誤解を解くのは諦めた
『はは~』
開幕土下座!
振り向くとそこには、村人達のひれ伏す姿が。
「ちょ…みんな何してんの!?頭上げて!」
「数々の御無礼、平に御容赦を!」
「無礼って何のこと?」
「神様だとは露知らず、私らは――」
「待った!何で俺が神様になんて事になってんの?」
「先ほど猪を仕留めあげた業、アレは正に神の裁き!
あのような事ができるのは神を措いて他に御座いません」
そう言う事か…。
いや、聞いた事は有ったよ?
『大雨の日に外に出る悪い子には神の裁きが落ちる』
よくある話じゃん?言う事を聞かない子どもを大人しくさせる方便。
まあ、魔法が使える俺は無視して出てたんだけどさ。
ぶっちゃけ、方便だと思ってたら伝承だったでゴザル。
って、そんな事よりこの状況どうしよう…。
こうなると、誤解を解くのって苦労するんだよなぁ。
よし、この手でいこう。
「お前たち、よく気が付いたものだ。しかし、俺は訳あって人としてここに居る。
だから、お前たちも人として接してくれると助かるのだが…?」
「はっ!全ては御心のままに…」
「うむ、と言う事で……無礼講じゃー!、村の脅威も去って猪肉が手に入ったぞ。
猪肉祭りと洒落込もうではないか!」
『うおぉー!神様ー!』
「違う違う。フィロウだ!フィロウ・アレスタな?」
『フィロウ様ー!』
もうこの問題はこれでいいだろう。
その後、村を挙げてのお祭り騒ぎだった。
皆でバカ騒ぎしている最中、俺の勇姿を残したいと言う事で絵のモデルになった。
日が落ちてきた頃、村長から依頼完了のサインを貰い冒険者ギルドに戻って報酬を受け取り帰路に着いた。
「いやぁ、今日は楽しかった。お祭り騒ぎもそうだけど、絵のモデルなんて前世含めて初体験だった――」
ヒュン!
日が落ちて人気が無くなった路地を歩いていると、視界の端を人影が掠めた。
ふと視線を移すと、子供が大人に追われている様だ。
薄暗くて容姿までは判別できなかったが、あまりいい雰囲気ではなさそうだ。
俺は2つの影を追いかけ、狭い裏路地へ入って行くのを見た。
そのまま、追っていくと声が聞こえてくる。
「へへへぇ、もう逃げ場は無いぜぇガキぃ、大人しくしやがれ」
どうやら、行き止まりだったみたいだ。
「いや…いやだよぅ…」
男の陰に隠れて誰が襲われているのか判らんが、とりあえず止めておくか。
「おっさん、小さい子供を追いかけて何やってんの?」
「ああ?てめぇも俺に売り飛ばされてぇのか!」
あ、子供を捕まえて奴隷商とかに売るつもりなのか、黒確定じゃん。
男がつかみ掛かってきたのを掻い潜り懐に入る。
「あ?」
「ふん!」
男に手を当てスタンガンみたいに電気を流す。
「ぐああぁぁ!」
男は気を失いその場に倒れ込んだ。
「おーい、大丈夫か――」
がしっ!
追われていた子供が抱きついて来た。
「ごわがっだよぉーローぢーん」
「ミルル!?」
なんと、追われていたのはミルルだった。
顔は涙と鼻水でグシャグシャだ。
「おー、もう大丈夫だぞ」
そう言って頭を撫でてやる。
ぐすっ、ぐしっ………ちーーーーーーん!!!
「俺でかむなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
………
……
…
「落ち着いたか?」
無言で頷くミルル。
顔を拭いたりして、とりあえずの体裁を整えただけだが、効果があったようだ。
さて、なぜミルルがこんな時間に出歩いていたのか。
正直あまり良い予感がしない。なので自己解決してもらおう。
「あんまり、口出しするつもりはないが日が落ちてからは、出歩かないほうがいいぞ。
今回みたいに、助けてくれる奴が居る訳じゃないからな。
んじゃ、俺は帰るわ。ミルルもさっさと帰れよ~」
ミルルに簡単な注意を促して帰ろうとすると、服が軽く引っ張られた。
見るまでもなくミルルが服をつまんでいた。
ど、どうしよう…振り払うのは流石に可哀想だし――。
くきゅ~~~~~~~~~~~~。
ミルルから腹の虫が自己主張した。




