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鬼灯の袋の中の夢 大人になった今。

「注射をするからね、じっとしといてね、おまじないしたら大丈夫だよー、ほぉら、『イタイノ痛いの飛んでいけー』」


 ふぐふぐ、ふぇ………、半泣きの女の子の、細くて小さい腕に、おまじないと共に針を刺す。ふぇ………あ、?!イチャクナイ、チェンチェー、イチャクナイー!


「うんうん『痛くない』ね、偉いねえ、上手、ハイ終わり。ご褒美にシールをあげよう、どれにする?」


 僕はポケットに入れている、色々なキャラクターのシールが入っている、袋を取り出す。体調が悪いと日に何回も点滴やら、注射やらで針を刺すことになる、なので頑張ったご褒美に、好きなシールを一枚渡すことにしている。


「ンート!こおれ、ネコチャン!」


 白い小さな手が袋から一枚選んだ。いつもすみません、結城先生には、本当にお世話になって、と頭を下げてくるお母さん。


「いいえ、特別な事は何していませんよ。頑張っているのはナナコちゃんと、お母さんですよ」


 カチャカチャと、看護士さんが片付けている中で、あれこれと話をする、『心配ないですよ、お薬よく効いてます』と、ときなに言葉に力を少しだけ込める。


 全力を使い込めると、後で目を回して倒れてしまうので、そこはかるーく、注意しながら使っていく。  


 そう、あの時、まあくんに貰った『チートな力』とは、少しばかり『言霊』が使えるというもの。


 少し気持ちを込めて、言い放った言葉が力を持つ、というもの。神様みたいに、何でもかんでも、現実にはならない、ほんの一時の暗示みたいなもの。だけどそれなりに役にたっている。


 診察において少しばかり、ときには痛い事もするが、その後にちゃんとフォローもしている。最初は、こっぱずかしかったが。そう、


『痛いの、イタイノ飛んでいけー』


 これだ、治りはしないが、一時的に痛みは薄れる。注射も点滴も痛くないと、評判な今の僕。『ヤブ』ではない自信は少しばかりある。


 もちろん日進月歩の医学の進歩は、懸命に追って勉強は欠かさずしている。全力で頑張らないと、先に逝ったまあくんに、悪い様な気がするから。それとお姉ちゃん、そしてここで出会う、寸前まで持っている夢を叶えようと、頑張り追いかける、たくさんの子供達。


「また後でくるからね、では」


 一通りの話を終えると、トレイを持つスタッフの後について病室を出た。 


「先生って………、本当に小児科向きですよね、衝撃でしたよ、真面目に『痛いのイタイノ飛んでいけー』をされるのを見たときは、『ヤブ』って思いましたもん、この前はお土産ありがとうございます」


「困るって、お墓まりの帰郷土産だけどね、それより、ヤブってどういうことなのかな?朝に夕に勉強を惜しまない僕の事?」


「いえいえ、今は結城先生の事ではないですよ、ふふふふ、いえねぇ、真似しても出来ないのですよ、おまじない、だから別の先生が『ヤブ』だぁ、と呼ばれてましてね」


「何。前は僕の事だったの?酷いねえ、そしてまさか真似してるのか、まぁいいけど、僕は構わないよ」


 ナースステーションにつく、僕はパソコンにを開けると、打ち込んでいく、手早く片付けて次の仕事に向かう彼女。僕も次の患者さんのデーターを読み込み頭の中のカルテと、照らし合わせ確認をしていく。




「ん、まだまだ日差しは夏なのかな?暑い」


 休憩時間は屋上のベンチに座る。青い空、夏の空はプラスチックの様に堅い色をしている。最近の温暖化の影響か、年々夏が長く、秋が短くなっているような気がする。


 盆を過ぎたら秋とはいうが、まだまだ暑い。白いプラスチックのベンチは、あの夜を思い出させてくれる。座って、夢をみた。嘘のような体験。


 まあくんとの最後のときが思い出せた。それからのことも、抱えてているトラウマが消せるかもしれない。


 ポケットに手を入れた、そこにはホオズキは入っていない、代わりに一枚のコインが入っている。昔、おそらく秘密基地で遊んでいた時に拾った物だ。


「いつ、拾ったかな、これ、二回拾ったんだよね。二回目は夢の中だけど。そういや、丸々すっぽり抜けてるんだよなぁ、夢の事は思い出せても、現実の過去って、どうやったら戻るのかな、井戸に行けばいいのかな、過去との対決とか、その手の論文読むけど」


