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転生英雄譚(裏)  作者: 甲 康展
第1章 これは、面白いことになりそうだ
7/28

金につられて、やらかした!

今回から解説する必要があった場合、あとがきで解説していきますので、よろしくお願いします。

 意気揚々と冒険者ギルドに到着。

解体カウンターに向かう途中、受付嬢のリリアに声を掛けられた。


「あら、先ほどの――どうかなされたんですか?」


「あぁ、ちょっとモンスターを買い取ってもらおうと思いまして」


「早速ですね、良い値がつくことを祈ってます」


「ありがとうございます。俺も結構期待してるんです、狩るの苦労したので」


 左腕持ってかれたし。

と心の中で付け加えてから笑顔で応えて解体カウンターへ。


「すいませーん、買い取りお願いしますー」


 呼ぶと奥から筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)のたくましいガチムチの親父さんが

エプロン姿で出てきた。


「おう、随分と可愛らしい坊主が来たじゃねぇか。で、どれを買い取るんだ?」


 見た目に違わず豪快な喋り方をする人だ。

こういう人は嫌いじゃない。


「コレなんですけど……」


 異次元収納からズルゥっとワイバーンの胴体と頭を取り出す。


「い、今、どこから出しt……こ、こいつは!?天空の狩人(ワイバーン)だとぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」


 出てきた物の凄さに、何処から取り出したとかどうでも良くなったようだ。

それに、この反応。金額のほうは期待できそうだ。


『おい、ワイバーンだとよ。ちょっと見に行こうぜ』


『嘘…あんな装備も揃ってない、駆け出しのルーキーが狩ったって言うの?』


『これは、見に行くしかねぇだろ!』


 周りに見物人が集まってきた。


『マジだ…ワイバーンだ…』


『俺、実物見るの初めてだわ』


『あたいも遠くから、それっぽいのを見た事はあるけど、こんな真近で見たのは初めてだ』


 周りの冒険者が珍しそうにワイバーンを見ている。


「え?ワイバーンってそんなに珍しいの?」


 ふとした疑問を親父さんに投げてみる。


「珍しいも何も、多分王都じゃワイバーンを狩れる奴なんざ、いねぇんじゃねぇか?

そもそも、空中に居るワイバーンに攻撃を当てるのは至難の業だ、近接で攻撃を当てるには高速で滑空してくる瞬間。

つまり、襲い掛かってくる時にカウンターで攻撃を当てるしか……うん?何だこいつは?」


 親父さんが何か見つけたようだ。

切り落とした首の傷口を念入りに調べている。


「お、おおおお、おい、このワイバーン。火ぃ吹かなかったか!?」


『は?ワイバーンは火炎ブレスなんて出来ねぇだろ』


「いや、こいつ真っ先にブレスしてきたけど?」


「間違いねぇ……イグトだ」


「いぐと?」


『何だそりゃ?』


『イグト…聞いた事がある、ワイバーンの中にはまれに火を吹く上位種が生まれる事がある。

そして通常種と区別する為にワイバーン・イグトと呼称するって何かの本で読んだ覚えがある』


『これが、そうだってのか!?』


『親父さんが言うなら間違いねぇだろ』


 親父さん他の冒険者の信頼も篤いようだ。


「ワイバーンってだけでも凄ぇのに、更に上位種のイグトを持ってくるたぁな。こいつぁとんでもねぇ事になったぞ。

おーい、リリア嬢ちゃーん!!」


「はーい、どうしたんですか?」


 後ろの人並みの向こうからリリアの声が聞こえる。

どうやら、何事かと来てみたが人の壁に阻まれて、こっちに来れなかった様だ。


「ちょっと、マスター呼んできてくれ。こっちじゃ判断できねぇ」


「はーい、分かりましたー」


『マジかよ、マスター案件だってよ』


『モンスターの買取でギルドマスターが出てくるなんて…』


 あ、コレ大事になりますね。分かります。


「そういや、名乗ってなかったな。俺はギルドで解体を担当してるガジンだ、よろしくな」


「これはどうも。今日、冒険者になったフィロウです」


「冒険者なら敬語はいらねぇ…って今日、冒険者になったぁ!?

はー、なんか俺ぁ、訳分からんくなってきた」


「これ、ギルドカード」


「あ?ああ、確かに…Gランクでしかも初日にイグトを狩って来る新人なんざ、

どこのギルドに行ってもお前ぇしかいねぇだろうよ」


「正直、ここまで派手なデビューするつもりは無かったんだけど」


「派手過ぎらぁ」


『全くだ』


『はははははははははははは』


 皆で笑っていると奥から初老の紳士(ガタイは良い)とリリアが出てきた。

後ろの作業場を通ってきたようだ。


「どうかしたのかね?」


「おぉマスターさんよ、こいつを見てくれ」


「ワイバーンか珍しくはあるが……」


「こいつはイグトだ」


「何だと!?間違い無いのか?」


「ああ、ここに空気と火炎を圧縮する火炎袋がある。間違い無ぇ、イグトだ」


「察するに、イグトをそこの少年が持ってきたと?」


「その通りだ、更に付け加えると今日デビューしたての新人だとよ、これがそいつのギルドカードだ」


 挨拶しといた方がいいか?


