【第四話】 戦闘
一人の長身の優男は特徴ある槍を手にしていた、そして双子に見える女二人は赤黒く鋭利な双剣を手にしていて双方は今にも飛び掛かってきそうな殺気を放っている。
優男が手にする槍を器用に回し始めると後ろの双子に声をかける、尋常では感じ取れない殺気へと変わるのを僚太は感じ取ってはいたが口を先に開いたのは優男の方であった。
「お前らはあそこでさっきから人を見下した態度をとる男を殺してくれ」
「わかりました、仰せのままに......」
カイゼルが物を言いたげな表情をするが双子は顔を青ざめさせた男などまるで興味などないのか見向きもせずに優男の指示に従い飛び出してくる。
僚太達が二階の通路を見上げるとそこにはクロウがほくそ笑んでいるが目に映った。
ため息を吐く僚太は頭を掻くと改めて剣を構えはじめると、僚太達の居る方に飛び降りてきたクロウは僚太の肩に肘を乗せると緊張感の足らない軽い口調で呟く。
「おい僚太、てめぇは取り合えずローズとレベッカで目障りな兵士共をなんとかしろよ」
「あぁ......そうだなって簡単に言うなよ、こっちはまだ人なんて__」
「馬鹿言うなよく見ろよあいつらの面、見た事あるだろ」
僚太は言われてみてから改めて見ると兵士達の顔に違和感を覚えた、クロウはシャルロット達にもそれを伝えるが、気が付いていなかったのは僚太だけではなくシャルロットとローズも同じであったようだ。
それからシャルロットはうつむくとタイミングを計ったかのように剣を抜くと飛び出していく。
「死人......なるほどね__カイゼル!! あなたが大罪者達とつながっていたのねッ」
「黙れ剣聖!! もはや調律士共でどうにかなるほどの状況ではないのだ、あやつらは剣聖を差し出せばこの国には手をださんと言った......この国、我々の国民の為に死んでくれ!!」
その問いかけに目つきを尖らせる僚太、握りしめる剣には力が入り過ぎているのかカタカタと音を立て始めるとシャルロットを差し置いて大声で僚太が答えた。
「いい加減にしろよ......ッお前らがふんぞり返ってる間にシャルロットがどんな目にあってたのか知ってんのか!?」
「ええい目障りな者達だ、剣聖とてこの場所での振る舞いは国家の反逆に値するぞ」
カイゼルの戯言を黙って聞いていた僚太は剣を大きく構えると走り出したがそれをカイゼルの側に居た優男が見逃すはずもなく、槍を構えると足に力を入れたのが分かると地面を蹴って飛び出してきた。
僚太の視界に槍の切っ先が映るがそれは僚太に届くことはなく、槍の一突きを後方から飛び出したてきたシャルロットが切り払うと弾き返す。
シャルロットの方を振り向かずカイゼルの元に向かう僚太はただ突き進む。
「お前に王の資格なんかあるかよ!! たったひとりの人間に簡単に死ねなんて言う奴は王でもなんでもねぇーよ」
後方ではレベッカが出入り口を結界で塞いでいてローズが壁伝いに走ると兵士の首を次々と跳ね飛ばす、フランカが兵士の懐に入ると投げ飛ばし走り抜けて行くローズがそれを坦々と仕留めていく。
カイゼルの前に立つ双子の前で止まる僚太、しばしの沈黙、双子は黙ったまま僚太の方へと駆け出してくるが僚太が身構えるその脇をクロウが走り抜けて行った。
「あいつ等のご使命は俺みたいだからよ......僚太てめぇはあの王を取り押さえるか殺すか、すきにしろ__方は俺がつけてやるかよッ」
「捕まえてその椅子から引きずり降ろしてやる!!」
再び走り出す僚太は立ちはだかる兵士に切りかかる、始めの頃より様になるその姿の足がおぼつくことはない。
振り下ろされる剣は兵士の腕を、振り払う剣はわき腹を切り裂いていく。
倒れた兵士は黒い墨の塊となり消えて、数人を薙ぎ払う僚太のすぐ真後ろではクロウが双子と向かい合う形で立ち尽くす。
