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転生英雄譚(裏)  作者: 甲 康展
第2章 フィロウ編 学園生活
16/28

我が計画は順調なり

 全員が広場に出ると、涼しい風が吹いた。

この季節は暑くも無く寒くも無く、すごし易い。


「で、俺と先生でやり合えば良いわけ?」


「伊達にCランクの冒険者をやってないから、そこそこ強いわよ?私」


「ちがう!ちがう!そんなことしたら怪我しちゃうでしょ?

やり方は簡単、私たちがお題を出すから、先生とフィロウはそのお題を魔法でクリアするの」


「なるほど、じゃあ早速お題をよこせ下さい」


「なら、最初は言いだしっぺの私からお題を出すわね。そうねぇ、簡単なのから行こうかな!

あの岩に向かって火属性の魔法を使って攻撃してみて」


「確かに簡単ね、私から行かせてもらうわ」


 そう言うと先生は意識を集中し始めた。


「世界にあまねく炎の精霊よ我が魔力をもって、敵を穿て!フレイムアロー!」


 集束された魔力が炎の矢となって、岩に直撃すると爆音が辺りに響いた。


 直撃した部分が砕けていた。


『おおー』


 みんな感心しているようだ、俺も負けていられん!


「次は俺だな!」


 大きく息を吸い込む。


「フゥレアブラスタァァァァァァァァ!!」


 放射された熱線が岩をドロドロに溶かした。まあ、こんなもんだろう。


「どーよ?」


「どーよって……アレ?私の知ってる火属性とチガウ…」


「じゃあ何属性だと言うのかね?」


「え!?……えっと、じゃあ火属性…かな?」


「ほら、火属性じゃん」


 俺、論破!


「ま、まあとりあえず、気を取り直して、今度は俺から出させてもらうぜ?」


「お、今度はヴェルドがお題を出すのか、バッチコイや」


「俺からのお題は『氷属性』だ皆、やり方は知ってても作り方は知らねぇ、先生だっつーならそれくらいできねぇとな」


「そうよね、ちょっと集中するけど、皆みててね」


(師匠にちゃんと教えてもらってて良かったー)


「まず、氷属性は皆も知ってる通り――」


 なんか、皆先生の話に集中してるみたいだから俺は後ろの方でやるかな。


 そっと皆の後ろに回り氷属性の魔法を使う。


 何作ろっかなーと。


「――水と風の属性で氷が出来るけど、いっぺんに多くの水を使うと失敗するの。

だから最初は少しずつ、水を風で凍らせていくの」


 リーチェの作り出した少量の水が凍ると、表面を水で覆い風でさらに凍らせていく。

これを繰り返すことで徐々に氷を大きくしていく。


「氷属性が実戦で使えないのは、使える大きさに成るまで時間がかかり過ぎるのと複数の属性を並列で使うからなの

要は掛かる手間に対して効果が見込めないから、皆使わないのよ」


 と解説を交えながら氷を作ること10数分、槍のような氷が出来た。


『おおっ!』『すごい…』『あんなの見たこと無い』


 等と生徒達から感嘆声が漏れる。


「とまあ、私が使うとこんな感――じぃ!!?」


 生徒の方を見た瞬間、リーチェは思考が凍ってしまった。

その様子を見て、生徒たちも振り返る。


『どうしたんだ?先生?』『そう言えば背中がやけに寒いような…』


 生徒達が振り向いた先には――。



 氷 の 屋 敷 が 建 っ て い た。



『なんじゃぁぁぁぁこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』


 生徒達が叫ぶと2階のバルコニーからフィロウが顔を出す。


「ありゃ?先生の方は終わったの?こっちはまだ内装が終わってないから、もうチョイ待って」


『こ…コレ何!?』『内装って何!?』『って言うか何!?』


 あまりの衝撃に生徒達が混乱したのをよそにリーチェは悟った。


(コレ逆立ちしても勝てんわ)


 しばらくしてフィロウが屋敷から出てきた。

どことなく、やり遂げた顔をしている。


「おまたせー、いい感じに出来たわ」


「ねーねー、これ中に入っていーい?」


 ミルルが袖を引っ張って聞いてくる。かわいい。


「おう、構わないぞ。自由に見てくれ」


「わーい」


 屋敷の中に走り去るミルル。

転ぶんじゃねぇぞ。とか思いながら次のお題を要求することにした。


「おっしゃ、次の奴をよこせ下さい!」


「ちょっと待って、正直もう勝てる気しないから私の負けで良いわ」


 先生が敗北宣言した。これで、このクラスは俺のものだ!


