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鬼灯の中の袋の中の夢、子供の時の思い出

「ウゴクナ、イイカ、コワクテモガンバレ」


「鬼灯が導く、動いてはいけない、後でお使いと言うのだ、出口の入口にたどり着ける。では、さらばじゃ」


 赤いのと青いのの声が、真っ暗な中で聞こえてきた。ちょっとだけど優しくさらばって。まあくん達がいってからここは真っ暗になった。灯りは、ぼくの中にある鬼灯一つ。


 それとぼくが光ってるのかな?僕の周りだけがぼんやりと明るい、だけど、怖い、こわくて、こわくて、ガタガタ震える、水がつめたい、怖い、目を閉じても、開けても、何でもかんでも、怖いしかない。


 水はどんどん上がってくる。動いちゃいけないって言われてるけれど、独りでそして、こんな中で上がって来る水は黒の色は怖い、ゴウゴウ響く音も、それに、少しだけ足をあげようとしたら………


「地面に張り付いてるの?ふ、う………動けないよ、どうなるの?溺れちゃうのかな、半分ユーレーだからそんな事、ないのかな、これが力になるって?懐中電灯の変わりなんじゃないの?」


 かろうじてある、薄ぼんやりとした灯りの、ホオズキ、ぼくの手の中に入っている。足の底は張り付いていて動けないのに、膝もどっこも、ガクガク、ガタガタ震える、まあくん助けて!と言いたくなるのを、我慢する。


 半分ユーレーって言われたけど、水は冷たいよ、どうなるの、お姉ちゃんが言ってたよ、グチャグチャになるの?グチャグチャに、イヤだよぉ、くすんくすんと、また涙が出てきた。


 あっと言う間に上がって来る、おへそ、胸、寒い、カチカチと歯がなる、冷たい氷のような水、寒い寒いと思っていたら、今度はアツくなる。


 胸の前にある手の中のホオズキも、熱くなる。


 ガチガチと動く口をぐっと力を入れた。水が口に入ったから。そして、目をギュウと、閉じた。


 まあくん、まあくん、う、ぐ………こわい、どうしたらいい?


 閉じたら、今までみたいに、なるかもしれないと思ったから………、どうやっていたのか、わからないけど、まあくんが起こしてくれる場所に、行けるんじゃないかなって、思ったから。


「ふ、うぐ………行けないの、な、ぜ?わっ!ぐう………」


 たぽん………って、頭まで一気に水をかぶった。海に泳ぎに行った時に、波に飲み込まれたみたい。行けなかったよ、その時お母さんの顔が出てきた、


 お母さん、おかあさん、こわい、こわい、おかあさんおかあさん、たすけて………、こわい、おかあさ、ん。


 何度もおかあさんって呼んだ、呼んだけどぼくが悪いこだから、たすけてくれないの?遊んでばっかりだったから、勉強しないって何時も怒られて、やってるのに怒られるから、まあくんと二人で


「スーパーうるせークソババァ」


 なんて言ってたから。だからたすけてくれないのかな、半分ユーレーなのに息が苦しくなってきた。その時、握っていた手の中がすうぅ、と空っぽになった。


 無くなったの?力になるって言ってたのに、赤いの、青いの嘘つきだ。………ふわりと張り付いていた、底から足が離れた。何かに浮かぶ様な感じがした。


 やった!と思った。水の中で目を開けた、なんとか独りで頑張らなきゃ、誰もここにはいないから。水の上までいったら!井戸の外に出れるかもしれない、


 ぼくは上を見上げた。動くなって、言われてたけど、水の中では流れでぐるぐる回る。なので、必死で水の中で、もがもが動いていた。


 すると足を何かに掴まれた、そしてそのまま底に引きずり込まれる、何!なに!なんでどうして?動いたから?恐くて、ぎゅと目を閉じた、それしかもう出来なかったから。


「え?なに?」


 ゴウ、と暖かい風に、バサッ包まれた気がした。びっくりして目を開けた。そこはオレンジ色のテントの中みたいな場所。暖かく明るい、後ろを振り向くと、丸いオレンジの実が光っていた。不思議な所に来ていた。


「アレレ?どこ?まあくん、まあくん!うわぁぁぁん、怖かったよぉぉぉ、おかあさんゴメンなさい、クソババアってもう言わないよぉぉ」


 プカプカと、浮いているみたいな感じがしている中で、ぼくは、またまたわんわん泣いてしまった。


 ホントにこわくて、こわくて、死ぬかって思ったし、赤いのと青いのが言ってた事も、信じられなくなって、それもこれもぼくが、お母さんを『クソババア』って、呼んでたのがいけなからとか、あれもこれもが、まぜこぜになって泣いた。


 ………しばらく少しだけ、落ち着いてきた。なのでそろりと見渡したす。安全な場所に来てるのがわかった。座っている場所の布切れを触る。あれ?布じゃない、これって、触ったことある………!


