係ないんだよ」
首を横に振るローズは屈むと僚太の瞳を見つめる、それは額と額が付くかつかないかの距離。
心臓の鼓動が限界を迎えそうになるのを堪えると僚太は叫ぶと立ち上がる。
「うぁー近い!! 急になんだよ」
「チッ......あともう少しだったのに」
「何がだ!! てか女の人がそんな事を簡単にす、するなッ!!」
悪戯な笑顔を見せると、ありがとう、その一言を呟くと再び僚太を見つめる、ただ今度は真剣なまなざしでだ。
「アイナ、それは確かに私の名前です......ですが僚太、あなたは本当にどちらでもよろしいのですね?」
「あたりまえだよ、だって俺を慰めてくれた女性や励ましてくれた女性は、仮にアイナでもローズでも同じだろ? 中身がちがうわけじゃないんだからさ」
真紅の瞳がうるんだかのようになる、口に指を当てて直ぐに目を閉じると僚太へと一歩近づき声色が変わる、いやこれが本来の彼女かもしれない、優しそうな口調で。
「僚太君、今はアイナとして言うわね......あなたと会えて良かったです、それとシャルロット様があなたの事を連れてきた事を感謝します」
「ああ、うん、なんか改めて言われると恥ずかしいッての!!」
「最後に、これからもよろしくお願いしますね......」
瞳を開ける彼女は最後に微笑むと。
「あと、この事を誰かに言ったら......地獄の果てまで付いてってぶち殺しますからね?」
物騒な事を言う彼女は、軽く僚太の額に指を押し付けると、これで我慢しますと言って部屋を出て行くローズを見送って首を傾げるが、数分前の事を思い出して顔が朱色に変化する。
ベッドへと倒れた僚太は枕に顔を埋めるとそのまま唸っていた。
___次の朝、宿屋の出入り口で声をかけられる僚太は足を止める。
「そこの御仁、昨日はすみませんでした」
手袋を外して深々と頭を下げる人物は昨日の初老の男性で、整えられた白髪と随分と似合う髭が特徴、歳を感じさせない程の姿勢だ。
僚太も慌てて男性に頭をあげるように促す。
「いえ、俺も昨日は何も考えずに、すみません」
後からやって来たローズにも深々と頭を下げると、男性はすぐに屋敷の方へと行ってしまう。
それを見つめるローズの顔は浮かない表情で何かを言いたそうな顔をしている、見かねた僚太がローズの背中を押すと。
「本当は言いたかった事があったんじゃないのか?」
「いえ、いいんですよ」
煮え切らない態度に僚太がため息を吐く、そして大きな声で男性を呼び止めると男性が振り返る前には僚太がローズの腕を掴んで走り出す。
「ローズが何か伝えたいことがあるんですって!!」
「ちょっと僚太!!」
此方に振り向く男性は目尻にしわを寄せて微笑んでいてローズが口を開く前に男性が答えるとローズは頷いた。
「あの娘達にはよろしくお伝えください......私は決して恨んだりしていないって」
____エルフの森に近づくと辺りには霧が立ち込めていた。
そのまま深く進んでいくと、僚太の何時もの耳鳴りが始まる。
「なんか嫌な気がするんだけど、ローズ?」
彼女の視界に移る光景を見ようと視線を向ける僚太。
霧が晴れ始めると辺りには幾つもの建物が見えてくる、それをローズは確認するように見回すのだが。
首を傾げると急に馬車を止めた、飛び降りて走り始めた彼女の向かう方向に見慣れない男女が立っていた。




