【第十六話】 上辻僚太は救いたい
その女には確かに見覚えがあった、僚太がこの世界に来てまだ間もなく彼女に命をとられそうになったからだ。
そんな出会い方をすれば忘れたくてもできるはずないであろう、僚太は上から見下ろす者の名を聞いてあらためて問いただす、それが今できる精一杯の抵抗か。
「あんた......こ、こんなとこで何してんだよ」
僚太の方に視線を向けたまま嫌な笑みを見せるアジェータは首をすくめながらフランカの方に視線を変えると静かに聞く、だがその言葉は彼に向けるより優しそうであった。
「フランカちゃん、彼と何処で会ったのかしら?」
「ココリ村でしゅよ? アルタイトまでつれてきてくれたんです」
目を閉じ一瞬だが間があくと静かに答える、相変わらず目が笑っていないのは気味が悪いが先ほどより鋭く冷たそうな目線ではなくなった。
「フッ、今は見逃してあげるわ......ところで少しだけ感じが変わったわね?」
「こっちも色々、死線をこえたからな」
僚太はカッコを付けてみたのだがアジェータは鼻で笑うと振り向かずについて来いとフランカの手をつかむと静かに歩き出す、そのまま歩いていく彼女の後ろ姿を見ていた僚太は思わず口に出してしまう。
「まるで母親みたいだな......」
口は禍の元とはよく言ったもので無暗に女性には言わない方がいいのではないのだろうか、アジェータは振り向くことなく。
「殺すから......」
だがフランカは気にすることなくアジェータの手を引く、このあたりはやはり子供なのだろうかと思わせられる僚太であった。
しばらく路地を道なりに歩いていくと、先ほどから通り過ぎる人物達の身なりが実に何とも言えない外観を際立たせていることに気が付くが。
「ほらフランカちゃん、今回の手間賃よ」
そう言って足を止めるアジェータはフランカに銀貨数枚を手渡すと、フランカは目を輝かせながら食べ物屋らしき看板が出ている店に飛び込んでいった。
フランカを見送るアジェータは少女が店に入るのを確認すると近くの建物の壁にもたれて彼女は静かに問い始める。
「さてと......すこしお話をしましょうか」
「殺される以外だったら構いませんけどね」
「それはこれからする質問の答えによるわね」
「あなたはフランカをどう見てるのかしら」
「え、まだ異性とはみなして__」
「先に言うけど違うから......彼女は獣人、この国でも差別はあるもの、獣人ってだけで嫌われる」
赤面してうつむく僚太は改めてアジェータのほうへ視線を向けると見ると、予想が出来ていなかった出来事に目が点になる。
いつのまにか猫のような耳にしなやかな尻尾を生やしていて器用に動かしている、彼女は僚太の反応を気にした様子もなく腕を組んだまま彼を見ると静かに口を開いた。
「この国の貴族は腐っているからわたしはいつかこの国を潰すつもりなの、さてここからが本題......いったいあなたはどちらの人間かしら、奪う者、奪われる者」
僚太はふと考える、いや彼の場合は考える前から答えは出ている、ただすこしだけ説得力があればいいのだが矛盾であやふやな答えだが本音なのだろう。
「んー、奪いたくないし奪われたくないし、まぁ」
一瞬求めていた答えではない事にアジェータは真剣なまなざしを僚太へと向ける、僚太はニヤリと笑うと親指を立てて彼女に向けた。
「奪われるなら、そいつを救いたいってのはあるかな......そうだな救いたい者だ!!」
「偽善ね......」
「うん偽善者かもな俺は......でも俺のは特大かもしれねぇ、やっぱり誰かに救われたから誰かを救いたいって変か?」
「奪われる者は弱者よ、この世界は奪いとれる奴が強いのそれがこの世界のことわりなのよ、あなたも経験はしているはずよ」
すこしだけ眉を下げる僚太は今度はアジェータに優しく微笑みかける。
「でもあんたはそれに必死に抗おうとしてるんだろ? 正直に言って最初あんたの事がスゲー嫌いだったぜ、ベスト5に入るほど」
「それは__」
「だけど今は印象が変わった、フランカを見るあんたは優しそうだったし、たまにすれ違う子たちがあんた見てにこにこしてたからな、だから偽善でもなんでも役に立つなら俺は使ってあんたを救う......救う奴が救われない程つまらねぇものないからさ」
アジェータは僚太から視線をそらすと、戻って来るフランカに視線をあらためて送る。
「みんなあなたみたいならいいのにね」
自然と口から出たひとり言のような言葉、どちらに向けられたのかはわからない。
巷ではやる貴族殺しがアジェータなのかそれは分からない、だがフランカの頭をなでる彼女はやはりやさしそうで。
「俺もアジェータさんってよんでいいか?」
「それは嫌よ断るわ」
即答で答える彼女だが次に出た言葉を聞いて僚太は吹き出す。
「敬称はつけなくていいから、わたしはあなたと歳はたいして変わらないわよ」
「は?」
「十八よ、見た目の成長が少しだけ早いの獣人だもの、二十から見た目は四十まで変わらなくなるから」
「じゃあなんで色気だした言葉づかいだったんだ?」
それは簡単だとアジェータは言った、耳と尻尾を隠せば大半の男達がついて来るとのこと、言うなればいいカモという事だろうか。
まぁ確かにこの世界に来て何も知らなかったとは言えついて行った僚太自身がそれは良く分かっている。
「俺を殺すのはどうするんだ?」
いろいろな不安要素を取り除きたい僚太はそう言うとアジェータに目を向ける。
「やめた、わたしがすくわれなくなっちゃうし......てかそれでもクソババアだけは取り消しなさいよね?」
痛いところをつくアジェータに確証をえるための質問をもう一つけすることにした。
「さいきん流行ってるって言った貴族殺しはアジェータなのか......」
「まぁもちろん殺してやりたいわ......でも、信じなくてもいいけどここ最近のは知らないわね、闇雲に手は出さないもの」
「俺を狙ったのはどうしてなんだ?」
「気に入らない人間を依頼でどうにかしてもらおうとする人間が多いの、詳しく教えることはできないけど......ごめんなさい」
うつむくとアジェータは黙ってしまう。
あの男が確かに言っていた、アルタイト国には気をつけろと、その言葉の意味を考える。
シャルロットを討てるかもしれない力を持った男を差し向けた奴がアルタイトにいるのだと分かるのに数分。
そして剣聖を嫌う者が人間だけとは限らない、人の皮を被った奴らは魔王の手の内にもいる事に気が付くのに数秒。
「答えはここの屋敷で......でてたじゃないかよ、入り込まれてる、この国に奴らが__剣聖を嫌う奴らが確かに」
「ちょっとなに__どこいくのよ!!」
勢い良く去ろうとした僚太は、急に振り向くとアジェータへ自分の名前を叫んで走っていく、戻ってきていたフランカは深く頭を下げると彼に手を振っていた。