「え?ホオズキ袋の皮みたい!上!閉じてる、後ろのって、実?アレ?手の中のがやっぱり無い、ひょっとしてコレ?わっ、わわ!浮いてるんだ」


 グラっときて、ぼくは四つん這いになった。ぐるぐる、ぐるぐる、渦巻きの上にいた。それはどんどんと、下がっている。渦の中心に黒い穴が、小さくポッカリと空いていた。


「………入れるの?大きさからして、無理っぽそうだけど、ちらっと、見たあんなのになるの?どうしよう、ヤダだなぁ」


 少し心配になっていたけど、何故かものすごく安心していた。この中いれば大丈夫、そして『出口の入口』にいけば帰れるんだ。オレンジ色の中でぼくは、かえって、帰ったら、何でも一生懸命にがんばろうと思った。


 まあくんの分まで、あとお姉ちゃんの分も、ちょっと入れて大きくなるんだ。それでもって、クソババアなんてもう言わない。


 穴に引き込まれる、黒いポッカリとした口を見ていたら、テレビのドラマみたいな絵が出てきた。なんだろう、ぼくは目を凝らしてそれを見た。


「喧嘩してるの?」


 一人が顔をあげた。ほくろが、目に入ったその時、どぼ………黒いなかにホオズキが入った。辺りが真っ暗になった。何も見えなくなる。ポケットの中のがポッと熱くなる。ぼくはなぜだか、そこでふわりと寝てしまった。


 今度は誰か起こしてくれるのかな。て思った。




『オイコラ!起きろ、起きろ、ん、書いてあるな、ナマエ、たける、たける、ホレオキンカイ』



「起きて、起きろよ。しゃーねーなぁ、仕事が終わったのなら、家に帰えれ」


 ゆさゆさ、そして声、声が重なる。最初の声は形が無い妖怪みたいに変わって、スライムに目玉の姿のおっちゃんだ、あー、良かった、まあくんがアレにならなくて、あとお姉ちゃんも、とぼんやりしてると、次の声が大きくなる。


「起きろ、ゆーきせんせー、タケルセンセー起きろー!家に帰れー!」


 起きろ!と軽い物で頭を叩かれた。何?え、ここどこだと、勢いよく体を起こした。おわ!びっくりと言う声、


「あれ?え、ああ、ゴメン、夢見ちゃって、て………。あー、紅茶冷めちゃった」


「ったくもぉ、ここどこって何だよ、記憶障害か?ワーカーホリック、明日の休暇は、よーく休めよな。数十秒あったら、寝るし、帰る前に眠気覚ましにって、紅茶入れて、蒸らすからーって置いて、待つ間に寝落ち、すごい能力、入れ直したら?」


 遠慮のない同期が、コーヒーを飲みながら笑っている。目は覚めたけれど、まだ寝たりないのか、目が重い、帰らなきゃ、とテーブルの上のカップに手を伸ばした。


「めどくさいから、いいや、アイスだと思えば………、うー、なんか悲しい、てか、君………さっきもコーヒー入れてなかった?」


「二杯目、今日夜勤だってのに、昨日寝付けなくてさ、今になり睡魔が、これぞ医者の不養生」


 二杯目?この時間に、夜も飲むから、睡眠不足の上に、カフェインの過剰摂取は、良くない、と僕が言えばいや、君の慢性的睡眠不足の方が良くない、と返ってくる。


「あー、んーふう、帰ろかな、明日は実家に戻るんだ、お墓参りしなきゃ」


「はあ?あー、ん?シフトって、明後日夜勤か、なら、行ってらっしぁーい、お土産よろしく!」


 パソコンの勤務表を見てから茶化してくる彼に、めんどくさいから、駅ステの名産品買ってくるわ、と言うと、そんなのイラネー、老舗のなんとかとか、無いのかよ、あるけど、買いに行くのがめんどくさい。と軽いやり取りが次々と広がる。


「まっ、気をつけて、お疲れさま」


「うん、じゃぁ、何かあったら頼むね」


 おー、任せとけ、すぐ帰れメッセ送るから、はい?ヤメロよ、じゃぁ、おつかれ、お先に、といつもの様に、やり取りを終えて、僕は家路についた。



 翌日、新幹線に乗るために僕は駅に向かって、歩いていた。通勤通学の時間、いつもの混雑。人の流れに乗って進む。生真面目な都会の蝉がシャンシャンと鳴いている中。


 今日は、いつもと違うホームへと向かう。途中売店で飲み物を買うためレジに並ぶ。栄養補助食品のクッキーも、なんか………ダメダメな食生活を実感。


「やれやれ、健康の為に階段で行くか、時間まだもあるし」


 腕時計に目をやる、タン。と、一段、そしてトントン、トントン、と規則正しく昇っていく。エレベーターも混んでいるが、階段もそこそこ多い、その途中で、チャリン、と音。あ!ダメ、と声。


