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鬼灯の中の夢 秘密基地空気と、ばっしゃぁあんと捨てた。

「秘密基地か、懐かしいな………僕達の場所とは、全然違うけどな」


 二人が出てきてから、僕はそこにするりと入った。両手を広げれば、向かいあうビルの外壁に手が当たる、今は袋小路になっているが、かつては抜け道の様な通路があったのだろう。


 ビルからの排気熱で熱い中を、進んで行くと、古ぼけたコンクリートブロックの壁が、立ちはだかる行き止まりになり、そして少しばかり開けた場所に出る。


 カクカクとしたポッカリと空いた空間。囲われているようで、そうでない場所は狭い通路より、幾分涼しさを感じる。都会の秘密基地に相応しいな、と思う。


 以前、一度間違えて入り込んだ事があるそこは、その時には気が付かなかったが、カラフルなプラスチックの百均の椅子が二つ、壁際に置かれている。それを見てなんだか楽しくなった。ここで楽しい時を過ごしているのが、見えたから。


 ゴミは持ち帰っているのか、椅子以外の物は無い、でも少年達の気配はある。その場の空気が『昔』を連れてくる。椅子の一つに腰を下ろした。もう一つにセロファンのホオズキを置く。


 上を見上げる、ポッカリと空いた穴のような空。『昔』は、事故のせいでよく………覚えていない、しかしその時に見た『夢』の事なら不鮮明になりつつ覚えている


 くるくる、クルクル、起こされては眠る、起こされては、眠る、不思議な夢。


 大人になるにつれ、どんどん薄れていったそれ、もう一度、もう一度だけでいい、全てをクリアに見たい、みたいと願い続けて来た。そうでないといけない事がある。最近になり動き始めた事。


 目を凝らす、穴の底から見上げたような空に向かって。記憶が『声』を創り出す。『盆踊り』『鬼灯』『秘密基地』『仲良しの少年』『穴から見上げた空』あやふやだった消えかけたそれに絡み合う様にまとわりつく。


 ホオズキの袋中で見た夢の記憶。会いたい『まあくん』との世界。最後の『おっちゃんのミッション』


 目を閉じてみた。しばらくそのままにしていると、眠気を感じた。行けるかもしれないと、その流れに僕はすべてを委ねた。


 あれから何度足をはこんでも、大人になり休みを合わせ帰郷して、僕達の秘密基地に、ホオズキを携え行っても、時を同じにしても、何故か見ることは出来なかった。


 そうか、足りないのは『秘密基地の空気』だったんだ、あそこは………、あれから、すっかり変わってしまったから。


 そう、誰ももう、秘密基地に使っていない。



「起きて、おきてたけるー!」


 おは!?て、ここどこ?図書館?図書館か?まあくんにゆさゆさと起こされて、目を覚ます。冷たい机、紙の匂い、ポーン、ポーンと閉館を知らせる音が流れている。


「あれれ?変な夢見てたよーな」


 何寝ぼけてんの、帰ろーぜと話してくる。ぼくは頭の中の『?』が、七色にチカチカ光って来たのを、とりあえずおいといて、広げっぱなしの、ワークやらプリントを集めると、リュクに適当に入れ込んだ。


 カサリ、短パンのポケットで何か動いた様な気がした。恐る恐る手を入れて、それを取り出す。


「あれ?ホオズキだ、いつ採ったっけ?」


「んー?たける今の時期、見つけたら採ってるし、ここに来る途中の公園でとったんだろ、ほら帰ろ、もう閉まるし」


 うん、とそれをポケットの中に入れる。そしてすっかり顔なじみになっている、受付のお姉さんに挨拶すると、正面玄関の扉をおしあける。もああ、とした夏の空気が向かってきた。


「あー、アッチ!アイス食べよー、きょー、かてーきょーし来るんだよなー、めんどくせー、たけるは?」


「夏休みだから、お兄ちゃんが帰ってる、今度アルバイトで、かてーきょーしすっから、ぼくで練習してるし、あんな教え方じゃ、お金取れないよー、ぜんぜんヘタ!まあくんちのセンセーの方が上手」


「………その返事だと、商店街の土曜夜店には、おたがい行けないのかぁ」


「あー、そんなのあった!ムリ、もうすぐ全国テストだしー、その結果で秋からの塾のクラス分け決まるし、夜に出歩くのは一つだけ、盆踊りかどっちかにしなさいって、お母さんに言われたから、盆踊りにしたんだ」


