【第二十一話】 ローズ
日が暮れてからしばらくして、僚太達は意識を失ってからそのまま眠ってしまったクロウを客部屋へと運んだ。
彼以外の全員が屋敷の食堂でシャルロットからそれぞれに何があったのかを問われた。
僚太が事の経由を話すと少し考える仕草をしてから席へと座ると目線を落とす。
座った彼女の前には数枚の紙と筆が綺麗に並べ置かれている、彼女は筆を執ると僚太から聞いた内容を頼りに仮面の男の容姿を紙に書きタキシードの男の容姿を書き始めた。
「仮面の男は、怠惰なる断罪者ライメン、単眼鏡に白のタキシード姿......知らないわね名前とか言ってなかったの?」
ローズが表情を曇らせ顔を伏せた、横目でソレをみていて察した僚太が口を開くと空気の重さに耐えられず愛想笑いが混ってしまうが。
「たしか、強欲なる貴紳カマロだかマカロとかなんとか言ってた気がするけど」
そんな何時もとたいして変わらない僚太、シャルロットは微笑むことすらなく先ほどから黙々と筆を進めていた手を止めると鋭い視線を彼に向ける。
向けられる視線の痛さに黙りうつむいてしまう彼、しびれをきらしたシャルロットは眉をひそめると口を開ひらいたのだがそんな彼女は何時もと違うようだ。
「僚太ちゃんと答えて、カマロなのマカロなの? どっちなの__」
僚太は額に冷や汗が流れるのを感じ取る、それを袖で拭うと。
「あぁ......カマロだよ、なんだよ......なんか空気がすげーわるくね?」
「今日、わたしは二つ程気に食わない事があります......」
シャルロットが両手でテーブルを叩くとローズの肩が反応して浮いたように見えた。
暫く口を開くこともなく見ていたレベッカは自分の後頭部をさすりながら会話に割って入る、そんな彼女も珍しく不機嫌そうな面をしていて。
「今回のこと、僚太もローズも悪いわけじゃねーだろ......何を怒ってんだ」
「一つはわたし自信に対してよ、この前の事があったのにわたしは対策をしなかったそれは謝りたいわ、ごめんなさい」
一礼するシャルロットは頭をあげると続けて口を開く。
「二つめはローズに対してです、どうしてそうなってしまったの」
たしかに僚太が屋敷に着いた時にはローズの様子はすでにおかしかった、それなら何かがあったはずなのは明白でローズの顔を見ると彼女は口を開いた。
「いつも頑張ってる僚太に、プレゼントをあげたかったのですよ」
ローズはココリ村で僚太にご褒美として渡すために密かに剣を手に入れていたらしい、ボロボロの剣ではきっと稽古のやる気もなくなってしまうのではないかと思ったのだと。
この屋敷に着いて剣を馬車からおろしたところから記憶が飛んだのだと言う、だが自分が何をしているのか何をしようとしたのか。
「鮮明に覚えているのです、この手で僚太やレベッカを手に掛けようとしました」
自分の手を睨につけるローズを見て居ても立っても居られない僚太は突然、椅子から立ち上がると雄たけびをあげる。
その行為に周りの一同は目を丸くしたまま彼の方を向いた。
「うおー関係ねぇー!! あれがローズなわけないだろ、じゃあ仮に一万歩、百万歩譲ってそうだとしても俺は許すわ、むしろ大きなイベントありがとうございました!!」
「僚太......それでも私はあなたを、すみません......」
「こうなったら......こうしてやる__」
そう言うと僚太はローズの頬を両手でつまんで引き延ばそうとする、それを見たレベッカは口をおさえて笑いを必死にこらえている。
ローズは僚太の手を振りほどくと自分の頬に手を当ててさすっている、シャルロットが顔を覗いた。
「ちょっと僚太やりすぎ、だったんじゃないの!?」
ローズを見てシャルロットは目を丸くすると驚いていた、ローズが初めて見せた表情がそこにあったからだ。
