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転生英雄譚(裏)  作者: 甲 康展
第2章 フィロウ編 学園生活
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化け物 VS 化け物

「ちょっと何よ、いまの声」


「いよいよ、大将のお出ましって奴かな?鬼が出るか蛇が出るか…どっちにしても散々暴れ回ってやったから激オコ状態かもな」


 拠点の洞窟内からドスドスと足音が近づいてくる。

音の大きさや質から、なんとなくモンスターの大きさや体格が判るが、かなり大きそうだ。


 音がだんだん大きくなり、ついにモンスターが姿を現す。


 出てきたモンスターは大きさが約2メートルでムキムキの筋肉質、赤銅色の肌に厳つい顔、頭には2本の太い角が生えていた。

分かりやすく言うと赤鬼だった。


「うわ!比喩で言ったのにホントに鬼が出やがった」


「―――何でよ」


「先生?」


「何でこんな所にレッド・オーガ何て居るのよ!正真正銘の化け物じゃない!!」


「違いない、こちとらただの人間だしな!」


「アンタは自分の姿、鏡で見てから言いなさい!!」


「とかツッコんでる間に来るよ!」


『オオオオオオオオオオオォォォォォォォォ!!!』


 雄叫びを上げこっちに突撃してくる鬼。

その巨体が持つ膂力は凄まじく距離の縮み方が早い。


 フィロウは迎え撃つ為に前に出て、頭から生えた触手を鬼に向かって伸ばす。

触手を鞭のように使い、鬼を打つがダメージが通らない。

ゴブリン相手に無双を誇った触手が全く役に立たない現実がそこには在った。


『グルルルルルル』


 触手を鬱陶しく感じた鬼は触手の1本を掴みフィロウを力任せに引き寄せる。

フィロウの体は触手に引き寄せられ簡単に宙を舞う。


「嘘だろ!おい!!」


 引き寄せられるフィロウのタイミングに合わせて拳を振り上げる鬼。

次の瞬間には地面に殴り付けられてしまい、そのまま触手を根こそぎ引き千切られてしまった。


 圧倒的な力の差を前に、フィロウは袋叩きにされてしまう。

ガードした両腕は最早使い物にならない。くっついてるのが不思議なくらいだ。


 その光景をリーチェは口を押さえ見ている事しか出来なかった。


 最後、止めと言わんばかりにフィロウを蹴り飛ばす。

ボロ雑巾のようになったフィロウがリーチェの元に返ってくる。


「…ただいま」


 ボロボロな体とは対照的にハッキリとした声が出てきた。


「ただいまじゃないわよ!!アンタ何でそれで生きてるのよ!!もう、訳わかんない!!!」


「まあまあ、このままじゃ勝てないから先生にお願いがある」


「…何よ」


「あの鬼の攻撃を1発だけ防いで俺を懐まで導いてほしい」


「……秘策があるの?」


「ああ」


「…分かった」


「じゃあ、よろしく!」


 そう言って立ち上がった瞬間、鬼に向かって走るフィロウ。

振り上げられる鬼の腕、食らってしまえばフィロウの体は粉々になってしまうだろう。


「堅き大地の守りよ、かの者を護りたまえ。ストーンピラー!」


 走るフィロウの横から柱が伸び振り上げられた鬼の肘に接触する。


 (うま)い。

素直にそう思った。


 振り下ろされる瞬間の肘に柱がつっかえ棒になり、腕を振り下ろすことが出来ない。


 正に最小限の動きで最大限の効果を生み出したのだ。


 あの短い間にこれだけの事を考えて実行する判断力も()る事ながら、ぶっつけ本番でタイミングを完璧に合わせてくる胆力も凄い。ヘルパーの通り名は伊達じゃないって事か。


 リーチェの援護で鬼の懐までたどり着くフィロウ。


 鬼はもう片方の手でフィロウを掴もうとする―――が。


「0距離取ったぞ!吹き飛べ!!」


『フィロウダイナマイト』


 魔力を限界以上に溜め込み、身体が崩壊し始める寸前で一気に開放する事で魔力爆発を起こす()()()である。

某特撮ヒーローみたく寿命が3日縮む程度では済まないので、よい子は真似しない様に。


 フィロウの身体が閃光に包まれ爆音が轟き黒煙が上がる。

吹き(すさ)ぶ爆風に耐え視線を戻すと、モクモクと舞う黒煙が映るだけだった。


