前世の法律とは違うのだよ
ギルドの食堂まで来た。
向かいに座らせ、腹ペコミルルにメニューを渡す。
「メニューに書いてある奴、好きなの頼みなー」
「んーと」
メニューを見ているが反応が悪い。
「ローちん、これ何て書いてあるのぉ?」
なん…だと…。
「ミルル、文字読めなかったの?」
頷くミルル。
これは、良くない。非常に良くない。
魔法を行使する形態の1つとして魔法陣があるのだが、基本的に文字が読み書きできないと全く使えない。
うーん、まず先にミルルの空腹を何とかしてから考えよう。
「じゃあ、俺が適当に頼めばいいか?」
「うん」
ミルルが好きそうな奴を注文して、待ってる間に素朴な疑問をぶつけてみる。
「なあ、入学試験の筆記ってどうやったんだ?」
「んとね、お絵かきしてた」
ズコー!
それで受かるんかーい!!
「?どーしたの?ローちん」
「いや、何でもないよ。ミルルには追加で教えないといけない事が増えたなって思っただけだ」
「ほんとー!!?」
「何で、嬉しそうなんだよ!?」
「お待たせしましたー」
なかなか良いタイミングで料理が運ばれてきた。
「きたー、これ食べてもいーの?」
「おう、足りなかったらまた注文すりゃいいから遠慮なく食えば良い」
「わーい」
よほど腹が減っていたのか、なかなか気持ちのいい食べっぷりだ。
「うまいか?」
「うん、おいしーよ!」
「そうか、食い終わったら大人しく帰るんだぞ?送ってやっから」
そう告げると、ミルルのテンションがガクッと下がった。
食べるフォークも止まってしまった。
「ど…どうした?」
「帰るところ、無いの…」
「え?今までどうやって過ごしてたの?」
「教室に居たの…」
ミルルの話を最初から要約すると――。
もともと、ミルルは冒険者の両親が居て旅をして巡っていたらしい。
2年位前、王都で大規模クエストがあると言うことでミルルの両親も参加する為にやってきた。
そして、クエストに出た両親はそのまま帰って来なかった。
結果、ミルルの両親は死亡判定。ミルルはギルドの支援で里親に引き取られる事になったが、あまり良い環境ではなかった。
少量の金を渡し、後は放置。
暴力などは無かったが、構う事も無かった。
里親は水商売の女で夫は無し。
恐らく水商売に堕とされたと思われる。
少しでも金が要る為、ミルルを引き取ったのだろう。
両親が冒険者の孤児はギルドが里親を見つけて毎月、生活補助費用を支給するシステムになっている。
毎月の生活補助費を切ってでもミルルを捨てた訳は『悪魔憑き』のためだ。
一般の認識では、悪魔憑きの近くに居ると乗り移られる。
悪魔憑きを置いておくリスクとコストを切るために捨てたのだろう。
それが、2日前の雨の日。
本来なら、そのまま息を引き取る筈だったのだが俺がミルルを救ってしまった。
その為にミルルは帰る場所を無くし、教室に居たが空腹に耐えられなくなり、食べ物を求めて街まで出て来たのはいいがさっきの男に見つかり追いかけられていた所を俺が偶然通りかかり助けた――と。
え?これ俺の所為?
俺が助けたからこうなったって事?
それは仕方なくない?あの状況だったら助けるだろう誰だって。
まあ、今はそんな事はどうでもいい。
問題はミルルを放り出す訳には行かなくなったって事だ。
とは言え、連れて帰ったら犯罪――あれ?それって前世での話じゃね?
法律を全部網羅している訳じゃないけど、基本的に故意に損害を与えなければセーフだったはず。
だったら、いける?
「なかなか、キツイ人生を歩んでたんだな…」
「………」
「帰る所が無いなら、俺の所に来るか?」
「え……いーの?」
「ああ、ミルルは他の奴よりも教えなきゃならん事が多いからな、ちょうど良いだろう」
「わーい!やったー!ローちん大好き!!」
「はいはい、分かったからさっさと食え」
「うん!」
ふむ、持ち前の明るさを取り戻したようだ。
笑顔が一番だ……ん?
「顔が赤いぞ?ミルル。また風邪でも引いたか?」
「え!?大丈夫だよローちん…えへへ」
「そうか、体調が悪くなったら言えよ?何とかしてやるから」
「うん!」