今まで見せる事の無かったローズの表情に、そして初めて見たのシャルロットも口を開けたまま驚いた様子だ。
「痛いですよ僚太、なにをするんですか」
「え、シャルロットさん、ローズのこの顔レアすぎるだろ!! だれかー、カメラ、カメラ」
「わたしも初めてみたわ......ローズは今度からその顔でいなさい!! 可愛いんだから勿体ないわ」
さきほどの重たい空気は何処へやら、シャルロットはローズに抱き着くと気持ちよさそうに顔を埋める。
目の行き場に困る僚太はレベッカを見ると、首を横に振っただけで何も言わない。
「ごめん、わたしあなたの気持ち、理解してあげられてなかったよ......ごめん」
「いえ、シャルロット様......シャルロットさま」
今度は唐突にフランカはテーブルを鳴らすと立ち上がる、きっと同じことをしてほしいのかと手を広げるローズとシャルロット達だがフランカは僚太に近づいて行くと。
「僚太様!! おかわりくだしゃいな」
差し出されるお皿、先ほどから黙々と一人で皿とにらめっこしていたフランカは愛情より食欲を満たしたかったのだろう。
だって成長期ですもの、といわんばかりに胸を叩くフランカはどこか嬉しそうに見えた。
「背に腹は代えられましぇんからね」
「フランカはずいぶんと大人だな~ッて、おいまてレベッカ」
フランカをなでている僚太は怪しい動きをするレベッカに指をさすと手にはグラスと一本の瓶が握られていた。
どこにソレを持っていこうとしていたのか問いただす僚太、レベッカは舌打ちすると大人の女性がすることはないであろう甘ったるい声を放つ。
「大人の女性にはおしゃけがひつようでしゅからッねぇ、いたッ!!」
フランカの真似をしようとした罰か手にする物に対する罰か、舌をかんだレベッカは涙目になるとそそくさと逃げだした。
右向けば美女と美少女が抱き合っていて、左向けばウルフっ娘が皿の中身をたいらげている、食堂の隅に逃げた酔いどれ美人を見ると彼はため息を吐く。
「んー嬉しいような、悲しいような......なんだこれ、なんだこの状況は」
そんな彼だが、いきなり食堂の扉が開け放たれるとクロウが顔をだした。
機嫌が悪いのか目付きが何故か悪くなったクロウは僚太へと詰め寄ると。
「めしくれよ、はらへった、クソガキ、めしくれ」
「なんか俺、あたまがいたいわ......おかしな奴ばっかかよ」
僚太は頭を抱えるとテーブルの上の鍋に指をさす、クロウは黙るとフランカに詰め寄り睨む、フランカも睨むと違う空気の悪さへと変わっていて。
「もうないでしゅから!!」
「ないじゃねーよ!! めしくれよ!!」
「あんた、フランカにたかるなよ子供だぞ、それでもあんたは大人か」
クロウはヘラヘラすると鼻で笑うと口を開いたが。
「その前に俺はにんげんなんだよ!! ええい、ならそこの赤髪それをよこしやがれ」
「やだ__これはあたしのだ」
「へるもんじゃ.....ないだろうが」
「へるわ!! 今のわざと言っただろ」
__抱き合う者達、食べる者、酔っぱらう者達を置いて一人で廊下に出ると深くため息を吐く僚太。
そんな可笑しな人達でも彼の中では徐々に大きくなり始めていた。
「なんかクセあり過ぎだろ、でもみんな......ありがとう」
だが僚太は背後から覗いてる二人の気配に気づかずにいて。
「おいレベッカさんよ~、こいつなんか言ってるぜ~」
「クロウさ~ん、こいつはカッコつけたがりやなんですぅよ~」
顔がみるみる赤くなる僚太は息を大きく吸い込むと。
「酔いどれ二人組はさッさと食堂に戻りやがれ!!」
廊下に響き渡る僚太の声が食堂の中にいるローズにも届いたのか、いつもよりも自然に微笑む彼女がそこにいた。