 コッ!と数段上の男の足元から、何がが、弾かれて落ちてくる、偶然か、それは僕の元にコンッ、コツ!と跳ねてから転がってきた。どこ?と降りてきながら探す男。


 周囲には大勢の人からいるにもかかわらず、誰も知らない顔をしている。しゃがみ込みそれを拾った。ドキンとした、見覚えのある一枚だったから。


「おっと………あ!これですか?」 


「あ!ああ………、すまない、ポケットから取り出したら、うっかり落としてしまって」


 呼び止めて、拾った少し曇った金色のそれを、手渡した。僕は気になりポケットに手を入れる。ヒヤリとしたモノがそこにある。夏場そして体近くにあるにも関わらず、それは冷たい温度を保っているかのよう。


「良かったよ、とても大切なものなんだ、ありがとう」 


 受け取ったコインを、大切そうに、ジャケットのポケットにしまい込んだ男。いえ、と返事を返した。


 僕が持っているそれは、あちこち傷が付き、酷く傷んでいる。表面の模様も二人で磨いて遊んだために、摩耗してぼんやりとしている。


 夢の中でも同じ物を拾った、夢の中のリアルな記憶、拾った一枚。それが元からあるのに合わさった気がする。僕の手元には一枚しかない。


 それからなんとなく一緒に並んで、プラットホーム目指して階段をのぼっている。僕はさり気なく、男を観察をした。


 きちんとセットされた髪、麻のコットンスーツ、白いシャツにビジネスバック、どれも質がいい、靴も手入れをされ磨かがれている。


 何か?と聞かれたので、いいえ、『何でもありません』、とっさに笑顔で答える。目元と口元に、相手に有無を言わせない、力がある。ソレは何処か剣呑としている。そしてなぜか殊更、ひっかかる口元のほくろ、危ない、近づくな、と知らせてきた。


 二人の声が響く。


『たけるは『見た』だろ、そして、見たという事実は消えない、だから、今渡した力で切り抜けろって、で、出来れば世のため人の為に、使えーって』


『こうなればあ、待ち構えてやる!ヒヒヒ、奴らは絶対来るからな、来たら取り憑いてやるさぁぁ!何かあれば情報を流せ!』


 ゾクリとした。思い出したかった事、ポケットの中のコイン、いつ拾ったのかは酷く曖昧で、なぜ僕たちは落ちたのか、すっぽり抜けているその日。


 あの日は………そうだ、夕立が来ていた気がする、誰かに出会った様な、雨が怖いのは、中の記憶とは違う、なぜか。被さる様に満ちる水を思い出し、酷く気分が悪くなった。


 墓参りはやめよう、と僕は判断を下した。どうされたのですか?男が聞いてくる、『何でもありません』と話すと、離れるためにわざと、胸ポケットから携帯を取り出す。


 通行の邪魔にならない様に、隅に寄り画面をスクロールする。何も通知などは無い。ザワザワとした中に、先程の男が消えていく、階段を上っていく、僕は階段を下りる。


 家に帰ろう。僕の事は、あの男にそのうち伝わる、そんな気がしている。最近時折、誰かに見られている、それは生きてる人間の気配。しかしあの男とは別の気配。


 ポケットの中が動く。今朝の出会が、この先どうなるのかはわからない。そして絡み合う過去と現在。何かを調べられている。


 思い当たることといえば一つしか無かった。だから思い出したかった。大人になるにつれぼんやりとしていった、夢の世界。まあくんとの日の記憶。


 肝心な事はやはり抜けてはいるが、何か手助けには、なるだろう。僕は精算を済ませて、外に出た。シャンシャンと鳴いているクマゼミ、気持ちを変えたくて、駅前のコーヒーショップに入る。


 モーニングを頼むと、実家にメッセージを入れた。帰れなくなった事を知らせた。あれやこれを………、一度キチンと組み立て直さないといけないかもしれない。


 ショップのウィンドウ越しの外の世界、大人に紛れ勉強道具を入れてる子供の姿が目に入る、同じリュック姿でも、遊びに行く様子の子供達とは、やはり顔付きが違う。


「夏休みの夏期講習か、懐かしい」


 思い出がおそらく詰まっている、一枚を取りだした。じっとそれを見る。事故のせいで、夢以外は酷く曖昧だけど、朝日をうけて少し光を放つそれを見ていたら


 子供の時の、切れ切れに覚えている事柄が、ふうわりと思い出された。悲しい事があったのに、浮かぶそれは、


 とても楽しかったことばかり。








































































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