【第六話】 二人の想い
__城の内部にある第二王室所有の庭園で、シャルロットは椅子に腰を掛けてあくびをしながらとある人物を待っているがその表情は実につまらなそうである。
何度目かの訪問だが待ち人が時間通りに来たことは無い、遠くからこちらに歩いて来る者に視線を向けると、相も変わらず若くて凛々しい男性がシャルロットの前に来ると頭を下げた。
「シャルロット様、この度はとんだご無礼をはたらきましたこと深く謝罪します」
「わたしは自分が特別だとは思ったことないわよ? それにこっちも貴方に世話かけたし__ありがとうね」
数多の調律士はいるが、世界の調律士の称号を受け世界に認められ尚且つ聖剣持ちは彼女だけなのだ。
つまりその最優の彼女が機嫌を損なえば数年前に起きた聖堂都市崩壊の時と同じ事を招く恐れがあるのだが、シャルロットはたいして気にはしてはいないようで今に至る。
「それで今回の件ですが......カイゼル王の独断の指示という事で数人の大臣も口をわりました」
「わたしも気付いていながら、ここまで放っておいたのがいけないのも事実だし......あなたには迷惑かけっぱなしね」
「我々ができることは所詮その程度、力になれれべば光栄ですよ」
「いつまでもこんなこと続かないようにしないとね」
「我々もそう願ってます......ところで思い過ごしならそれでいいのですが、シャルロット様は最近明るくなられましたね? もしや僚太くんが関係してるのでは」
「え!? 貴方は何を言ってるのよ違うわよ、変な詮索しないの」
慌てた子供のように手をブンブン振るシャルロット、内心では何か思うところがあるみたいだが図星とはこの事か、誤魔化す彼女を見て頷くキーファは不敵な笑みを見せると一人で勝手に納得したようだ。
そっぽを向いたシャルロットを見たキーファは咳ばらいをすると再び本題に戻る。
「話が脱線しましたね失礼しました、ところでシャルロット様は怠惰の名を持つ者と遭遇したのですよね?」
「名前は確か、ライメンって......恐らく巷の貴族殺しも彼だと思うけど」
「そうですか、それならこちらも手を打たなければいけませんね、その後の行方は?」
キーファがシャルロットの手に持つ空になった器に紅茶を注ぐ、飲み物に口を付け器から口を放すと中身をじっと見つめる。
「レベッカの魔術で葬れたなら幸いだけど......わたしの勝手な推測だけど無理でしょうね」
「排水路を確認させましたが恐らくあたってます、排水路の水が一部だけ蒸発していました、魔術か何かだと思われます」
「やっぱり一筋縄じゃいかないわね、わたしのとっておきを至近距離でかわすバケモノだし、あいつが単独で動くなんて考えられないし」
静かに器を置くと頭を下げる、彼はそれを不思議そうに見るとその視線にシャルロットは「僚太がいつもやってるから」と言って微笑んだ。
きっと僚太に出会ってからのシャルロットは何かが変わったのだろうとキーファは心にしまうと立ち上がり緩みそうになっている表情を変えるとかしこまる。
「これからどうするおつもりですか、しばらくこちらにおられますか?」
「一つだけあなたに頼みたいことが有るのだけどいいかしら」
シャルロットの所有する屋敷の事をしばらく話し合う二人、彼が頷くとシャルロットは申し訳なさそうにする。
アルタイトの今後を考えれば止むを得ずだがキーファにはそれ以上の感情があるようにうかがえる、シャルロットが椅子から立ち上がると軽く手を振って歩き出す、親しいとは言え王子相手になんてラフな挨拶なのだろうと僚太なら言うだろう。
「それじゃぁよろしくお願いします、あとで僚太と無気力男が顔をだすと思うから」
「シャルロット様一つだけよろしいでしょうか......例の教会騎士を本当に信用するのですか?」
庭の木に止まる小鳥がさえずっている、風が木を揺らし飛び立つ小鳥たちの羽ばたく音、それと同時にシャルロットは口を開きその青い瞳は真っすぐ彼を見つめていた。
