試験勉強?何それおいしいの?
ロマンを取ってから、王都の近くにある山岳地帯(数十キロ離れてたけど)やってきましたよ。
もちろんスーパーモードで。
どれだけ加速してもピタァッ!!と急停止できるのは我ながら笑ってしまった。
それはともかく、何故こんな所まで来たか。
目的の1つはこの状態に慣れること、そのための練習。
もう1つはモンスターに遭遇したとき、どのくらい対応できるか。
まあ、コレは遭遇するかどうか、運しだいな訳で。
とりあえず、この場で色々と飛び回ってみるとしよう。
10分後。
「自分で言うのも何だが、かなりヤバイ物を作ったかも知れん…」
思わず口に出してしまうほどの物だった。
鋭角に曲がろうが180度ターンしようが自由自在、減速無しで可能とか。
UFO飛びして楽しーとかやってる場合じゃないかも知れん、完全にやらかしてるわ。
等と考えていると後ろから唸り声が。
振り返るとそこには双頭のワンコが居た、はいヘルハウンドです。
牙と敵意を剥き出しにして今にも襲ってきそうだが……全く脅威と思わない。
しばらく、ぼーっと見ていると、痺れを切らしたのか襲い掛かってきた。
「お、意外とすばやい」
飛び掛って俺の喉元に食い付こうとするが、もちろん当たらない。
ズザサッ!
着地するとすぐさま爪による攻撃を繰り出してくるが容易く回避する。
「この連撃、並みの冒険者だと捌き切れないんじゃないか?」
と言いながら、5・6回ほど避けると連撃が止んだ。
「アオオオォォォォォォォォン!!」
「何だ?」
頭の片方が遠吠えを上げた。
気がつくと周りに7体ほど、ヘルハウンドが増えていた。
あの遠吠えは、仲間を呼ぶためだったか。
「うわーお、これはつまり。熟練の冒険者が攻撃を捌き切って、何とかやれそうだと思ったら仲間を呼ばれて詰むパターンだ」
今度は総攻撃を仕掛けてきた。
当然、周囲に逃げ場は無い。上以外は。
「とう!」
空中へ回避してから見下ろすと、犬どもは唸ったり咆えたりしている。
こいつ等は遠距離攻撃を持っていないと言う事は……解るよね?
「1対多数なんて卑怯な真似をしたんだ、攻撃が届かない所から一方的に攻撃しても文句ないだろ?」
という訳で。
「雷属性、雷神撃!!」
密集している所にでっかい雷を落としたら、全員ショック死したようだ。
「ヘルハウンド8体か大量、大量」
「グエエエェェェェェェ!!」
「?」
鳴き声がした方向を見ると、目の前にでかい岩が迫ってきていた。
「ぬぅおぉぉ!?」
奇声を上げながらもギリギリで回避できた、正直よく回避できたなと自分でも思うレベル。
スーパーモード様々だ。
それはそうと、誰だ?ロックキャノンなんて咬まして来た奴は?
見ると巨大な鳥が羽ばたいていた。
「ロック鳥か?」
目的は恐らく、下に転がってるヘルハウンドの肉だな。あわよくば俺ごと食おうって所か。
なるほど、なるほど。うん、人の獲物を横取りしようなんざ、いい度胸してんじゃねーか。
ロックキャノンの2発目を撃とうとするロック鳥に向かって真っ直ぐ突撃する。
「人の獲物をぉぉぉぉ横取りする奴はぁぁぁぁぁ!!」
右拳に木(気)属性を集め――。
「鉄・拳・制・裁!!」
地面に向かって殴り飛ばす。
「グルェ!?」
地上に叩きつけられた所に追撃を掛ける。
腕を組んで背筋を伸ばし、両足の踵をくっつけて木(気)属性を纏い――。
「ダブルニーメテオプレス!」
轟音と共にロック鳥を踏みつけると、ピクピクと痙攣した後、絶命した。
この技、外すと地面にめり込んで、えらい目に遭うので注意しましょう。
「空中戦でこんなに簡単に勝てるようになるのか、この魔法とりあえず名前つけとくか」
後ろを見ると丸い光の輪が後光のように輝いていた。
「飛ぶ為の輪だからフライトサークル?いや、本質は飛行する術者の環境を快適保持する為だからフライトフィールドか。いいね、フライトフィールド!」
うん、決定。
「さて、いい感じにフライトフィールドのテストも出来たし、モンスターの素材も手に入ったし、後は明日の試験会場を見に行って今日は終了だな」
会場の下見を済ませて、宿に戻り夕飯を食べて部屋に戻る。
「俺の実力なら、入学試験なんて余裕だろ。なんと言っても俺『ワイバーンキラー』ですから」
自分で言ってて赤面するほど恥ずかしい。
しかし、俺はこの時。完全に忘れていた。この世界の常識を。
かく属性の性質に関しては、学園に入学してから本文でやります。
今回は導線の都合上、入れられなかったシナリオです。
冒険者ギルドに顔を出すと、解体カウンターの親父さんに声を掛けられた。
「おう、ワイバーンキラーか、ちょっと面かしてくんねぇか?」
「その、通り名じゃなくてフィロウって呼んでくれると、ありがたいんですが…
で、何かあったんですか?」
「まあ、男が細かいことを気にするな。とにかくこっちに来てくれ」
奥の解体室へ案内されると、人の左腕が机の上に乗っていた。
「う…これは?」
「ああ、昨日お前さんが出してくれたワイバーンの腹ん中から出てきたんだ…」
ワイバーンの腹の中から出てきた左腕って……俺のじゃん!!
そうか、あの時もぎ取られたと思ってたけど食われてたのか…。
「この腕の奴も、お前さんが仇を討ってくれた事で少しは浮かばれると良いんだが…」
「え!?あ…ああ、そうですね」
浮かばれるも何も、その左腕の本体は生きてるよ!?ここでピンピンしてるよ!?
「俺ぁ、こいつを弔ってやりてぇと思うんだ……」
え?弔うって?俺、弔われちゃうの?
「手伝っちゃくんねえか?」
「え…あ、その…はい」
親父さん真剣すぎて断れねぇ。
それに、突っ込みも出来ない。
『俺の左腕です』なんて言っても俺の左腕は生えてるし。
結局、俺と親父さんは小高い見晴らしの良い丘の上に俺の左腕を埋めて黙祷を捧げた。
生まれてから14年間、苦楽を共にして来た俺の左腕よ、今まで有り難う。
俺はこれから、この新しい左腕と共に生きて往くよ。
だから、安らかに……ってなるかーぃ!!
俺が俺を弔うとか、もう解んねぇなコレ。
俺を弔った後、俺はギルドを後にした。
この話、入れたかったけど、入らなかった(泣)