「うん、取るなら盆踊りだよな、子供会の券持っていけば、お寺からお菓子無料でもらえるし、屋台も夜店より多いし」


「ウンウン、お菓子無料券は大きい!行くならそっちだよねー」


 一番近いコンビニまで川べりの遊歩道を、いつもの様に二人並んで歩いている。図書館近くの公園に沿っているそこは、公園側に大きなプラタナスが、きちんと並んで植えられている。


 向かい側には焦げ茶色に塗られている柵。その向こうにはコンクリートでカッチカチの姿の川、白と黒と青と緑の絵の具を混ぜたような色した水が、よーく見ると動いている。


 時々ねずみ色の陰が浮かんできたり、背ビレをみせたり、トポン、て音立てたり………、岸辺に亀が日向ぼっこしたり、白いサギが立ってたり、黒い鳥がいたりする。


 みーんみんみん、ニィニィニィ。それに混じり、ツクツクボーシ、ツクツクホーシ、と聞こえた。ウィオース、ウィオース、ウィー、と聴こえる。ツクツクホーシから始まって、ウィーで終了。


「わあ!まあくん。ツクツクホーシ鳴いてるし、あー、ガッコもうすぐだよなぁ」


「ホントだ!鳴いてるし、夏休みのが塾だけだから、らくだよなー、塾のセンセーにかてーきょーしに、センセーばっかなのに、そこにガッコのセンセー、つまんない!」


「アハハ、ホントだ、センセーばっか、あ!見てみて、こんなとこに、ホオズキ生えてる!これって薬草なんだよ、おとーさんに教えてもらった」


「へー、そうなの、で、たけるって、何でも見つけて採るよな、何だっけ?前にヘクソカズラだっけ?握って、クサ!ってなったじゃん、おお!?これ良くねー?」


「まあくん、変な事覚えなくていいよ、ホオズキは臭くない、まあくんも何でもよく拾うじゃん、えー!その石前に拾ったのとおんなじだよ!」


 洗えばこの辺に石英があるよーな、まあくんの趣味は、石ころ集め、ぼくはその辺に使える薬草が生えてるって、お父さんに教えてもらってから、それらを見つけるのが楽しみになっている。



「…………うん、これは持って帰ろう、こっちのは………青石かな?磨けば面白そう。あ、コレはいらねー、駐車場「」の砕石だ!いらねー!」


 しゃがんでアレコレ見ていたまあくん。遊歩道は踏みしめられた土。なので結構小石がある。プラタナスの葉っぱが落ちている。小枝も、ぼくは木の根元の草むらで、見つけたそれをプチンと摘み取った。


 皮をむいて中身を出す。つるんとした、オレンジ色の丸い実が出てきた。匂いをかいでみる、青い夏草のそれがした。


 まあくんはエイ!と要らないそれを川へと投げた。とぷんと音がした。丸い輪っか『波紋』と立ち上がる水って『クラウン』って、いうんだよな、お兄ちゃんが大学で、カメラやってて写真見せてくれた。


「………、つまんない、つまんないな!もっと遠くに投げれるのに。荷物重いから投げられない!邪魔!」


 そう言うと背負っていたリュックを下ろして、ザッと投げるように置いた。うぉ!まあくん、砂まみれにしちゃ、帰ったら怒られない?


「エイ!いらない!駐車場の砕石!これも駐車場の、これも!みんなみんな!いらない!」


 どぼん、ドボン、とぷん、チャポン!歩きながら拾って、次々に川に投げる。ぼくもなんだか面白くなり、摘んだそれをポイッと、捨てると石を拾う。


 背中でリュックがとすんと揺れる。肩に重さがかかり、遠くに飛ばせない。それでも二人で石ころを投げるのは、変に楽しかった。


「あー!いらない、いらない!勉強ばっか!お母さんの夢叶えて、あのガッコに行って!おとーさんの跡継いで!じぶんですりゃいーじゃん、いらない!ワークも教科書も、プリントもノートも参考書も!シャーペンもマーカーも!みんなみんな!重い!邪魔だ!」


 石ころを投げ終わって、リュックを拾いに戻ったまあくんが、ズシッと重いそれを持つと、頬を膨らませて文句を言い始めた。


「え?そんなに今日の授業の重かったっけ?」


 肩ベルトを手にしたまあくんは、ニヤリとイタズラっぽく笑う、そして


「いらねーから!こうするー!」


「はあ?ち!ちょっと待ってよ、あ!イタ!」


 まあくんはハンマー投げの選手の様に、リュックにグルリと回って勢いをつけると、川にえーい!と投げた。バシャァァン!と派手な音。その行方は、ぼくは追えなかった。


 水って飛沫が立ってるのも見れなかった。まあくんの顔も。砂埃が目に入って、ギュッと閉じでしまったから。


 ポケットの中のホオズキが、カサリと動いた気がした。



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