「そうですか、ですが彼は危険ですよ、それだけは肝に銘じていたたければと」
「あなたが思っているよりクロウは頼れるわよ、あなたも知ってはいるでしょうけど教会騎士と言えば並みの調律士より強い、それに何時も口ケンカばっかしてるけど僚太はクロウに憧れてるみたいだし」
「シャルロット様が無事ならそれでいいのです、今はまだ__」
再び歩き出すシャルロットの背を見つめる彼はポツリと呟いたがそれは彼女に届いてはいないだろう、その歪んだ表情が何を語っているのかも。
____屋敷の前で止めた馬車からシャルロットは降りると門の前で止まる。
軋む音を響かせて門が開き中に入ると脇から声がして振り向くと、そこには目付きで損をしてそうな僚太の姿があった、その姿をみると何故か安堵するシャルロットは微笑みながら。
「あら、従者さん待っててくれたの?」
「うん......本当は側にいたいんだけどな!!」
おどけて見せる僚太だがシャルロットはうつむくと恥ずかしそうにして何かを言いたそうにし始めた。
最初こそふざけ半分だった僚太もそれにつられて顔を真っ赤にし始める、この光景を遠くで見守る人物が居るとも知らずに。
「何時も......あ、ありがとう」
「え、なにか言ったの? あはは~もういっかいたのむ、したいその言葉を明日の活力にしたいんだ頼む」
聞き返すのは野暮だろうに、この男は感が鋭いのか鈍感なのか分からない。
目を尖らせるとシャルロットは腰に右手を当てて左手で僚太を指さすと大きく息を吸い、吐くのと同時に口を開いた。
「この僚太の、おたんこなすッー!!」
「久しぶりのシャルロット語録、うん俺でもギリギリ知ってるか怪しいぞその言葉」
シャルロットが頬に空気を溜めて怒って見せるが、内心では嬉しくもあったりして、もしかしたらシャルロットは僚太を好きなのかもしれない。
いつの間にか、そんなちいさな思いがシャルロットの中で大きくなっていたのを僚太は知らない、見つめてくるシャルロットを直視できず頭を掻く僚太の顔は困ると言うよりどことなく嬉しそうな表情をしていて急にシャルロットを見つめたのだが。
「嫌いだからね!! 意地の悪い僚太なんか嫌いですぅ~」
「俺、前にも言ったけど......シャルロット・ルリエが__」
「お~ぃここはどこですか~あれ、あれれ、キミ達は何をしてるのですかね~」
「ただでさえ傷が塞がらないのにワインなんか飲んで......バカは死になさい」
急に暗雲が立ち込める、赤ら顔で死んだ魚のような目をするクロウが邪魔をして、僚太の頭に腕を乗せるとくしゃくしゃと雑に撫でた。
眉を不快そうに吊り上げて口を開き怒鳴る直前で空箱を叩く音が鳴り響くとクロウの後ろでローズが立っている。
そして気を失ったクロウの足を掴むと引きずって去っていくローズが左手で僚太に親指を立てると何事もなかったかのように去って行く。
シャルロットはクロウの、教会騎士の秘密を知っている、僚太には理解できていないがローズがあえて僚太に伝えてないのだとすれば、なぜか教えるには気が引けるシャルロットであった、口から出たのは誤魔化そうとした嘘。
「彼、たぶん馬鹿だから治癒術の効果を得られないのね」
「そんなことなんかあるのかよ」
「まぁ教会騎士ってそんな簡単に死なないから大丈夫大丈夫、大丈夫よ」
シャルロットが僚太の腕を掴むと走り出した、もっと誤魔化すためなのか、ただそうしたかっただけなのか、誰も知らないが恐らく前者だろう。
__制服姿の眼帯女性は脇に立つ男を連れて屋敷の門の前で立つと素手で思いきり叩くと男が門の傍に備え付けてある呼び鈴を指さした。
「はッはやく言え貴様」
「いや、流石に分かるかと」
「我々の国にこんなへんてこな物などないだろう!!」
鳴り響く女性の声に合わせて門が開くがその音はこの先の不安を煽るような音であった。