「フィロウ……冗談…よね?あれだけボロボロになっても生きてたんだから、今回だってひょっこり出てくるんでしょ…?」


 冗談ではない、閃光に包まれ弾け飛ぶ身体を見てしまった。

ひょっこり出てくるなんて事はありえない。

現実を受け入れたくない一心で紡ぎ出す意味の無い言葉。

頭では理解しているが、認めたくない心。

そこには再び仲間を(うしな)う恐怖があった。


「ねえ…返事をしてよ…フィロ――」


『ガアアアアァァァァァァァァァ!!』


「ひぃ!?」


 黒煙の中から咆哮が上がる。

風にさらわれ、黒煙が消えると中からレッド・オーガが出てきた。

フィロウの命を賭けた自爆でも斃せなかったのだ。


 しかし、無傷という訳にはいかなかったようで、全身にダメージの痕が残っている。

それでも五体満足で動けるだけの体力も十分残っていた。正に化け物と言うに相応しい魔物。


 その姿は―――。


 残されたリーチェを絶望させるに足るものだった。


「……いや――」


「いやー、アレで斃せないとかマジで化け物だわ」


「へ?」


 見るとそこには()()のフィロウがひょっこり立っていた。

参ったなと言わんばかりに、頭をボリボリ掻いている。


「…死んだんじゃ…ないの?」


「勝手に殺すな!自爆したのはゴーレムだっつーの!俺、本体だから!」


「ゴーレム…まあ、今はそんな事どうでも良いわ。とにかく逃げよう?フィロウ、私達じゃレッド・オーガには勝てないわ」


「いや、無理。あいつ俺に気づいたから」


『オオオオオオオオオオ!!』


 レッド・オーガに見つかると、雄叫びを上げドスドスと足音を立てて突撃してくる。

全身傷だらけにされて、頭に血が上っているようだ。


「ちょっと行ってくる」


「え、ちょ――」


 フィロウがフライトフィールドを展開すると、残像が出来るほどの速度でレッド・オーガに突撃し、そのまま殴り付ける。


 レッド・オーガはギリギリで反応してガードするが、お構い無しに叩き付けられた拳はレッド・オーガの巨体ごと吹き飛ばし、洞窟がある壁に減り込ませるほどの威力を持っていた。


『ガアァァ!!!?』


 理解が追いつかない。

死んだと考えていたフィロウが生きていて、さっきまで全く歯が立たなかった相手を圧倒している。

いったい何があったのか。


「こいつはワンモアって奴だ」


 壁に減り込んだレッド・オーガに容赦なく追撃を掛ける。


『水鋼弾』


 超高圧縮された水弾がレッド・オーガを襲い巨大なクレーターを作る。


『グウウゥゥゥゥ…』


「驚いたな、まだ息があるのか。それなら―――」


 いったんリーチェの所まで引くと、そこには何が起きてるのか解らず困惑しているリーチェが居た。


「さて、先生。このまま押し切っても勝てるけど、折角だから授業をしようと思う」


「は?」


 一体、フィロウは何を言ってるんだろうか。

こんな時に授業などと――。


「今回の敵みたいに物理耐性と魔法耐性を備えた反則的なやつにはどうすれば良いか?」


(その反則的な相手を圧倒してるアンタは何なんですかねぇ)


 と心の中でツッコんでおく。


「本来なら逃げるわ、斃しようが無いもの」


「そうだね、じゃあ素晴しい援護を見せてくれた先生にはもう一つの解答を見せよう」


『フーッフーッ……グルルルル…』


 見ると、クレーターから抜け出したレッド・オーガが肩で息をしていた。

こっちの位置を確認すると、落ちていた石を拾い上げた。


(まずい!)


 そう思った瞬間、フィロウは転移でレッド・オーガの懐に跳躍()んだ。

振りかぶったレッド・オーガの胸に手を添えて―――。


「破ァ!」


 ドン!!


 レッド・オーガの身体から(こも)ったような鈍い音が響き渡る。

石を投げようとしていた動きが止まった。


 次の瞬間。


『ゴッファ!!』


 口から大量の血を吐き、その場に崩れ落ちた。


「とまあ、こんな風に内側を攻撃するのが、もう一つの解答」


「は…はは……あははは…」


 結論、本体が一番化け物だった。

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