 広がる空から風が降りてくる、それは塵芥など含まず、幾分冷たい塊となって見上げる僕に、涼を与える。視線をずらして、遠くに目をやる、そこは黒く不穏な色が重苦しくビルに垂れ下がっている。


 ゲリラ豪雨が来るか、そういえば秘密基地で雨宿りをした記憶がある。知らない人もいたような。それはいつの日だったのかは、酷く曖昧模糊としている。


「あの日は、晴れてたっけ?おっちゃんとのあれこれは、思い出した、そういやアレってなんだったんだろう…………ん?君たちこんなところで、何をしてるのかな?お母さんは?」


 戻ってきた過去の世界を整理していると、スケッチブックと、色鉛筆を抱えた子供達が目の前を横切った。あ!センセーこんにちわぁ、と元気な声が返ってきた。うん、ヨシヨシ。気持ちも脳内も、素早く切り替える。泡沫から現実に。


「あ!見つかった、たんけんしながら、しゅくだいの絵を書く場所さがしてたのです」


「中である物かきなさいっていうんだもん、四角いのと色ぬり、白ばっか。おもしろくないのです、センセーサボりなのですか?しゅざいしてもいいですか?」


「あはは、休憩時間だから、ダァメ、すうくぷは無し、白い画用紙に白か、塗るの難しいよね、て、塗らなくてもいいから、簡単だよ」


 病室が同じなので、院内学級も一緒に登校している二人組は、体調の良いときは最近病棟内で、よく姿を見かける。前は小さなメモ帳片手にしていたから、何を?とこっそりと聞くと、コソコソとした声で、話してくれた。


「いま、はりこみのさいちゅなのです」


「すくうぷきじを、しゅざいちゅうなのです」


 ナースステーションの受付カウンターの下にしゃがんで、時々に顔を上げて覗き見をしながら、何かをメモっている。生真面目な二人が僕達に重なり、僕もそこにしゃがみこんだ。


「何を、すうくぷしてるの?」


「ぼくたちにないしょで、お菓子をたべてないかの、しゅざいです」


「そうです、からいおくすりの後にしか、ぼくはちょこれえとを、たべされてもらえません」


「そうだよね、ごはんが食べれなくなるから、クリスマスの時しか、楽しみないもんねぇ、で誰か何か食べてた?ここのお姉さん達、ダイエットしなくちゃ、それ

 ばっかり言ってるからね、食べてるお菓子止めたら痩せるのに」


「なんと!やはりお菓子ばっかり、食べてるのですか!」


「これは、きじにしなくてはいけません」


 くすくすと笑いながら三人で、声を殺して話している。すると上から声が降ってきたのは、言うまでもない。


「結城先生!何ですか!そんなところで、コラ!君たちも、安静時間にうろうろしない、お母さんが探してるわよ」


 スタッフの一人に見つかり、僕達三人はこってりと怒られた。それから二人とは、こうして出会うとよく話しをする。



「センセー、色ぬらなくてもいいのは、ズルなのでは?むかしやっていたワザなのですか?」


「えんぴつ一本で終わらすとは、やはりセンセーは、僕らの、ししょうなのです。」


「師匠?難しい言葉知っているね、アハハ残念ながら、夏休みのお絵かきは、ちゃんとしていたよ」


 二人の声が懐かしい、姿も話す内容も、ほっこりと何ががあたたかくながら、話をしていると、遠くからゴロゴロ、音を冷たい風が運んでくる。


「『お部屋に帰りなさい』雨が来る。それに風に当たるのは良くない、身体を冷やしたら熱が出るから」


 僕はベンチから立ち上がる。はあい、と二人がそろえて返事をした時、探したわよ、こら!黙って行かないの!と彼らの母親達が駆けつけた。


「先生、すみません、もう!探検ごっこは当分ダメ!」


「あら!雨が落ちそう、濡れたら大変、先生も、ほら!よっとぉ、重くなったわね」


 一人は手を引かれ、一人は抱きかかえられると、慌ただしくその場を後にした。離れた重い音が近づいてくる。水滴を含んで湿気たものも、空気が持つ水、自然の力に溢れる水、人工で作られた水以外、僕はそれらが苦手だ。