「どうも、フィロウです」


「私はここのギルドマスターをしているゲイルだよろしく。

早速ですまないが、少々時間を貰えないか。

対応の手続きや金の用意に時間が掛かる」


「では、ここで待たせてもらっても?」


「そうして貰えると、こちらも助かる」


「分かりました」


 そう応えるとガジンとゲイルは奥へと消えていった。

残ったリリアは面白い顔でフリーズしていた。

放置しても面白そうだったが、話が進まないので復帰させる事にした。


「リリアさーん?」


 手を振りながら呼びかけてみる。


「はっ!」


 お?思ったより簡単に復帰したな。


 意識を取り戻すとリリアは俺の向かいにある、ガジンが座っていた椅子に腰掛ける。


「これは、一体どうゆう事なんです?」


「まあ、端折って説明すると、1狩行ってきた」


「端折りすぎです!!!もっと詳しくお願いします!」


『それは、俺たちも聞きたいよな?』


『ワイバーン・イグトとどこで遭遇したとか』


 空中で。


『どんな攻撃してきたとか』


 火炎ブレスと噛み付き。


『被害は出なかったのかとか』


 左腕1本。


『どうやって倒したのかとか』


 自分を囮にして壁にぶつけた。


『聞きたい事は山ほどある』


 言えない事も山ほどある。


「まあまあ。皆、落ち着いてくれ。イグトに関しては俺にとっても想定外でな。

ちょっと、こっちの都合で喋れない事が多いんだ」


「じゃあ、何なら言えるんですか?」


「遭遇した場所と攻撃方法」


 話せるのはこれくらいか。


「まずどこで遭遇したかだけど、場所は王都の東にある平原(の上空)でイグトに空中から見つけられた」


 嘘は言ってない。


「最初の攻撃はブレスだった、結構な射程を持ってるから逃げられなかった。

で、突撃してきたところをカウンターでしとめたって感じ」


『ねえ、気になってたんだけど、左の袖。血が付いて破れてるよね?どうしたの?』


「その辺りが詳しく話せないところでね――」


 といった感じにしばらく話していたら、ゲイルとガジンが戻ってきた。


「待たせてしまってすまない、準備が出来たから個室まで来てくれないか」


「了解です」


 ゲイルに連れられて案内された個室は来賓用っぽい感じだった。

揃えられた調度品がなかなか豪奢な印象を受けた。


「さて、先ずは礼を言わなくてはな」


「礼…ですか?」


 一体何のことやらさっぱり解らん。


「ワイバーン・イグトは討伐ランクA~Sの危険度を誇るモンスターだ。

これが、王都周辺に存在していて、もし街まで来ていたら甚大な被害が出ただろう。

ここのギルドには最高でもAランクが数人居るだけだからな討伐はおろか撃退も難しいだろう」


「これだけ人が居て…ですか?」


「王都周辺にはそんな高ランクモンスターは存在しないはずなんだ」


「それは、どういう事なんです?」


「ふむ、これは王都の成り立ちにも関する事だが、端的に言うと

王都の周りを安全にしたのではなく、安全なところに王都が出来たのだということだ」


 なるほど、言われてみれば道理だ。

危険なところにあったら、それだけで人、物、金の流れが悪くなってしまう。

また、高ランクの冒険者には、ぬるま湯となり物足りなくなる。

だから、高ランクの人数は少なくなる…か。


 解体の親父さんが言っていた『狩れるものが居ない』っていうのは、そういう事か。


「それと、イグト等の上位種は個体数が極端に少なく、その生態も謎が多い。

今回、フィロウ君が持ち込んでくれた事によって、少なからず解明できる部分があるはずだ。

それらを考慮して、買取報酬は白金貨80枚、80万リット用意した」


「はちじゅうまんリットぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」


 目玉が飛び出るとは正にこの事だ、想定していた金額は精々5千リット行けば御の字だと思っていた。

2桁も違うとは思っても見なかった。


「更に、君のランクを2階級特進させるつもりだ」


「ファッ!?」


 リアルに『ファッ!?』って言ってしまった。2階級特進てどーなってるの!?


「この功績はAランクなら間違いなくSランクに昇格できる功績なんだが、君は駆け出しのGランクだ。

私としては3階級くらい上げるべきだと思っていたのだが、幹部連中が他の冒険者が真似をして無茶な狩りをしかねないと言い出してな。申し訳ないが、2階級となってしまった」


「いえいえいえ、もう全然十分です!」


 っと言うかこれは完全に目立ちすぎだ。

ある程度は覚悟していたが、これ程とは…今日は悉く想定外ばっかりだな。


「そうか、では今後の君の活躍にも期待させてもらおう」


「はい、ありがとうございました」

解説


「フィロウはなぜ討伐していないと疑われないか」


まず、第一に王都のギルドでは討伐できる者が居ないということ。

次にモンスターの損傷が首の切断以外に無い。これが死因と判断。

(高く売る為、死体に回復魔法を掛けたが、そもそも回復魔法を使えるのは……それはまた先の話)

別の地域から持ってきた疑惑は死体の鮮度が高く、ありえないと判断。


以上の事からフィロウが狩ったと判断した方がまだ自然。


という事で疑われませんでした。

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