【第十四話】 戦火の傷跡
僚太は此方にやって来るクロウに視線を送る、シャルロットの容態が良くないのだ。
僚太の不安そうな表情を見ると暫く黙るクロウがやっと口を開いた。
「ここ最近、戦いが多かったからな、心身ともに疲弊してるな」
「クロウ......ローズ? シャルロットは大丈夫か」
「ええ、ただクロウの仰る通り、それにアレを使い過ぎたのです、ただでさえ剣を抜いている状態で体力を消耗するのに......」
もしかしたら僚太以上に心配しているのではないか、ローズの顔も浮かない。
それにクロウもよく見れば所々から血を流している、表情こそ嘘をついているが僚太にもそれぐらいは分かるだろう。
ただ、僚太には安堵できない理由がシャルロットの事だけではなくもう一つある、本当にあのバケモノを討伐できたのか、口に出す。
「なぁ、クロウ......あいつはどうなった」
クロウは笑みを見せるが首を縦に振る事は無く、黙ってシャルロットに視線を向けると。
「確かに殺ッたという感触はあった、ただ......」
「ただ、なんだよクロウ?」
「大罪者の中でも特に多くの死者をだしたと言われるバケモノがそう簡単に死んだのか......断言は出来ねぇな」
一言だけ僚太は返事すると、ローズは黙々とシャルロットに治癒術を施している。
僚太の制止を聞かずクロウは馬車の方に行ってしまった、暫くしてようやくシャルロットが目を覚ますが顔の表情は苦痛で歪む。
__避難していた村人達がアルタイトの騎士団達と戻ると、所々で嫌な気が立ち込める。
僚太は初めこそ聞き流すつもりであった、だが村人と兵士の会話を聞いた瞬間、その二人に詰め寄ると怒りをぶつけた。
「お前らな!! シャルロットがいなかったらこんな程度じゃすまなかったんだぞ!!」
「あの忌々しい剣聖の仲間か、初めからこの村に来なければ俺達が巻き添えにならなかったんじゃないのか?」
「あぁ剣聖を崇める者もいるが、所詮は我々の真似事だ」
シャルロットの気持ちが僚太には理解できた気がする、こんな奴等を助ける意味なんかあったのか。
こんな奴等よりシャルロットの命の方がよほど重いのではないのか。
「ならそのまんまお前らなんか死ねばよかったんだッ!! 何が騎士だ、お前らがいちはやく命をなげだせばよかっただろ!!」
騎士の眼が僚太を睨みつけると腰の剣を抜く。
「我々は多くの仲間たちを失った、剣聖が早々と奴らを討伐してくれればよかったのだ、それに貴様があのシャルロットの事をどれくらい知ってるのか知らんが__」
「バケモノッッ!? 上等だ、騎士だか何だか知らないがなッ__」
「僚太そこまでにしろ......騎士様も大人なんですから子供の戯言ですし、ここは聞き流してくれませんかね?」
後ろから割って入るレベッカは、騎士に鋭い視線を向けると、その手に火球を浮かべさせながら続けた。
「ほら、焼き殺されるのとか嫌でしょ?」
「ま、魔術師レベッカ・アリシアか!? あぁ分かった......ここは引き下がる」
騎士の額から汗がじんわり流れると、その場から逃げるようにそそくさと言ってしまった。
肩を掴まれるとレベッカは視線を僚太に向けることなく壊れた小屋の跡を見つめながら淡々と呟いた。
「これが現実だ、この村の連中をよく見ろ......安堵した表情をする奴も、絶望する奴も、様々だ」
黙って小屋の残骸を片付ける者、泣き崩れる者、こちらを睨みつける者。
僚太の怒りは消えていつしか後悔に変わると悲しくなり、感情をどこにぶつければいいのか分からなくなる。
暫くして此方に気が付いて遠くから走ってくる村人数名は、どこか申し訳なさそうにしていて。
「あのシャルロット様は、ご無事で?」
「シャルロットのおねぇちゃん大丈夫なの?」
僚太はただ黙って頭を下げると村人の中の男性は僚太の肩に手を乗せて顔をあげるように促す、そして感謝を伝えると行ってしまった。
レベッカはそれを見送ると僚太に視線を向けて微笑むと答えをだして。
「人それぞれなんだよ、あたしらは万能じゃない、助けてあげることも出来ればその逆も然りだ」
「あの人たちは救われた人たちなのか、数が少ないな」
「そうだな、でもあたしらがやらなければ......あの人達すら、救う事は出来なかった」
僚太はうつむくと暫く黙る、通り抜ける風が諭すように彼の頬を撫でた。
__ココリ村から追い出される形で馬車に揺られる僚太達、半分以上の村人達は
シャルロットの容態など気に留めることなかった。
だが残りの半分、それに加えて過半数の騎士たちはシャルロットの見方で。
「複雑だよな......なぁシャルロット?」
村では一度は起き上がろうとしたシャルロットだったのだが、ローズの治癒術の一つの効果で今は穏やかな顔で眠りに就いていて、その横では先ほどまでシャルロットを心配して泣きじゃくっていたフランカも眠っている。
フランカは力になれなかった事も相当悔やんでいたようで僚太の顔を見るや否や逃げ出そうとしたほどだ。
「フランカ、俺もシャルロットの力には......なれなかったよ」
僚太は村で見た夢を思い出す、もしも。正夢になっていたらと考えて、首を横に振る。
その挙動に気が付いたレベッカが声をかけるのだがどこか上の空で返事をしない、僚太に喝を入れるように大きな声で叫んだ。
「聞こえてるのかよ!! 僚太ッ」
__意識が戻ると僚太はレベッカに視線を合わせた。
ため息を吐くレベッカは馬車の外に指をさすと、もう一つの村に着いていた、辺りは暗くなっていて明日の朝一番でこの村を出ることにした。
シャルロットの支援を喜んで受け入れてく入れる村人たちがほとんどで、この村に来て何故だかようやく安堵できる僚太であった。