「いい顔が台無しだな、優男がそんなに好きなのか?」
「あなたのような者に答える義理もなければ__」
双子がクロウに飛び掛かるタイミングは一寸のずれもない、両手にする双剣が空中で円を描くとクロウに襲い掛かる。
その動作のタイミングを見計らう彼は避けることに専念するが、双子の斬撃は速さが増すにつれて辺りに風を切る音が大きく鳴り響いた。
「おいおい曲芸師かよ、それが噂に聞く剣技の一つの切裂円舞ってやつか」
「あなたは、何者ですか? この型を知っているとは__」
「いいえ、もう関係はありませんどうせここで殺しますから」
息を整える暇すら与えない斬撃が続く、やがて終止符を打つことを決めたクロウは片方の女に的を絞り手には剣を生成する、静かに息を吸うとその呼吸音が辺りに響いたような感じがした。
「いや俺も女なんか斬りたくないんだけどさ、まぁ知り合いってわけでもないから許してなッ__」
まさに文字通り、皮を切らせて骨を断つをやってみせたクロウは肩に斬撃を喰らい血が噴き出る、かたほうの女は倒れると動かなくなる。
崩れ落ち膝を着く女、手から双剣が抜けると下を向いた。
「姉さん......姉さん__」
「あん? おい泣くなよ、べつにそいつ死んでねぇぞ」
よく見ると姉の胸に付けられている鉄でできたプレートが凹んでいるだけで息をしていないわけではなかった、クロウは自分の肩を押さえると妹の方に向かい。
「そんなに姉が好きならなこんなの止めとけっての、まぁ死にたかったら別に止めはしないがな、つーかいてぇんだが__」
「うるさいです......なぜ私達を殺さないの」
「んぁ~俺は死に値しない奴は殺さないってだけだ、そう決めてある」
強い人間にしか言う事の出来ない台詞を吐くとその場で座り込むクロウはシャルロットの方に目を向けた。
ほぼシャルロットの動きについて行けていない槍の優男は防戦一方だ、最早それは戦闘と呼べるほどのものでもないようで優男の表情には焦りが見えた。
「あなた、槍の使い手にしては遅いわね!!」
「女には本気を出さない主義なんだよ!!」
そう、と一言で吐き捨てるシャルロットの視線はすでに男の方を見ていなく僚太の方に向かれていた。
よそ見をした状態のシャルロットを男の槍はかすりもせず、シャルロットの動きに合わせるだけで攻撃の手が止まる。
鉄の擦れる嫌な音を響かせ、男が後方へと飛び下がるとシャルロットは間を詰めるようにと剣を突き衝撃波を放つ、吹き飛ばされる男は柱へと背中を打ち付けると意識を失った。
「あの女、本気出し過ぎだろ、俺が相手でよかったなお前ら」
「カイゼルは私達の家族に罪を着せたのです、だから私達は兄について行こうと決めて......」
「なんだてめぇらの兄貴かよ、つーか兄貴弱くねぇか?」
「失礼......クロウ、あなた肩をけがしてますね、止血します見せなさい」
クロウまでたどり着いたローズが会話に割って入ると彼の肩にルーンをなぞり始める、だが、普段なら淡く光だして血が止まるはずなのだが。
とっさに手を払うクロウはローズに視線を向けると静かに呟いた。
「俺には一切の術は通用しない、たとえそれが悪意あるものではなくてもだ、いいか......あいつらには言うな」
「ですが......それでは__」
「うるせぇな!! こんなの手で押さえとけば、いずれとまるっつーの」
頭を掻くクロウは立ち上がると僚太の方に歩き出す、彼なりにシャルロット達を気にしての発言なのだろう。
万が一に致命傷を負えば治癒術ではどうにもできない事、すなわち死を意味する、聖女から掛けられた術除けが教会騎士達の死んでしまった大きな要因でもあったようだ。