 ………ボタ、バタ、バタタ、と大粒が落ちてきた。ヤベッ!僕は屋上の扉へと走った。


「忘れるのなら、全部ひっくるめてくれたら、良かったのに、なんで怖かったのだけ鮮明に残ってるんだよ、中途半端だよなぁ、アレコレ思い出せたのはいいけど」


 頭にかざした手が濡れる。水道とか、シャワー、家や建物の中の水、それらには大丈夫なのだが、自然の中のこれは………大人になってもトラウマを抱えている。いらない記憶が、浮かび上がる。


「これ、捨てたほうがいいのかな、そうだ、お寺に供養してもらうとか、どうしようね、まあくん」


 僕は階段を降りながら考える。ポケットの中をさぐりながら、起きているのか、今は………全てが未だ目覚めぬ、夢の中じゃないのか?閉じ込められた袋の中で生きているのかと、時々に思う。


 ほんとに今が現実、そうなのだろうか、僕は懸命に生きている。あの時思ったことは守っている。だけど実感が、時おり希薄に感じる。


 生きている実感。刹那の体験、その時は鮮明でも、振り返ると、本当に覚醒しているときの事かと、考えてしまう。。


 レスキューに助けられたことも、まあくんと再び出会ったことも、都会の秘密基地のことも、コインの男の事も、全て未だ危うい夢の中じゃないのかと、僕達はまだ、子捨ての井戸の底にいるのじゃないのか、と。


 クスクス、くすくすと幽かな声が、天井からおりてきて、僕の周でくるくると回る。


『クク、ちがうよぉ、センセー、センセーいちどぉ、出てから入ってるもん』


『そーそー、ホントはボクタチ、ミレルノニ、知らん顔』


『聴こえてるのにシラン顔、ゆーれーコワイの?ポケットにカケラ』


『アッチとオナジ、二つでヒトツの物ヲ持ってるのに、シラン顔』


 いつもの様に、話しかけくる。僕は知らない顔をする。あちら側に逝きなさい、成仏しなさい、残念ながらその一言で浄化する事は僕には無理。そこまでは無い。少しの間追い払える事ならば、可能だろうが。


『半分ゆーれー』


 まあくんの声がする。タッタッタッ階段を駆け下りた。足の裏に感じるタイル硬さ、聞こえる雷、雨の音。そして、二人の声。


『こうなればあ、待ち構えてやる!ヒヒヒ、奴らは絶対来るからな、来たら取り憑いてやるさぁぁ!』


『たけるは『見た』だろ、そして、見たという事実は消えない、だから、今渡した力で切り抜けろって、で、出来れば世のため人の為に、使えーって』


 見た事実は消せない、それはあのテレビの映像みたいなものなのか、それか抜け落ちた一日に関係あるのか、おそらく両方だろう、そして今、まあくんから伝えてもらった力は、世のため人のために使っている。


 なのでおっちゃんは悪いが、あの男にあれこれ言うことは、この先無いだろう。


 おっちゃんと、駅の男、何か時折見知らぬ人間に、探られている感覚、ポケットの中の一枚、そして思い出せない一日。調べれば何か繋がる。しかし僕から、先に動くことはない。


 そのうち向こうから動いてくるだろう、だけど関わり合いになる気は無い。その場しのぎになるが、『知らぬ存ぜぬ』を駆使して、切り抜けてみよう。上手く行かなくなれば、その時に考えよう。


 生命を助ける今の立場、そう生者が大切。取り憑いて怨霊になろうかと、嗤う彼の願いの手助けをする気は、さらさらない。


 浮遊霊ならば、文句の一つも言いに来るだろうが、幸いな事に、おっちゃんは地縛霊、あの場所に僕が出向かない限りは出逢わない。なので知らない顔をする。


 何かに、声をかけた。


「悪いな、おっちゃん、ごめん、『出来れば成仏してくれ』」


 何がが、応えた。


 ポケットの中のソレが、出来るわけないだろ、イチドココニコイ、というように、チャリンと跳ねる様に動いた。



 終、――。




























































































































































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