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世界は変われど平穏を  作者: 藤々
序章:平穏の終わり
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最初の作品です。至らない点多くありますが、よろしくお願いします。

その日も仕事が終わり最寄りのコンビニで夕飯と明日の朝飯を買う。


高校生くらいのアルバイトの女の子達からは、ほぼ毎日来る客として認知されている。あだ名はつけられているかもしれない。


相模 幸平、37歳。独身

誰しもが名前の聞いたことのある、大企業の直系子会社の係長。


企業の持つ不動産を管理している部門がそのまま、子会社になった直系の中でも主要でもなければ、末端でもない、生産能力もあるわけでもない。


そんな会社に中途入社して六年、彼は彼なりに充実していた。


二十代の間は自らの会社を立ち上げる為に、大学卒業するとあらゆる職種・業種を転々とし、書類上は今の世の中では誉められた経歴でなく「堪え性のない、なにごとも長続きしない人間」と認識される。


金を貯め、人の繋がりを増やし、30になると念願の起業を果たした。


時期の流行りに乗せた小物、あれば便利、自分が欲しいと思う物、そういった物を自作、外注含めてインターネットで細々と販売する、一国一城の主となったのだ。


しかしながら、今まで仕事を覚えては転職を繰り返し、辞める時の理由も様々、そんな結果として堪え性の無い実績を詰んだ人間が、自らの努力、我慢が売上に繋がる、そして毎日を日曜日にしようと思えば出来てしまう堕落へ耐える日々。


「これ、雇われのが楽だわ」


彼はあっさりと会社を畳み、31ともなれば、世では「若者」というくくりでは無い、次の仕事に骨を埋める覚悟を持って職を探した。


楽で、疲れなく、金に困る事はなく、そして高収入なんて高望みももはや「穢れた履歴書」ではありえない。そんな自分を捩じ込める会社。


「穢れた履歴書」であるがゆえに、社会のどこにそれがあるかも知っていたし、転職した回数だけ採用された経験もあり、会社を畳んでから間もなく、今の仕事にすんなりと入っていた。


毎日の仕事も何事もなければ、職場に「存在するだけでいい」、無論大っぴらにそんなことは口にはしないし、大企業紐付きだけあってコンプライアンスも当然厳しいので、漫画やら携帯ゲームは一発始末書、しかし連絡や情報収集に必要なスマホや、資格取得や教養の読書は大っぴらにこそしなければ許される。


世間ではあり得ないゆるさである。


たとえなにかあってもそれに対応した、保全会社や警備の「孫」に「子」として投げる。


なにもせず、社会的には大樹の陰、ノルマや数字もなければ、納期もない、造るスランプもない、体力を消耗する事も、怪我をする事もない、


社会の荒波に浮かぶ船を渡りあるいた、相模 幸平にとっては天国であった。


帰宅すると、ネットレンタルで流行りも廃りもなく、適当な映画を2本、コンビニ弁当を食べて軽い筋トレ、休日前にはつまみとビールが加わる。


この6年間のうちほとんど変わらない毎日。


そんな毎日の朝、いつも通りに仕事に向かう、職場に着き、各受け持ちの現場で何事もない毎日であるか確認をする。


「…管理人が寝ている、起きていてもスマホで遊んでいる、どういう教育をしているんですか、かぁ……」


変わらぬ毎日を脅かすのは、「親」から左遷され移籍した者や、天下りと呼べるほどでは無い末席、そして「縁故組」


各現場の指令や調整をしながら現場で教育し、時に現場に入る幸平にとって、天国の中でも彼らの面倒を見るのは少なくないストレスを感じてしまう。


現場のシフトを確認し、当事者が出社しているのを確認し、現場に向かう。


「何故当たり前の事ができないのでしょうか?」


当事者に問い掛ける、


「……」


この反省してるかのように俯く「縁故組」の若者、入社して半年、この手のクレームはすでに四度目である。大人しい雰囲気ではあるが、何事にもやる気がない。女遊びの一つ二つしているような社交性も感じられない、特筆すべき技能があるわけでもない。まがりなりも大企業直系の採用基準にはまず満たない若者である。


「さすがに配置を変えて仕事をしてもらうにも現場も限りがありますし、ご紹介者である、お父さんに現状を伝えなければならなくなりますよ…」


幸平は努めて丁寧にパワハラにならぬように、かつ「外様」とはいえもてる職責に準じた指導をしてきた、


ミスをしたら起きないようにチェックを増やす、確認の工程を増やす、起こさない為の建設的な「大企業病」、もちろん多少の確認が増えたところで、楽な仕事は楽な仕事でしかない。


しかし、それはそれとて、仕事中、第三者の目に留まる所での居眠りやゲームする、それも四度目、マニュアルやチェックの話ではなく、もはや本人の素養である。


「!……もうしないです……」


「信用の問題です。『座ってるだけで金を貰える仕事』と世間では思われていますし、実際半分以上それが正解な仕事です。それが出来ない、出来ていない、そして出来るようになろうとしない、これが今の君の状況です。」


「……ぇな………」


そして悪態をつくのも我慢出来ない、幸平はこの縁故組の若者を更に下に飛ばすか、クビの稟議も上げられる状況にため息を堪える。


もはや何を彼に言っても無駄であり、どうにもできない、指導もそこそこに、現場に来たので各書類に目を通す。


やはり月に一度点検する程度の項目すら抜けがあり、彼だけでなく他の者も手抜きと惰性が染み付いているようだ、他の「左遷者」や「天下り老人」にも同様に言わねばならないと考えると億劫である。


「この点検項目は法定点検だからしなくちゃまずいんだけれども、他の人に教わってないなら他にも幾つかある点検も合わせて一緒に行こうか」


受け持ちとはいえ、何故、現場単位の事を自分がしなくてはいけないのか、とは思いつつもしているからこそ、外様ながらも係長になれたとも、されたとも言える。


9階建ての商業ビル、自分たちと同じ名前を冠するグループ企業が大半だが、店子もそこそこにいる中規模物件。


その非常階段を上がりながら、ついでにその非常階段の確認もする。


「錆びてたり軋む音がしないか、問題になりそうな箇所があれば写真を取って記録するんだけどね、ここだと外観点検のファイルにあったとおもう、あとで確認してね」


出来るだけ柔らかく若者に伝えるが、軽く頷いて遠くを見ている。おそらく本人は程度こそわかっていないが、父親に何を言われ何を怒られるか想像しているのだろう。


「あそこが錆びてるのはわかる?けど写真撮る時に乗り出さなきゃいけないでしょ、安全帯もってきてないし、色々あれだから、記録だけして下請けに投げればいい、か、らね…!?」




足をすくうように持ち上げられる


手が支えを探す、空を切る


腰が柵にかかる、足をばたつかせる


何かを蹴る、多分、彼のどこかだ


足を掴まれる、押される


落ちる


「ま!?ぁ!」


声にならない声が出る


走馬灯のようなものこそ流れないがゆっくりと感じる落下、地面が近づく


「いや、おれのほうがキレるとこだろ…?」


そんな恐怖と怒り、その疑問とともに地面が消えて音が消えた。

お読み頂きありがとうございます。


後書きはお目汚しのないよう、各章の5と10に記述いたします。

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