(これだけの魔法の使い手、もしかしたら師匠の言っていた、蒼炎の禁呪使いについて何か知ってるかも…)


「フィロウ君、ちょっと聞きたいんだけど…」


「なに?先生?」


「蒼い炎を使う魔法師って知らない?」


「蒼い炎?さあ?聞いたことも見たことも無いな、そもそも俺は他の魔法師に会った事はほとんど無いからなぁ…」


「……そう」


 蒼い炎か、炎色反応でもやってるんだろうか?いや、炎色反応なんてこの世界では聞いたことが無いし、蒼い炎だけを使う意味が無い。

と言う事は、他に炎を蒼く出来るのがあるって事だ。何かあったっけ……あ、酸素か。


「まあ、先生の言う魔法師には会った事が無いけど、蒼い炎は再現できるかもよ?」


「…………なんですって?」


 先生、顔怖!なんか変な事言った?俺?


「禁呪はオリジナルの魔法だから再現なんて出来る訳がない。教えて貰ったならともかく聞いただけで再現なんて……」


「あ、出来た」


「なにいいいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」


 普通の炎に酸素を供給して完全燃焼を促すと蒼い炎になる。

確か、ガス溶接に使われる炎も同じ原理だったはず。

まあ、あっちは魔力じゃなくてアセチレンっていう可燃性ガスだったが。


「そんな…禁呪をこんな簡単に…!?」


「先生、その『禁呪』って何?」


「禁呪って言うのは、存在するだけでパワーバランスが崩れる魔法の総称よ」


「ふーん、蒼い炎(コレ)が禁呪ねぇ……」


 と言いながら人差し指の先で蒼い炎を出したり消したり、ライターの様に扱う。


「ねえ、フィロウ君」


「何かね?メイジェル・ティンバー」


「え?何でアタシはフルネームなの?」


「いや、別に深い意味は無いんだ気にしないでくれ」


 巨乳が印象的だったから真っ先に覚えたとは言えない、俺も男だから仕方ないよね。


「それより、何か聞きたいことがあったんじゃないのか?」


「ああ、そうだった。フィロウ君は一体何者なの?先生の言う禁呪の再現といい、氷の屋敷といい明らかに異常よ?」


「異常も何も、見ての通り。普通の魔法使いですが?」


 皆の俺を見る目が『何言ってんの?こいつ』って言ってる。目は口ほどに物を言うってこの事か!?


「残念ながら認められないよ?」


 優男のグリムが、肩に手を乗せて言って来る。


「……これだけの能力(ちから)を持っていながらDクラスに居るのも謎」


 目隠れ女子のレイラも便乗して言ってくる。


「レイラが言ってるのは俺自身も謎なんだよ。何で俺Dクラスに居るの?」


 とヴェルドに聞いてみる。


「いや、しらねぇよ!何で俺に聞くんだよ!!」


 ヴェルドからはツッコミニストの匂いがする、ちょこちょことボケを振ってみよう。


「ただいまー!!」


 屋敷内からミルルが帰ってきた。


「おかえり、どうだった?屋敷は?」


「うん!すっごくきれーだったけど、寒かった!」


「うんうん、そかそか」


 頭を撫でるとえへへと嬉しそうにしていた。かわいい。


「とりあえず、勝負に負けた私はお飾りの担任って事でいいの?」


 そう言えば先生が負けた時の処遇を決めてなかったな。


「いや、先生にも俺の授業を受けてもらうよ?それと、先生はCランクの冒険者だったよね?」


(あ、私も授業受けるんだ…)


「ええ、Cランクだけど?」


「じゃあ、俺とパーティを組みましょう!俺Dランクなんで」


「え?Dランク?…そう言えば噂で、ギルド登録至上最速でDランクになったワイバーンキラーって…」


「あ、それ俺のことだわ」


「やっぱり。なんか、納得だわフィロウ君なら…っと言うか私が足を引っ張らないように気を付けるわ」


「よし、先生の処遇も決まった事だし。明日から授業をやるぞー」


 こうして俺の学園生活はスタートした。

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