【第十六話】 ローズの秘密
部屋の窓を開けると空気の入れ替えを行う僚太は、眠りに就いているシャルロットの額に手を当てて。
「昨日より悪化してるんじゃないのか.....」
そばの椅子に腰を掛けるローズは、暫く黙ったまま何かを考えている仕草をしている。
首を傾げる事おおよそ五分、ため息と同時に聞きなれない単語を言い放つ。
「私の故郷リユリュドの森にある泉、そこの静水ならシャルロット様のこの症状を何とか出来るかもしれません」
この屋敷から三日ほどかかる場所、ローズの故郷では病を治す万能の静水があると言う。
ただし、大罪者に襲われエルフが去ってしまった森のその泉が今もあるのかはローズにも分からないそうだ。
そして彼女は少しだけ躊躇した後、意を決すると重い口を開く。
「私は、あそこに行くのが怖いのです......大切な家族を置き去りにして私だけ生き長らえてしまった」
僚太は窓の向こうの世界に視線を向けたままローズの心に寄り添うように、そっと口を開く。
「ローズと会えて良かったと思ってるんだよ俺はさ、だから......だからこれからもよろしく」
そう言うと窓を閉める僚太はローズに視線を向けると、微笑む。
昨日とは違い僚太の顔は頼もしく感じられる、ローズが恐る恐る手を差し出すと。
「数日だけでよろしいです、数日だけ......私の従者になってくれますか?」
僚太は自らの胸を叩きならすと、親指を突き出して元気よくその手を引きながら。
「あぁ任せろ!!」
ローズが旅の支度をすると言って出て行った後、僚太はシャルロットの額を拭いて、桶に入る水を入れ替えに行くと伝えて部屋を出て行った。
今までの話を聞いていたのか、部屋で一人になったシャルロットは目を閉じたまま優しく呟いた。
「二人に迷惑かけちゃった......頼むわね」
__昼頃、食事を済ませた僚太は庭園に出ると大きく屈伸をする。
振り返りレベッカとフランカそしてクロウにシャルロットの事を頼むとフランカが駄々をこね始めた。
「私もいきましゅ、お手伝いしますよ!! 僚太様ぁ~ローズ様ぁ」
「ほら、フランカが手伝いしたい気持ちは分かるけどさ、僚太も困ってるじゃんか」
レベッカがフランカの頭を撫でると落ち着かせるが、横で眠たそうな男はフランカを見るなり何を思ったのか撫でる、すると今度はムスっとし始めて撫でる手を払う。
「クロウさんは嫌です!!」
「チッ、やっぱガキは嫌いだねぇ~、おい俺は寝るからさっさと行けよ~」
大あくびをするとさっさと屋敷の中に入って行ってしまった、それをフランカは舌をだしてあからさまな態度で見送る。
__暫くしてレベッカとフランカに見送られながら屋敷を後にする。
今回向かうのは屋敷から西の領土の境にあるエルフの森、リユリュドへと向かう二人、手綱を引くローズの横顔はどこか嬉しそうだ。
「どうしたんだローズ、なんかいいことあったのか?」
僚太に向けられる疑問に、ハッ、としたローズは咳払いをすると視線は彼に向けずに謝罪を口にする、ただ僚太はローズの微笑んだ理由だけが知りたかっただけみたいだが。
「シャルロット様の気持ちを知らずに私としたことが、心まで醜くなってしまったにでしょうか......すみませんシャルロット様」
「今日は様子が変だなぁ、ローズ?」
「いえ、何もないですし」
誤魔化すローズに首を傾げる僚太、どちらに罪があるかと聞かれればこの場合は後者か。
ほぼ何もない平坦な道をただひたすら進み景色が少し変わり始めた頃、ローズの横で居眠りをし始める僚太は今にも転げ落ちそうになっているが、チラチラと横目で確認しつつローズは呟く。
「僚太、僚太くん? 僚太様......僚__」
「さっきからどうしたんだ?」
「うひゃ!?」
何処から出したのか分からない高い声で狼狽するローズだが、寝ぼけているのか頭の上でクエスチョンマークが出てそうな顔を彼女に向ける僚太は、また眠りに落ちた。
「僚太......油断なりませんね」
そんな彼女の横で眠る彼は一体どんな夢を見ているのだろうか。
__馬車を走らせてから日が傾きかける頃、二人は村を見つける。
ローズが知っているみたいだ、観光では無いようだが。
「僚太......少しだけ寄ってもいいですか?」
「ここにか? うんいいよ」
この村の中央には屋敷が見える、外観はとても手入れが行き届いているのか苔すら見当たらない。
ローズが村の入り口に馬車を止めると僚太に待っているように伝えた。
屋敷へと一人で向かうローズを見送ろうとしたのだが何か気になる僚太は後を付ける事にした。
「何隠してるんだ? なんかあるのかよ」
ローから少し離れた位置から彼女を眺める僚太、彼女は屋敷の塀から体を隠して中庭を確認しているようだ。
僚太もどうにか確認しようとしているが、ただの不審者にしか見えないのは言うまでもない。
「うッ、さっきから村の人の視線が痛いな、てかそもそも隠れる必要ないじゃん」
今度は堂々とローズの後ろに立つと声をかける、彼女が背中の腰の鉈に手をまわして取り出そうとして大きな声で制止する僚太、その声が屋敷の中に届くのは想像するのは容易だ。
「僚太!? 静かにしてください」
「なッどうしたんだ__」
中から執事の格好をした初老の男性が駆け出してくると二人を見つめるとローズを見るなり驚いた顔をして。
「もしや......貴女がアイナ様ですか」
下を向いたまま黙りこむローズは、拳を震わせてやっと答える。
「いえ、血に染まるただの禁忌を犯したエルフ、私はローズです......」
吐き捨てるように言い放つローズの顔は、眉をひそめて辛そうにしていた。
声に反応するように三人の女性が中庭から出てくると、ローズの顔が歪む、彼女は口に手を当てると押し殺すようにしていて、暫しの静寂に包まれた。




