コレはもう、俺の為に作られたとしか思えんね
ギルドを出て、宿に戻ると女将さんのクレアが手招きしていた。
「バジリスクを倒して、石になった人たちを救ったんだって?」
「ブフォッ!?」
情報が回るの速過ぎるだろ!ギルド出るときは何とも無かったぞ!!
「ど、どうしてそれを?」
「水路を管理してる職員は冒険者じゃないから、口止めできなかったみたいだねぇ」
そういう事か。また、やらかしてしまった…。
「ちなみに、どのくらい広まってます?」
「そこらじゅうに」
そりゃそうだよね、宿の女将さんが知ってるくらいなんだから、みんな知ってるよね。ははは……チクショウ。
「なんだい?みんなに認められるのが嫌なのかい?」
「『嫌』って言うか、あまり目立ちたくないんですよ。利用しようと寄って来る輩が居たりと面倒事が増えるんで」
「ふぅーん、アンタみたいな考え方する冒険者はめずらしいねぇ」
「まあ、そんな訳で噂が広まるのは歓迎できないんですよ」
「そうかい。でも、もう手遅れだから、諦めな!ははははは」
Oh…辛辣ぅ。
「はぁ…もう、今日は部屋で休みますから、夕飯はいいです」
「あいよ、ゆっくり休みな」
次の日、冒険者ギルドのマスタールームにて。
解体屋の親父さんとギルドマスターが待っていた。
「これが、昨日言っていたバジリスクです」
異次元収納からバジリスクの遺体を出す。
「おお、これが……って、今何処から出した!?」
「俺も気になってたんだが、聞く機会がなくてよぉ、良い機会だから説明してくれねぇか?」
「異次元収納について?バジリスクの方が重要なんじゃ…?」
「いや、フィロウ君のその魔法は、把握しておく必要がある」
「まあ、良いですけど…この魔法は空間Aと空間Bを繋ぐ魔法『ワームホール』の研究中に出来た副産物で…」
「ちょっと待った!」
「なんです?」
「ワームホールとは一体なんだ?」
「こういう奴です」
百聞は一見にしかず。と言う事で目の前にワームホールを開いてみせる。
球体の中に草原が見える。王都周辺の草原に繋げてみた。
「何じゃこりゃ?向こうに草原が見えらぁ…」
「これは……通れるのか?」
「もちろん、その為の魔法です」
先に通って見せると、後から二人が着いてきた。
「本当に草原に出ちまった……」
「後ろに王都が見えると言う事は、ここはリム平原か」
へー、名前あったんだ…。
「まあ、こんな感じなんで、戻りましょう」
来た道を戻り、部屋に入る。
「今、通ったワームホールの先を繋げないのが異次元収納です。簡単に説明するとこんな感じです」
「うーん、悪いが。俺にゃ全く理解できねぇ」
「心配しなくてもいい、私も全く理解できていない。しかし、この魔法は『商人の夢物語』と言う御伽噺に出てくる魔法その物だな」
「なんです?それ?」
「商人に伝わる昔話で、商人がいくらでも荷物を積み込める袋を手に入れたんだが、夢の中の話だったっと言う結末だ」
夢落ちかよ!
