【第十八話】 対価
僚太は目の前に立つ男の強さを身をもって知っている、この男に頼めばもしかしたらどうにかできるのではないのかと考えた。
「あんたに、頼みたいことがあるんだ__助けてくれないか」
僚太は頭を下げるのをジッと見ているだけで眠たそうな顔つきが変わる事は無い、お互いの視線が繋がってから沈黙の時が刻まれること数分、先に男が口を開いた。
「なぜだ、俺がお前を助ける理由はあるか?」
男が僚太を助ける理由はない、答えは簡単に出るがそんな簡単に引き下がる僚太でもなく。
視線を落とす僚太と眠たそうな目つきがガラッと変わった男、暗くてそこまで広くない部屋の中の空気がよりいっそう冷たく感じられてからしばらくの沈黙をへて彼がたどり着いた答えを述べ始める。
「いや......だけど、頭を下げてるんだから頼むよ」
だが心の本音というやつは苦しい時程よくでるのだろう、特に人に頼る事に慣れてしまっている僚太の場合は格別かもしれない。
黙って聞いていた男は馬鹿にしたように鼻で笑うと僚太の言う事やする事をを見通してるとでもいうかのように。
「頭を下げる......随分と高いんだなてめぇの頭はよ、それがお前の出せる対価か?」
「なら......いったいどうしたら助けてくれるんだよ!! 俺にはあんたみたいな力はねぇよ」
勢い良く詰め寄ろうとした僚太は足をかけられると体勢を崩されて倒されると男はそのまま僚太の頭を踏みつける、彼はジタバタと四肢を動かすが強く踏まれた足は動かず。
気持ちの弱さと男にたいしての怒りが混ざり彼の表情はめまぐるしく変わる、自分の事で精一杯の彼にはフランカさえ視界に映らない、それが彼の弱さでもあった。
「足をどかしやがれ!! だれがおまえなんかに頼むかよ__」
男は涙をぽろぽろと流しながらお金を拾い集めようとしているフランカを指さすと鋭い視線のまま僚太を見降ろす、周りでは薄ら笑いが聞こえ始めていたが男は気にせず口を開く。
「そうか、それなら俺は構わんが......そこの獣人のガキがてめぇにしようとした事も、もちろん無かったことにするんだよな? それがお前が答えなんだな」
どうすればいいのかは初めから知っていあたのだろう、そうするしかない事が僚太にも分かっていたのに彼は出来ずにいた。
本当はただ一つ確かにあふれ出る感情を止められずにいた、自分の無駄なプライドを壊す彼は感情と思いをやっと口から吐き出し始める。
「おれに、おれには力がないんだ、本当にあの二人を助けてやりたいんだ.......大切なんだ大切な人達だから、だから、たのむよ助けてくれよ」
踏みつける男の脇をとおる中年の男がなにかを言うと外に出て行った、それにならうように数人出て行く、想いなんて物などやはり何の役にも立たない物はないのだろうか。
この男はただ薄ら笑いを浮かべはじめると視線が変わる、先ほどの冷たさはどこへやら。
「それがてめぇの本音だろ......どんな言葉できかざっても取り繕っても目だけは嘘をつくんだよ、お前のプライドなんて対価にならないんだよ__」
「クロウしゃん!! いいかげんにしてくだしゃい」
フランカが物凄い剣幕で男の腕を掴むと噛みついたがクロウと呼ばれるこの男はフランカを軽く払い僚太から足をどかすと再び口を開く、それは何かを諭すようでもあった。
「てめぇは対価をはらわねぇで何かを得ようとしてたんだ、周りから良く思われようとすれば、そいつは疑う、その、あれだ、無様だ......あぁあとそこの獣人のガキ、これはとっとけよ」
足元へと散らばったお金を数枚拾い集めると、袋を差し出そうとしたフランカの手に金貨を渡す、すかさずフランカが口を開こうとするが男は首を横に振る。
「その金は俺には重すぎるっつーの......その依頼だか、ままごとだかしらねぇが、わかった......俺が受けてやる」
本当に頭にくる男だ、性悪で口がわるいこの男はきっとロクな最後を迎えないだろう、僚太は頭をあげると心から本音で話し始める事にした。
「ありがとう、そんでもって、くたばりやがれ......」
「鼻水たらしながら言われてもな......」
「僚太様、それでくわしくきかせてくだしゃい」
フランカは理由も聞かずに僚太を救おうとしてくれたのだ、そんな肝心の彼は人任せにそれを眺めていた、なんの対価も支払おうともせずに。
ならこんな奴が報われてたまるか、僚太は自分の顔に喝を入れるとクロウに内容をすべて話す。
目付きが少しだけ変わった気がしたクロウの深くて暗い瞳の奥には何が映っているのだろうか、少しの間がひらくが。
「で、もう一人いたんだろ? 特徴はどんな奴だったんだ」
「確認する暇なんかまともになかったからな......いや、たしか奇妙な仮面を付けていた気がしたけど__」
「奇妙な仮面の男か......もしやそれは怠惰なる断罪者かもな、またとんだ野郎どもに気に入られてるんだなてめぇら!! クハハハハハ」
口を大きく開けて笑うクロウに僚太は少しだけイラっとすると何か言ってやりたくなる頃には口に出ていた。
「大罪者って強いんだろ? あんたで大丈夫なのかよ」
「あん!? どんだけすくなくみてもクソガキ、てめえよりは強いわ!!」
「おふたりとも......いいかげんにちなさい!!」
やれやれと首を傾げるクロウ、お前が原因だろと僚太は口にでそうになるがフランカに睨まれると僚太は視線をそらした。
プライドと引き換えに手にしたのは僚太が知る中で二番目に強い男であった、そんなクロウの本当の力を僚太が垣間見る事になるのはもう少し先の話である。
____屋敷に着くと門から向こう側はすでに深い霧で包まれていた。
フランカはシャルロットを呼びに行くと言って飛び出したのを見送った僚太達はローズ達の安否を気にしていて落ち着きは無い、外から屋敷を見渡すクロウは静かにつぶやいた。
「この結界は__内側からはられてやがるな......この手がつかえるのは」
「なら入れないのか?」
クロウは少し黙ると答えを述べる、さっきとは感じが違い少しだけそれが頼もしく見えた。
「いや可能だ、俺には魔術の類などは通用しないからな......赤髪、お前はそんだけこのガキを救いたかったのか」
「内側からは絶対に開けられない、無理に出ようとすれば何かしらの術が発動するようになってやがるな」
「大罪者でもあんたと同じことができるのか__」
首を横に振ると口を開く、大罪者でもこれ程の結界はおそらく破れないだろうと言う、ただひとりを除いてはと付け加えた。
それに魔術の結界というのは複雑に絡んだ糸と同じでその術式自体を解かないと解除はできないらしく、しばらく考えていたクロウは僚太に伝える、ここで待っていろと。
飛び出していきそうな感情をやっとの思いで押し殺す事ができた僚太はうつむくと頭を下げる。
「わかった......二人をたのむよ、必ず助けてくれ」
その言葉を聞いたクロウは僚太の頭に手を乗せるとヘラヘラしながら答える。
「あたりまえだ、てめぇが頼った男はこの世で一番強いんだからよ」
「ハッタリだろ? でもあんたは俺にとって最悪で、最強で」
「あっ腹へったな......え? なんか言ってたのか」
ちゃんと本音で認めようとしたのにこの男も実は哀れなタイプなのではないのかと思う僚太であったが本当は優しい人間なのではないのかとも感じていた。




