拠点攻めなんて初体験だぜ
村の空き地にワープアウトしてみると、村人たちがしっかりと警戒態勢を敷いていた。
うん、関心関心。
「ここは…私の村ですか!?」
「おう、帰って来たぜ」
「私さっきまで、ゴブリンに攫われて森に居たような……?」
「レナ!!」
「お父さん!?」
「よかった無事だったか」
「えぇ…何か訳が解らない内に戻って来ちゃったみたいで…」
「良いんだ、無事に戻って来てくれただけで――リーチェさん、娘を救っていただき、有難うございます」
「へ!?あ、いえ。どういたしまして?」
「先生の魔法の前にはゴブリンなんて物の数では無かったですね!」
「さすが、リーチェさんですね」
「それはそうと、今は娘さんも疲労しているだろうし、家で休ませてあげて下さい」
「ええ、また改めて御礼をさせて頂きますので」
レナと呼ばれた娘を連れて家の中に入っていく2人を見送ってからリーチェに視線を向けると
ポカーンとした顔をして虚空を見ていた。
「どうしたの?先生。アホ面下げて」
カンっ!
杖で叩かれた、意外とイテェ。
「フィロウ…今度から作戦は細かく詰めるわよ」
「えー、めんどくs――何でもありません!」
リーチェが杖を振り上げるの見て、最高速で前言を撤回した。
思った以上に魔法使いが振るう杖はカタい、本気で叩けば人を撲殺できるレベルだ。
そんな物でポンポン叩かれた日にはいつか頭割れる。
「細かく詰めるって、具体的にどこまでやるの?」
「何を使って、どうするかまで決めるの。さっきみたいにビックリさせられちゃ堪んないわ」
「それ、先生が悪いんじゃない?人質を救出したら奇襲を掛けるって言ったじゃん」
「あの状況で人質の救出って言ったら、フィロウが急襲して人質を確保、ゴブリンのヘイトがフィロウを向いてる内に私が魔法で奇襲するって思うじゃない!?」
「先生…戦場で思い込みは危険ですよ?」
「そうだけど!そうだけど!!」
「まあ、いいか。次はいよいよ拠点攻めなんだけど、プランとしては最初から俺がゴーレムを使って拠点を襲撃。
俺が討ち洩らした奴と、外に出て拠点に帰ってきた奴を先生が処理する、こんな感じでどう?」
「うん、とりあえずフィロウがゴーレムを扱えるって事に関してはスルーしておくわ」
なぜ、わざわざスルーしなきゃならないんだ?
ゴーレムなんて金で骨組みを作って、土を盛って、光でテクスチャー貼って、風で声が出るようにすれば良いだけじゃん?変な先生だが気にしないでおこう。
「私の方はそれで構わないわよ」
「よし、じゃあ早速行こう」
敵拠点に向かう途中、俺は尿意に襲われていた。
しまったなぁ、村で用を足しておけばよかった……。
「先生、ちょっとストップ」
「どうしたのよ?」
「さっきから尿意が猛威を振るっていてな…」
「……さっさとそこら辺でしてきなさい」
「すぐに済ますから、ちょっと待ってて」
リーチェから見えないところまで行き、用を足す。
「…………ふう、スッキリした所でゴーレムもついでに作ってしまうかな」
………
……
…
「おまたせー」
「じゃあ、さっさと行くわよ」
「はいはーい」
程なくして敵拠点に到着。
拠点である洞窟の周りは広く開けていてゴブリン5匹で1小隊を組んだのが4組で警戒していた。
ろくに知恵が回らないはずのゴブリンにしては統率が取れすぎてる。
こいつらのボスは相当厄介な奴だというのが伺える。
俺たちは周りの茂みに身を隠しながら、様子を見ていた。
「厳重な警戒だけど、いつ仕掛けるの?」
「今でしょ!」
「はぁ?」
そう言って警戒するゴブリンに向かっていく。
「うおおおぉぉぉぉぉ!!」
ゴブリンが警戒する中、単身でまっすぐ叫びながら突撃するフィロウ。
そんな事をすれば当然、ゴブリン達は侵入者を排除しようと動きだす。
突撃するフィロウに対して弓を装備したゴブリン達が、一斉にフィロウを狙う。
にも拘わらず、防御策を講じないまま、ただ突撃するだけ。
