俺、初めてクエストをパーティで受けたわ
今日は授業が休みなので、リーチェ先生とパーティを組んでクエストに行く。
俺も先生も冒険者だし、定期的にクエストをこなして措かないとね。
待ち合わせ場所はギルドの食堂だった。
到着すると、既に先生が席に座ってお茶を飲んでいた。
こういう時にかける言葉は、相場が決まっているものだ。
「ごめーん、まったー?」
「ううん、今来たとこ……ってなに言わせるのよ」
「いやいや、こういう時の常套句でしょう」
「まあ、いいわ。で、何に行くの?」
「実は何も決めてないんだよね……」
クエスト掲示板の前に立ちながら目ぼしい依頼が無いか物色していると、ひとつの依頼書が目に留まる。
ゴブリン討伐 ランクE
場所 ポルテ村
報酬 45リット
備考
最近、ゴブリンによる畑や家畜の被害が拡大している。
村の若い衆だけでは対応しきれなくなってきてしまった。
そこで、ギルドの冒険者に増えてきたゴブリンを間引いてもらいたい。
「これは……どう思う?先生」
「どうって…ゴブリン討伐の依頼でしょ……ん?」
「気付いた?」
「これ、被害が拡大してきてるって事は1匹や2匹の仕業じゃないわね」
「うん、もしかすると近くに集落が出来てるかもね」
「待って、ゴブリンの最大の武器は数よ?集落が相手だとランクCまで跳ね上がるのよ?」
「先生はCでしょ?」
「拠点攻めなんて最低限Cランクの冒険者が複数のパーティで攻めるのがセオリーなの、私とフィロウ君だけじゃ無理よ」
「まあ、これはゴブリンの討伐だし、ついでに調査って感じでいいんじゃない?無理なら引き返せばいいし」
「うーん、そう言う事なら……」
「決まり。じゃあ受けてくるよ」
依頼書を受付に持っていく。
「お願いしまーす」
「あら?フィロウさん、クエストの受付ですか?」
クエストカウンターには受付嬢のリリアが居た。
「うん、今回は2人パーティで受けようと思ってね」
「そうなんですか!ちなみにどちらの方と?」
後ろのテーブルに座っているリーチェを指す。
「え…リーチェさんとですか!?」
「そうだけど、何か問題が?」
「いえ…そう言う訳では…」
(ヘルパーリーチェとワイバーンキラーの名有りがタッグを組むなんて、一体どんなクエストを受けるのかしら…?)
ドキドキしながら依頼書に視線を落すとそこに書かれていたのは――。
ゴブリン討伐
(…うん?)
ゴブリン討伐
(いやいや、当ギルドの最強戦力の一角がゴブリン討伐なんて――)
ゴブリン討伐だった。残酷なまでに紛う方無きEランク。
斜めから見ても、逆さから見ても、裏から透かしても、ゴブリン討伐。
「―――」
………
……
…
「お気を付けて行ってらっしゃいませー」
リリアは考えるのを止めた。
きっと自分には解らない何かが有るのだろうと思い、2人を笑顔で送り出した。
「で、ポルテ村って何処にあるの?」
「え!?知らないで受けたの!?」
「おう」
「――頭が痛くなってきたわ。ポルテ村はアルサレムから徒歩で東に3日の距離にある村よ。
道沿いにあるから迷うことは無いと思うわ」
「へぇ、よくご存知で」
「……別に、前のキマイラ討伐で立ち寄った事があるだけよ」
何やら深くっ突っ込んだらいけない雰囲気のようだ。
ここは無難な方向に話題を持っていこう。
「ここから、徒歩で3日か……」
「そうよ。食料とか色々準備しないと…」
「とりあえず、時速5キロで12時間歩いて60キロ、3日で180キロか……日帰りで行けるな」
「は?」
リム平原東にある森の中までやってきた。
今からやることは、目撃されるとひじょーに厄介な事になりそうなので
道から少し外れていて死角になる所にいく。
「こんな所に来てどうするのよ?」
「こうする」
「きゃ!」
リーチェをお姫様抱っこで抱えると意外と軽かった。
「ちょ、ちょっとフィロウ君!?」
「…思ったより軽いな」
ゴッ!
「叩くわよ?」
「叩いてから言わないでくれる?まあいいや」
仕切り直しの意味を込めて、1度言ってみたかった台詞の内の1つを言う事にした。
「おほん、えー本日はフィロウエアライン、ポルテ村行きをご利用下さいまして誠にありがとうございます」
言いながらフライトフィールドを展開する。
「ふぃ、フィロウ君!背中に光の輪が出てるけど、コレ何!?」
「当機はまもなく、離陸いたします」
「は?リリク?」
一瞬で200メートルくらい上空に飛び上がり、道に沿って一気に加速する。
「短いですが、空の旅をお楽しみ下さい」
「と、と、と、飛んでる!?私、飛んでる!?」
「頭が?」
「…降りたら覚えてなさい」
「サーセンデシタ」
「これ、魔法なの?」
「それ以外の何者でもありませんが?」
「魔法で空が飛べたんだ…無理だって発表されてたのに…」
「今、ナウ!飛行中。まあ、真面目な話をすると4大元素を基にしたら超絶難しいんじゃね?
12元素まで理解すれば出来る様になる」
「そうなの……なんか全く現実味が無いんだけど…って言うかこんな速度で移動してて風の抵抗とか全然感じないんだけど?どういう事!?」
「それ、後ろの輪っかのおかげ」
「なるほど、意味が解らないと言うのが解ったわ」
「まだ、先生には早いって事だね」
「どーせ、私はお飾りの先生ですよ」
「その内ちゃんと教えるから拗ねないの」
不覚にもちょっと可愛いとか思っちまった。




