1-4
そこに広がるのは、海外ではトルコの下町とでも言うべきか、石とレンガ造りの混成、そして、もともとは二軒の家、その間にある小さな路地を塞ぐようにして壁を足して屋根を付ければ、二軒の家が三軒の長屋に、通れなくなった路地変わりに後付けで足された階段
長屋の壁は足された分だけ鮮やかに映えるレンガと石の縞模様になり、目を奪われてしまう。
今出てきた建物は長屋繋ぎの角部屋のようだ、
長屋繋ぎではない開けた方は、石造りの塀とも城壁とも言えない、所々が木造の外壁、自分の前には井戸が、簡単な屋寝付き鶴瓶と、共用のように見える手桶と柄杓。
特に踏み鳴らされてる井戸の周りから街の入り口に向かう道が人の出入りを感じさせる、長屋と同じくらいの長さで、馬が100頭は入りそうな厩舎が外壁に沿ってあつらえてある。
入り口のすぐ脇に長屋と雰囲気や壁の造りは同じものの三階建ての一軒家、一軒家と言うべきか屋敷と言うか悩む建屋である。
そして入り口の方へ歩き出すおっかさんについていくともなれば、その屋敷に向かっているのであろう。
入り口を挟んだ屋敷の反対側の厩舎で馬に飼い葉を与えていた男がその手を止めて、走り寄って来る
「クラーナさん!その子!無事だったんですね!起きれたんですね!」
その青年により、おっかさんの名前が判明した
「見てわかる事聞くようなアホさは治らないのかい?ランディは話を終えてるようね!」
「はい!女の子の方は今二階で休んでます!」
二階に目をやると窓越しに小さな影がこちらを見ているようだった。
「(多分あの子だよね、女の子だったのか…)」
「ジョン!あんたはとりあえず、あの子とこの子の分の湯でも沸かして待ってな!」
「はい!」
二人の声はとても大きい、中の人たちに前触れとかそういうのが必要かどうかもわからないけど、自分が起きてここに今いるというのは伝わった思う。
ノックや声をかけることもなく屋敷の扉を開けるクラーナについて中に入る、ちらりと後ろを見るとジョンがニコニコしながら手を振っている。
中に入るとカウンターが目に入る、その向こうが何かの仕事をし、手前は共有スペースのような、小さな郵便局のようにも見える
カウンターの脇を通り、カウンターごしに見えなかった机の上は雑然と鞍や矢、砥石などがあり、弓の張りを見ていた男を含めて、四人の男がなんとも言えない顔でこちらを見ている。ジョンと呼ばれた表にいた青年とは異なりなにかしらを察している、そう思えた。
「ランディ入るよ!」
奥のドアの前でクラーナさんが声をかける、返事も待たずにドアを開ける
「あぁ、悪いねクラーナさん、まだ少し顔色はよくないみたいだね」
ランディと呼ばれた男は、あの時「大丈夫だ」と声をかけてくれた男だった、あの時は印象やどうのもなく、ひたすら取り乱していた。改めてみると暗い茶色の髪を短く揃えた体育会系の中の爽やか系、学生時代はサッカー部のキャプテンしてました、と言われても自然な風体だ
「体が冷えちまってるみたい、炭焚かせてもらうよ」
そう言いながら窓の下にあった、七輪のようにもストーブのようにも見える壺、その蓋を開け、組み立て式の煙突の先を窓の外に出す、とても慣れた手つきだ
しかし、囲炉裏や暖炉では無くストーブのような物がある
季節は今、秋口なのだろうか、まだ暖房を付けるほどではない気もするが、起きて体を拭いてる間に肩を震わせたり、油断して歯をカチカチ鳴らしていたかもしれない。
「ジェリコ!火種持ってきてくれるかい!!」
クラーナは顔を合わせてない相手に伝える為に更に大きな声だ、ドアの向こうからバタバタと慌ただしい音がする。
そうしてる中でランディは椅子をストーブ(?)の側に持ってきてくれた
そのまま自分の椅子に戻るランディにクラーナはついていき何かを耳打ちしている。この人からこの距離で周りに聞こえない耳打ちが出来るとは思っていなかった。
手短な耳打ちだったのだろう、すぐさま終わり
「あたしはとりあえず帰るよ!おわったら髪洗うのに川つれてってやりな!」
誰に言ったのかわからなかったが、彼女がドアを開けると
「はい!わかりました!」
表にいたジョンが炭を入れた金属のバケツと、湯気のでたコップを持ち部屋の中に入って来た
すれ違うようにクラーナは部屋を出る。
「両手防いでドアを開けられないバカと見てるだけのバカしかいないのか、あたしならいつも通り優しく困ったジョンを助けると信頼してくれてんのかい?」
部屋の外でめちゃくちゃ怒ってるクラーナの声が響く、いたたまれない気持ちになるが、ジョンはニコニコしながらお湯を渡してくれる。
いつの間にかまた立ち上がっていたランディはため息をつきながら、ジョンからバケツを受け取る、ジョンはすぐに部屋を出た。
ランディはストーブの中に赤く光る炭を入れながら話しかけてきた
「大丈夫かい?こちらも聞かないといけないこともあるけど、まずはなにから話そうか?」
お読み頂きありがとうございます。
見知らぬ文化って怖いですよね。なろうの読み専が書き始める、少し勇気がいりました。