【第二十話】 友人
仮面の男とクロウが離れた所で戦闘を繰り広げていた、レベッカは改めてローズと向き合うと口を開く。
「さぁて、アタシでどうにか出来るかわからないけど始めようか......」
「随分とこの方......気に入られてるんですね~、なら、なおさらお断りいたします」
その言葉に普段とは違う冷たい視線をレベッカはローズに向ける、悲しみか怒りなのか答えはすぐに出る。
「まってろよローズ......体に負荷がかかるが仕方ないな」
体勢を低くして屈むと人差し指で足にルーンをなぞる、なぞられた部分は徐々に淡い赤色へ光りだした。
ただそれを微動だにせず見ていたローズは首を傾けると唐突に笑いだす、そしてある事をしゃべり始めるとレベッカの瞳孔が開いた。
「おい、もういちど言えよ......それをなんでお前が知ってるんだ」
「ええ、ですからアナタの師はこの手の内にありますとも、剥製にして代わりの魂を入れ手ごまとして使っていますです、ふひふひひ」
「お前に聞いてもらちが明かないな、いつまでもそうしてればいいさ__」
言い終わるのが先か否か地面を蹴るとローズの脇へと回り込む、だがそれに合わせるかの如くローズの方も機敏に反応する。
肩を掴み足をすくいながら転ばそうとするのだが、片手で着地すると直ぐに距離を置かれる、そして手にする剣を振り上げるとレベッカの方へと距離を縮めるローズ。
「でも、まぁローズ本人じゃなくてよかったわ、本当のあいつならこんな余裕かましてられないからな」
悟られぬよう手の平の上に水球を生成すると間髪入れずに彼女めがけて投げつける、まるで分かっていたかのようにかわされるがそれはレベッカの方も同じの様で。
「そんな動きじゃ__考えてるのはみえみえだっての!!」
片手に掴かんだ水球をローズの胸元へと押し当てるとその勢いに身を任せながら吹き飛ぶのだが、もちろんそれだけで意識を失わせる事かなわず。
体勢を整えながら足を着くと、再び手に握られた剣を構え始めるローズ、舌打ちをするレベッカは呆れながらため息を吐くと口を開いた。
「随分と執着心あるんだな、やっぱり......」
「今では世界で数人しかいませんのでね、レアな物はこの手に、持ち帰って剥製にして__」
彼女の口が閉じるのとほぼ同時にレベッカのわきを何かが通り抜けて行った、剣とは違う、背後の地面へと突き刺さっていたのは鉄でできた太い針のような物。
「反射的にかわすなんて、あたまにきますですね」
「いや、おまえはやっぱり大したことねぇわ」
口を押えて苦笑するレベッカの表情は何かを確信していたかのような余裕すらうかがえる笑みであった。
「なにが可笑しいのですか?」
「そうだよな......そもそもローズが簡単にお前なんかにやられるかよ」
ローズの眼には先ほどから涙が頬をつたい流れている、彼女の意識は戻ろうとしていた。
レベッカは目を瞑ると決死の覚悟をきめて懐に飛び込む、ローズが手にする剣が左腹部を切り裂くと次に迫る二度目の斬撃もかわさず腕を掴みながら体重を利用して地面に押さえつけた。
レベッカはローズの腹部へと座ると足で両腕を踏みつける彼女は呟き始めていた、親友を取り戻すための術式を。
「なにを、なにをするんで__」
「るせぇ、だまってろ!!」
彼女の腹部に幾つものルーンをなぞるとそれは赤くも青くも見える色へと変貌する、不思議な文様をうかべると彼女の中に入っていくとすぐにローズは叫び声を上げた。
「やめろー貴様なにをした!!」
レベッカは尚も手をどかさず静かに、微かにつぶやく。
「第四元素の使い魔よ我が同胞を仇なす者を打ち払え」
「貴様ぁぁッ__」
ローズの体から視界では収まらな速度で何かが抜け出るとローズは徐々に意識を取り戻すと目を開けた。
ただ彼女の言葉はレベッカが期待していた言葉と程遠く、あまりにも救われない言葉であった。
「こ、殺してくれれば......殺してくれれば良かったのに__」
辺りに鳴り響くパチンという乾いた音、レベッカの手の平がローズの頬を打っていた。
怒りではないがただそれを簡単に認めてしまえばきっといままでの彼女自身を全て否定してしまうようで。
「おまえは、ばかだ......それをあたしに言うのはいいさ、だけど僚太やシャルロットにも、同じ事を言えるか?」
「私は......あなたにまで迷惑をかけてしまったのです、足手まといになるくらいなら私は......」
ローズがレベッカの脇に手を当て緑の光が灯ると血は徐々に止まり、傷口が塞がっていくのが見て取れる。
