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ヤブにはならない

「おきて、起きて、たける。たける、起きなさい」


 起きて、目を開けて、もう塾に行けなんて言わないから、ゲームも漫画も好きなだけ楽しんじゃっていいから、ね、だから目を覚まして………。


 ん?まあくんじゃない、塾に行かなくていいって!?ゲーム漫画?うそうそぉ!そんな事絶対に無い!お母さん、嘘言っちゃイケない!嘘つきはドロボーの始まりって言うよね。


 起きろって………登校日?それとも塾だっけ?ぼくは起きようと体に力を入れた。あれ?なんか………へん、ものすごくボンヤリしていて、それでいてあちこち熱い、そして痛い!


「イ、タイ」


 カスカスの声が出た、ピッピッピッ、と規則正しい音。消毒薬の匂い。熱い、痛い、気持ち悪い、気分悪い、吐きそう、痛い、


 まるでインフルエンザで筋肉痛くて熱が出て、それにノロにもなって、おまけに怪我して、あちこち痛いのが、全部まざった様なモノ、


 それがぼんやりと気がついたぼくに、一度に押し寄せてきた。イタイ!てるのにお母さんが、ぼくの手を力一杯握ってきたし………、引っ込めようとしても動かない。


「たける、たける、お母さん!お母さんよ!」


「オイ!お兄ちゃん!お兄ちゃんだぞ!返事しろコラァ!!ぶ、ぐ………!母さん、俺、看護士さんと!父さんに知らせてくるよ!」


 返事しろっコラァって、お兄ちゃん、とりあえず、うんうんとギコギコ動かすと、なに?鬼の目にも涙っての思い出しちゃった。ぼくの視界から姿を消した。で、ここ、病院?病院だな。


 それからは大変だった。何しろ酷く気分が悪いので、さっさと寝ようと思ってたのに、パタパタと静かに忙しく看護士さんや、先生が来た。先ずは名前を聞かれた。


「ゆ、う、き、た、ける」


 ふう。なんとかミッションは果たせた。さぁ寝ようとしたのに、お父さんやお母さん、お兄ちゃんの名前やら、通うガッコの名前やら、学年やら、センセーやら、次から次へと色んな事を聞いてきた。


 え、とお、質問に全て全問正解じゃ無いとイケない様な気がしたので、ボーとしながらポツリ、ポツリと答えを探して話した。ものすごーく時間がかかった。


 それから、イタイ!ていうのにセンセーが、あちこち触って診察して、センセーの馬鹿!お母さん!なんか嬉しそうにしてるし、イタイ!センセー痛いよ、もう………キライ!


 お父さんが来たら、センセーの事『ヤブ』って言ってやるんだから、覚えてろ!



 みんな一度出ていった、もう大丈夫ですよって、ヤブがお母さんに話して、何か話があるみたいで、今ぼくは独り白い部屋にいる。


 色々つけられてたのは、もう要らないね。と看護士さんが外してくれて、ピッピッピッの音もない、し、んと静かな場所。あちこち怪我してる。手のひらをグーに、パー、何回か動かしてみた、足はギプスで固めてあるみたい。


「右足の骨折と、あちらこちらの打撲、石に打ちつけたかな、腕の怪我は縫ってるからね、それと頭も打ってたよ。良かったね、背中のリュックが上手い具合にクッションになったんだよ、でも、10日程意識がなかったんだ、しばらく入院、わかったね」


 ヤブがニコニコ笑いながら大人しくしてるんだよ。せっかく助かったのだから、と話した。お母さんが、先生その事は、と慌てて止めたけど、ぼくはしっている。だから黙ってヤブに頷いた。



 ポタン、ポタンと落ちる点滴を眺める。まあくんはもういないんだな。寝てるうちにいっちゃたんだ。起こしてくれればよかったのに。夢の中では、何回も起こしたくせに。


 うん、知ってる。まあくんは帰りたくなかったんだ、重いリュックを捨てたもん、なにもかも要らない!って川に投げちゃった。捨てちゃった。


 重いと、つかまれないもん、そういや秘密基地に来たら、まあくん直ぐにリュック下ろしてたっけ。そんなに重かったんだ、家が嫌だっんだ、どっかに行きたかったんだ。


 いつからだっけ、リュック捨てて、ランドセルも、みーんな捨てたいって言ってたの………そうだ、将来の夢、そうだ、あの作文を夏休み前に、ガッコで書いたあとから。あの時からよくぜーんぶいらない、って言ってた。


 ぼくはその時、お医者さんになりたいと書いた、これは小さい時から変わらない。そしてそして今日決意した。『ヤブ』になんかぜってーならない!


 まあくんは、表と裏を書いたんだ、ガッコのは親に見られるからって、お母さんの言う中学、高校、大学に進んだ後は、少し海外でお勉強して、お父さんの会社を継いで、て書いたんだ。


 裏は、秘密基地で書いたんだ。石ころが好きなまあくん、鉱物学者とかー!考古学やりたいなぁ!琥珀って化石の宝石、ダイヤモンドって、何であんなに色あるのかな?翡翠や金って、海岸に打ちあげられる所あるんだぜ!


