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世界は変われど平穏を  作者: 藤々
一章:行方知れずの平穏
4/38

1-3

その女性は手桶と籠を持ち脇には服を挟んでいた。


年は40手前にも見えるし、30前後とも見える、人の年を大体当てられる特技を持つが、何しろ接し続けた人種でもなければ、世界も違う


女性の年齢体重見た目の話は聞かない、話題に同意も否定もしない、それは人間という生き物が賢く生きる古今からの不変のリスクヘッジだと思っている。今後ともに気になっても聞かないと心に決める。



「大変だったみたいね!ほれ体拭くよ、しかし酷い匂いだね!」


手拭いを桶で濡らし、簡単に絞る、話しかけながらも、さっと動く


人だ


そしてまた軽く思考停止してしまう。


「ったく、髪もべたべただね!ランディが起きたら連れてこいって話だから髪はその後に川で洗いな!」


ごしごしと顔をこすられる、顔だけで手拭いは黒くなる


「さっさとそれ脱ぎな!脱がせて貰わないダメな、高貴な生まれか甘ったれのどっちかかい!!」


どちらも褒めてない、完全に子供をたしなめるお母さんだ、手拭いをすすいで絞ってる間に服を脱ぐ


改めて見たら、ぼろっぼろの服だ、そして臭い、黒ずみ、そして黄ばんでいた


「ほら、手を上げな」


子供扱いながらも、なすがままに体を拭かれる


そしてふと気付く、彼女の言葉を理解している。


しかしそれは日本語では無かった、英語でもない、しかし理解も出来ている。認識の無い理解が出来る違う言語だった。


「そのちっこいのと足は自分でやりな!満足したら服着て待ってな」


彼女はこちらの股関、年相応ともいえる「ちっこいの」をあごで指し、手桶を持って外へ向かった


(よもやアラフォーでこんなプレイをさせられるとは……)


まぁ問答無用で「ちっこいの」をごしごしされたら、悲しくなりもするだろうし、気遣いか子供に対してそうなのかもわからず、言われた通りに体を拭く


そして服、膝上くらいまでの裾の長い服と股引き、着方はこの二枚しか無いのだから、この二枚を着るのだろう。


さっと着てしまうが、ぶかぶかだ、スッと紐のような物が足元に落ちた、腰紐に使って良いものなのだろうか…服はブカブカだし、絞めないと直穿きした股引きがずり下がる。


これは「あんたその年で腰紐を自分で結べないのかい!」と怒られるか「あんたその紐なんでそんな風に使ってんだい!」と怒られるか、前者に対する言い訳は浮かばないが、後者ならば「服が大きくて…」で凌げる、少しかませるように腰紐を結ぶ


おっかさんが桶を片手に帰ってくる、「お!おリボン結びかい!お上品なことで!固いパンにはナイフはないからね!」


笑っている、使い道は合っていたが、お上品だったらしい、しかしこの女性はどうやら何か皮肉を交えないといけないらしい、不快には感じない、むしろ地元の友人のおばちゃんを思い出す安心感を感じてしまう。


固くポソポソしたパンを柄杓のみずで流し込むよう飲み込む

、この世界で始めての食事だ。味は無い。すぐさま食べ終わる。


胃に張り付いてムカムカする。


「そしたら着いてきな、ランディはわかるかい?あんたをおんぶしてた奴だよ!」


わからない、誰に背負われていたか、全くわからない、が、ついて行けばわかることだ、あの皮肉は不快ではないが、何度も言わせる状況にしない方がいい、皮肉屋の苛立ちは底知れないものの一つなのだから


急ぎ扉の方に向かい籠と手桶を持ち小走りに扉に向かう、そして


「ぁ、ありがとうございます…!」


手桶と籠を渡すが受け取らず、おっかさんは軽くきょとんとした


「やっとしゃべったね!パン食べる以外にも使えて驚いたよ!どういたしまして!」


言わなければと口にした言葉に彼女の今までで一番豪快な笑顔を向けられる、手に籠と手桶を受け取って貰い肩を叩かれる、少し気恥ずかしくもなる、多分世代は自分と同じくらいだろうから…


そして同時に自分が発した「ありがとうございます」それは意味こそ間違いなくそのままだが、知る言語では無かった。


少し考えながら後ろからついて扉の外へ


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