このままではフィロウは蜂の巣になってしまう。
「…は!まずい!」
フィロウの行動に唖然としていたリーチェは慌てて気を取り直し援護しようとするが、もう遅い。
ゴブリン達から放たれた弓は次々とフィロウの体に刺さり、その内の一矢が頭を射抜いた。
仰向けに倒れるフィロウの姿がリーチェにはスローモーションのように映った。
「!!!…嘘…」
数々のとんでもない魔法を使い、空まで飛んで見せたフィロウ。
そんなフィロウでも所詮は人間、頭を射抜かれてはひとたまりも無い。
「本当に死―――」
「はーっはっはっはぁ!」
倒れたフィロウの体から笑い声が上がる。
体中に矢が刺さったままムクリと起き上がるフィロウ。
「頭に矢が刺さったで俺を倒せると思うなああぁぁぁ!!」
「ええええええぇぇぇ!?」
またもや常識と現実が乖離してしまった。
人間なら普通、頭に矢が刺さったら絶命して然るべきなのに。
今、目の前に広がる光景はどうだ。
全身と頭に矢が刺さったまま、元気に暴れ回るフィロウ。
ゴブリンを殴って、蹴って、掴み、投げ、振り回し、武器を奪い、無双しているではないか。
ゴブリン達も、ただやられて居るだけではない。
不死身の化け物を殺そうと必死で抵抗している。
しかし、剣で斬っても槍で突いても怯む事無く攻撃してくるのを前に被害が増えていく一方だった。
そして、リーチェは自身の混乱を払拭するため目の前の光景を理解しようと考察していた。
(とりあえず、フィロウが死んで無くて良かったんだけど…あの頭に刺さった弓矢、どう見ても致命傷よね。何で生きてるんだろう?あ、そっか、人間じゃ無いんだ!あれ?モンスターでも頭をやられて無事な奴って居たっけ?
いやいや、待つのよリーチェ。あのフィロウよ?頭に矢が刺さったように見せかける魔法くらい持ってそうじゃない?どういう意味があるのかは措いといて、こっちの考えの方が自然ね)
リーチェの中で常識はずれの人間判定が出たところで、外回りに出ていたゴブリン達が帰ってくるのが見えた。
「おっと、合流させないのが私の仕事だったわね」
作戦通りに動くリーチェを横目で確認し無双を続けるフィロウ。
その後ろで倒れていたゴブリンが意識を取り戻し、立ち上がる。
落ちていた斧を拾い上げ、フィロウに襲い掛かる。
「なに!?」
死んでいたと思い込んでいたフィロウは、ゴブリンの振り下ろす斧に成す術無く頭を割られてしまった。
頭部にめり込む斧。しかし、それでもフィロウは止まらない。
フィロウを殺したと勘違いしたゴブリンは斧を手放した瞬間、フィロウに掴まれ地面に叩き付けられた。
「残念だったな。まだ死なん!」
頭に刺さった斧を取るフィロウ。
「頭からああああぁぁぁトマホーゥク!!」
完全に某ロボットアニメの影響を受けている。
「それにしても、この頭が割れた状態はなんとも…あ、思いついた。
某鉄仮面みたいに触手生やせばいいんだ!」
頭の割れ目から多数の触手がウネウネと出てきた。
この触手により、接近戦だけではなく中距離戦までできる様になってしまった。
最早、ゴブリンでは手が付けられない。
「ふははははははは、怖かろう!!」
一方その頃、リーチェはゴブリンの増援を殲滅させた所だった。
「どうやら、一段落ついた様ね。フィロウの方はどうなったかしら」
フィロウのところに向かったリーチェが見たものは―――。
手に斧を持ち、頭から触手を生やしたフィロウが逃げ惑うゴブリン達に対し一方的に殺し回る姿だった。
「モンスターだコレええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
「拠点のゴブリン10分の9を抹殺するとなれば、こうも成ろう」
「いやいやいや、そうは成らないでしょ!!?」
『オオオオオオオオオオオォォォォォォォォ!!!』
拠点の洞窟からとてつもない雄叫びが響き渡る。




