【第二十四話】 始まりの場所で
一通りの稽古を終えた僚太は、屋敷の浴室に向かう途中の廊下でコソコソとしているローズを見つける、気付かれないようにゆっくり近付き声をかけると。
「僚太......どうかなさいましたか?」
大した反応が無いのだから実に面白みがない、僚太は少しだけため息を吐くとローズに何をしていたのか聞いてみる事にした。
彼女は人差し指を自分の鼻と口に当ててもう片方の手で向こうの廊下を指さして食堂の扉をいじっている。
「先程シャルロット様に怒られたレベッカが、また何かしようとしているのです」
彼らはいったいどれだけの悪事を働けば気が済むのだろうか。
しばらくすると途中でクロウとフランカが合流した、フランカはきっと食べる物目当てだろう、僚太は苦笑いすると静かに口を開いた。
「あの人、本当に懲りないな......」
「あの男......レベッカと何か話していますね」
「フランカは、またパンか? この腹すきウルフッ娘め......」
そこで僚太は一つだけ思い当たる節を思い浮かべる、レベッカが愛してやまない例の物だ、クロウもその物が好きみたいなのだから二人が何を求めているのかは想像できる。
ただでさえ酔っ払いのレベッカは面倒なのに、もう一人増えるなんて考えただけで寒気がしてくる彼は自分の体をさすって見せた。
「あなたたち......なにしてるの?」
僚太達の間から顔を覗かせるシャルロットの顔がレベッカ達の方を向くと、片方の眉を吊り上げると何も言わずに三人の元に向かうシャルロット。
クロウとレベッカはそれに気が付くと蜘蛛の子を散らすがごとく逃げる、フランカに至っては諦めたのかそこで硬直した。
「待ちなさいレベッカ!! あなたまだ懲りないのねー」
「シャルロット、あたしだけじゃないって、クロウ!! おまえも共犯者だろー」
大分離れた所から腕を組んでレベッカを見ているクロウは不意に親指を立てた、振り返ってそのまま去ろうとしたところを片手でレベッカを掴んで連れたシャルロットの蹴りが後頭部に直撃した。
恐るべし剣聖と言うべきか哀れな魔術師と教会騎士と言うべきか。
「あなたたち、ちょっとついてきなさい!! お説教します」
それを見送るフランカだがそのあとローズに叱られたのは言うまでもないだろう。
____すこしだけ日が傾いた午後、僚太はアルタイトで一番にぎわう街に来ていた。
そこでは獣人の姿も多くみられる、この場所ではみんなの心のゆとりが有るのだろうか。
僚太には見覚えがあり少しだけ微笑ましくなる、ここは僚太がシャルロットと出会った場所だ、見た事のある路地にアジェータに殺されかけた場所。
辺りを見回す彼の目に映ったのは道の端で爪を気にするアジェータ、駆け寄って行こうとした時、誰かにぶつかる。
転んで倒れそうになる僚太はぶつかったと思われる人物に腕を掴まれると。
「汝、前をよく見ないとあぶないぞ__」
「あぁ、すいません、ありがとうございます」
随分と気が引き締まるほどの佇まいある女性、黒い眼帯にまるで軍人が着るかのような制服姿に特徴がある剣を携えている。
剣を見つめる僚太に気付く女性は微笑みながら剣を撫でる。
「汝、これが気になるのか? これはだな__」
「ハイネス殿!! ちょっと、どこ行ってるんですかー!!」
遠くで似たような恰好をした長身の男性が大声をあげると駆けてくる、それをみた彼女は鋭い目つきになるとため息を吐き頭を横に振ると。
「やれやれ、またうるさいのが来たか......ところで汝の名前は?」
「僚太ですが......」
「僚太......あぁ、獣人の娘とアルカナハートがその名を出していたな、私の名はハイネス・ベルメだ......悪いがこれで失礼するぞ」
そう言って頭を下げるとハイネスはさっさと路地の方に行ってしまった。
「アルカナハート......シャルロットの知り合いか?」
「ちょっと君、先ほどの女性がどこに行ったのか知らないか?」
「いえ、知りませんが、何かあったんすか?」
その男は困ったような表情をすると頭をさげるだけで答えることなくハイネスの向かった方に足早に歩き出す。
まるで理解できない出来事に首を傾げる僚太はアジェータの居た方をみると彼女はこちらの方に歩いて来ていて。
「あら__やっぱり僚太、元気そうね この前はどうしたの? ちゃんとはなしてよ」
「え? あぁなんか変態がさ、俺の住んでる屋敷に出たんだよ」
「屋敷? そう......もしかして剣聖の」
変態の単語ではなく屋敷に反応するアジェータは暗い表情をするのを見た彼は感が鋭いのか鋭くないのか。
「シャルロットの所だよ、フランカも一緒だよ」
フランカの名を聞いて一瞬困惑するが何かに安堵したのか、ため息を吐くと微笑む。
「そう、フランカちゃん僚太と一緒なのね、それなら大丈夫そうね」
「どうしたんだよ、アジェータ?」
「わたしは剣聖って苦手なのよ、まぁでも悪い人ってわけじゃないとは思ってはいるんだけどね」
「シャルロットは優しいからな、フランカの身も安じてたからさ」
僚太の顔をじっと見つめているアジェータは頷くと。
「わたしこそ偏見ね......フランカちゃんの事をあなた達に任せたわよ......」
「任せるって大げさだな__」
頭を大きく横に振るアジェータはフランカの事を教えてくれる。
それは、フランカが何故一人で旅をしているのかをアジェータが聞かせてくれる。
僚太の瞳孔が開く、この世の大罪者、暴食の名を持つ者がフランカの家族を殺したそうだ。
「わたしもその話を聞いてね......心底嫌になったわ、救いなんてないのかと」
「大罪者って奴はどいつもこいつも......胸糞悪いな__」
僚太は握りこぶしを作ると壁を殴る、手には血が滲み出ている、アジェータが自分の袖を引きちぎると僚太の手をその布で止血しようと縛る、僚太はうつむくと覚悟を決めたのか静かに口を開いた。
「俺は約束するよアジェータ......気が遠くなる話だけどさ、俺も頑張るよ、みんなが笑える世界に......する」
笑われてもいい、でも、そんな言葉をアジェータは黙って。
「お願いするわね......」
「まぁただの従者なんだけどさ」
その話を黙って聞いていたのはアジェータだけではないようだ。
「わたしの従者は心強いわね......」
そう言って道の脇の壁に寄りかかる人物は去ろうと歩き出す、その人物の金髪の後ろ髪が赤いリボンと一緒に道を通り抜ける風にのって揺れていた。
ここで第一章を終わりにさせていただきます。
ながれでここまで読んでくれた方々、覗いてくれた方々、大変ありがとうございました。