「…………、僕は将来考古学をやりたいです。地球の昔を調べたい。化石に閉じ込められた『声』を聞いて、どんな世界があったか、どんな自然があったのか、知りたいのです。これが僕の将来の夢です」


 でーきた!これがホントのやりたい事!と、書き上げたのを、隠しとこ、と銀杏の太い幹にポッカリと、空いてる穴に畳んで入れた。


 お願いしたら叶うかな、てパンパン手を打ってお願いします!って頭を下げたんだ。じゃ!ぼくもって、とりあえずパンパン手を叩いてあわせた。


 少しずつ思い出してきた。それから遊んで、二人で井戸の場所に行って、あれ、どうしたのかな、行ってどうしたのかな、うまく思い出せない。


『二人で落ちたんだよ!何度も起こしに来たんだぞ!たける、全然起きないし』


「あ~や〜っぱ〜ゆ〜れ〜」


『はい?天使様だよ!もう!何でユーレーになるんだよ!』


 ふあ、と天井近くに出てきた。ユーレーって、怖くないんだな、と思いながら、何か嬉しくなって、ぼくはへにゃって笑う。へへへ、ってまあくんも笑った。


 へにゃへにゃだなぁ、って近づいてくると、ぼくの頭に手を置いた。あれれ、置かれてるってのがわかる、あったかい。


『いーか、ユーレーじゃ無いことをしょーめーする!』


 あったかいのが、ドンドン広がる、広がっていくうちに、へにゃへにゃの世界がカチンとはっきりしてくる。


「一つだけ『チートなスキル』を渡すよう預かって来た。危ないって、お地蔵様がそう言ってる。あの場所の事はヒ・ミ・ツだかんな、いいか絶対に話したらいけない、たけるは『見た』だろ、そして、見たという事実は消えない、だから、今渡した力で切り抜けろって、で、出来れば世のため人の為に、使えーって」 


 はっきりとしたまあくんの声。どきんとした。どうして落ちたのかは、覚えて無いけど、他の色んな事は覚えている。


「う、うん、言わないけど、チートなスキルって、タダでもらえるの?何かと、引き換えとかなんじゃないのかな」 


 何かが僕の中ににゅるる、と入ってきた。変な感じたけど気持ち悪くない。夏にアイス食べて、つめたーい塊が、喉に入ってきたときみたい。へにゃへにゃじゃなくて、言葉がはっきりでて来るよ!まあくん!ユーレーじゃなかったんだ。


「ご褒美だって、たけるが持っていた、こっち側のホウズキが道を繋いだって、ちょこっとだけ覚えてる、最後のときに、ぼくが痛くて、痛くて咳き込んで、その時ホウズキに手をのばして実を握ってた」


「そうだっけ?あ!だから短パンにホウズキ入ってたのかな、よくわからないけど………、咳止めになるよ、ってお父さん言ってたから、うーん、覚えて無い」


 残念だけど、全然覚えてない、頭を打ったら忘れるって聞くけど、本当だったんだ。何してて井戸に落ちたのか、まあくんの事とかそんな事はすっぽり抜けてる。


 はっきり覚えているのは、夢の世界の事だけ。それと大丈夫か、と、オレンジ色のお兄さんに、聞かれた時にちらりと見えた、白い骨。そしてぼくだけが知ってる事。帰り道で、出会ったおっちゃん。


 井戸にいたんだ、ぼくたちよりも前に、合わせて二つ。そして一つは、ずーとそこで待っていて、まあくんと『外』に出れた。ぼくの知り合いだったから。


 でもう、もう一つもずーと待ってて、だけど、いまでもそこにいると思う。おっちゃんは、知り合いじゃなかったんだ。それに埋もれてたから、上がってこれんかったって言ってた。


 おっちゃん、底のそこで『秘宝』を守ってる門番とか言ってたけど。ホントかな?


『一度、外に出たいなぁ、ぼく連れてってくれんか』


 て言うから、『出口の入口』に向かって、一緒に歩いたんだ、独りでは寂しかったし、暗いし、灯りは鬼灯だけだったし、色んなモノが、フアフア飛んでるし、


 時々、


『くお!ハァァ!』


 て向かってくるし、その度におっちゃんが


『ギシャァァァ!舐めるなごくどう(極道)の眼力!』


 とか言って睨みを効かせたら、シュン!とそれらは消えていった。とってもお世話になった、だから鬼灯がカレ枯れになった様な、アミアミの皮みたいなのがあって、その向こう側の世界が見えた時、


 ゴールにたどり着いた。おっちゃん!やったぁって、ハイタッチしたのに………


 出口に来た、とぼくがそれをベリッ、破って入口開けた、ぼくは外に出れたのに、おっちゃんはそこを潜れなかった。


 何回やっても、おっちゃんは潜れなかった、だからもうええわ、って言った。そしてにやぁ、と嘲笑うと


『こうなればあ、待ち構えてやる!ヒヒヒ、奴らは絶対来るからな、来たら取り憑いてやるさぁぁ!』


 って変なスイッチ入っちゃった。


 そしておっちゃんは、埋まってしまった場所に帰った、ずーと、ずーと穴の底。なにもかも底のそこ。


 そこで、ずーと待ってるんだって、もし何かあれば情報を流せ!とか、最後に言われちゃった。


 危ないって、この事かな?おっちゃん、何を守ってるのかは、ニヤリとわらって教えてくれなかった。
















































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