優しい表情で弱さをさらけ出す彼女を見つめるレベッカは両手を彼女の手に乗せた。
「ローズはどうしてあたしを助けたんだ?」
「私にはこんな事しかできないのですよ......こんなことしか、あなたを助けたかったのです」
「それならあたしも同じだよ......ローズ、おまえを助けたかったんだ」
静かにレベッカはそっとローズを抱き寄せると沈黙が訪れる、しかし、静寂を何者かが打ち壊そうと迫っていた。
「貴様ら手に入らないのなら!! 二人まとめてここで死ね__」
完全なる油断、術者が近くにいない保証はどこにも無かった、仮面の男があえて表に身をさらしていたのはこの為だったのか考えるが手遅れだ。
レベッカとっさにローズへと覆いかぶさると目を瞑る、自らの命より彼女を優先した。
「こいつだけは、ローズだけでもなんとか__」
だが待てど暮らせど痛みはおろか何もおきない、ローズが先に気付いたようで彼女の視線を追うように見ると遠くで地面がえぐれていた。
そこには白いタキシードのような身なりに単眼鏡を付けている男が倒れていて手には見慣れない剣が握られている。
ローズが視線を戻すと、背後には片足をあげたクロウが立っていた。
その眠たそうな目を彼女達に向けると首を傾げるが、すぐに向こうの男へと視線を向け。
「まぁ、はなからてめぇの薄汚ねぇ~存在は分かってたっつーか、なんというか」
「これはこれは、ずいぶんとやってくれますね、私のタキシードが汚くなってしまいました」
「いいところが台無しじゃねーかよ、こいつら涙なしでは見られない感動を返しやがれよ」
クロウは剣を生成して大きく構えるとほくそ笑む、レベッカとローズの表情は驚きへと変わり始めていた。
「俺のとっておき見せてやる、冥土の土産だから記憶にとっとけよ腐れ大罪者が......」
辺りが静寂に包まれる僅かに震える大気、手に持つ剣の周りには青い帯状の光が包み込む、それはまさしくシャルロットの秘技の動作である。
勢い良く剣を振り下ろすと放たれるその光の輝きは轟音と共に男を包み込もうとせまる、だがタイミングを合わせたかのように仮面の男が飛び出すとタキシードの男の襟を掴んで離れた。
轟音と光が駆け抜けた後には凄まじい傷跡が残る、威力はシャルロットと変わらずか。
塀の上にはカマロを掴んだままの仮面の男がいて、三人を見下ろしていた。
「カマロさん......無事ですか」
「もう少しで死ぬところでしたよ、まぁこの身はもう死んでるんですがね」
「ハハハ笑えますねソレ......ところでそこの教会騎士に質問が一点あるんですが」
「答えてやるよ、土産話持ち帰ってかってに震えてろ......」
クロウの持つ十字架には聖女の祈りが込められている、魔術やマナを使った攻撃を吸収することができるそうで、一度受けた能力なら本家の威力相当で複製できるらしい。
「そうですか......では僕たちはこれで失礼します__」
カマロを連れた仮面の男は一礼すると外壁の外へと飛び降りて姿が見えなくなった。
レベッカが立ち上がり後を追いかけようとして、制止するクロウが頭を掻きながらぎこちない愛想笑いをする、が、彼は突如なにかに体当たりされたのかそのまま身をまかせて飛ばされていった。
「今度はなんなんだ!!」
レベッカに答えるかの様に土煙の中から現れたのは真剣な顔のシャルロットであった。
「二人共大丈夫ッ、あれ......なにその目は、何よ?」
「いや、あいつの事は嫌いだけど今のはさすがにな......」
「はい、今回は感謝こそしましても恨むような事はされてませんシャルロット様」
遅れてフランカと僚太もやってくる、最初こそ心配そうな顔をしていたがその状況を見た僚太はクロウの方を見ると腹を抱えて笑い始める。
「ちょやめてくれ__なんだあれうははは」
ただ僚太の笑みは馬鹿にしているだけではなく、安堵もふくまれたものでもあるわけで。
シャルロットは暫く右往左往していて、ローズとレベッカは苦笑いをしていた。
「わたしがいけないの!? 僚太はそこまで教えてくれてなかったじゃない、ちょっとそこのあなた達も笑わないの」
未だに倒れている男、クロウだけは空をむいたまま呆れは果てていた。
「一番がんばった俺だけ......まぁ、なんだ、そうだ報われない__」
その一言を最後に意識を失ったクロウであった、そしてシャルロットはクロウに近寄るとただひたすらと頭をさげるだけであった。