「要は、無い物を夢見ても仕方が無ぇから、現実を見て商売しようっつー事だ」
「へぇー」
「それよりも、フィロウ君の魔法についてだが――」
「あー、この魔法は誰かに教える積もりはありませんよ?今の所。
この魔法を使えば、危険物を王都に持ち込むのも容易になるし、疑いの目が俺に向きますから」
「なるほど、あえて曝す事でバジリスクを持ち込んだのが自分じゃないと言いたいのだな?」
「話が早くて助かります」
「んあ?どう言うこった?」
「フィロウ君が持ち込んだとしたら、自分で始末するのはまだしも、手の内を曝す事まではしないと言う事だ」
「あー!そういう事か!」
「とりあえず、ここら辺で話を元に戻しましょう。このバジリスクの進入経路ですが――」
「恐らく、正面から堂々と入ったんだろう…」
「…なぜ、そう言い切れるんです?」
「王都の水路は途中で完全に水没することになる。バジリスクを抱えて水中を通るのは現実的ではない」
「フィロウと同じ魔法が使えるってー線は?」
「こんな、とんでも魔法を使える者が何人も居るとは思えん、私はさっきの魔法を初めて見たのだ」
「とんでも!?まあいい、正面から入ったとなると大分拙いですねぇ、王都の騎士…または騎士に圧力を掛けられる者が相手側にいるって事ですよ?」
「ああ、正直に言うと。この件は我々ギルドだけでは荷が重い。だから、国側に任せようと思う」
「そうだなぁ、国の権限が無ぇと捜査出来無ぇ所もあるだろうし、俺達じゃあ頭打ちになるのが目に見えちまってる」
「では、この件は国側に丸投げと言う事で?」
「ああ、依頼があれば協力はするが、捜査するであろう騎士団はプライドが高い。結果的には丸投げになるだろう。それと、フィロウ君の報酬だが1ランク昇格と120万リット用意した」
「ぶっは!?120万!?イグトの時より大分多いんですけど?」
「王都内でバジリスク出現は大災害に十分なり得る。その損害額は120万リットを大きく上回る事になるだろう。そう考えれば、安い物だと思わないかね?」
「そう言う、被害とかはギルドが考える事ではない気がしますが?」
「国側はこの件を公には出さない。いや、出せない。なぜならバジリスクについて詳しい情報が出回れば無用な混乱を招いてしまう。
今、巷で流れている噂は予測や推測が入り混じった不確かな話なのだ。尾ひれが付いた情報など所詮は噂にしかならん。
いい所、都市伝説あたりに落ち着くと言う流れだ」
「なるほど。つまり、情報公開できないバジリスクの死体を持って国側に吹っ掛けるって事ですか。エグいですねぇ」
「強かと言ってくれたまえ」
「はははは、そう言う事なら有り難く頂戴しますよ」
「ああ、今後も期待しているよ」
「期待に沿えるかは解りませんがね」
そう言って報酬を貰い部屋を後にすると受付嬢のリリアに捕まった。
「あなたは一体、何者なんですか?たった3日の間に3階級も上がるなんて見たことも聞いたこともないですよ!?」
「そう言われてもなぁ、普通の人間?」
「納得できません」
「私も納得できません」
「ん?」
見ると小柄な女の子が、話に混ざっていた。
「どちら様で?」
「あ、この方は――」
「初めまして!シーフ兼情報屋のミリアリア・リリーベルです。ミリアって呼んで下さいです」
何か猫っぽい印象を受ける子だった。
「これはどうも、初めまして。俺は――」
「ワイバーンキラーのフィロウさんですね?」
「あ、はい」
「噂の中心人物にようやく会えたです!この後、時間あるですか?」
「いや、合格発表を見に行かないといけないから――」
「合格発表?魔術学院の試験を受けたですか!?私も行くです!」
「ミリアも試験受けたのか?」
「受けてないです」
「じゃあ何で付いてくるの?」
「結果は気になるのです!」
「ああ、そう。何か来るなって言っても来そうな気がするから、好きにしな」
「よく解ってるです!」
「と言う訳で、リリアさん。もう行きます」
「え?あ、はい。気をつけて…」
(私が会話に入る隙が全く無かった…これが情報屋の力ですか)
合格発表の掲示板に行くと、人が集まっていた。
早速、名前を探すと程なくして見つかった。
47番 フィロウ・アレスタ Dクラス
ちなみにイルアはと言うと。
9番 イルア・アレスタ Sクラス
何故だ!この俺がDクラスだと!?何かの間違いとしか、考えられん!
ポンポンと背中を叩くミリアリア。見ると慈愛に満ちた表情で――。
「どんまいです。ワイバーンキラーならDクラスでもやって行けるですよ」
「どう言う意味?」
「魔術学院のDクラスは、ぶっちゃけクラスと呼べるかどうか怪しいです。
このクラスの担任はCランク以上の魔法使い冒険者がクエストとして、受けてるです」
「学園の教師じゃないって事か…」
「しかも、授業は週に2時間しかないです」
「は?」
「残りは全部、自習なのです」
「それ、学園としての体裁を成してないんじゃない?」
「コレには理由があるです。Dクラスの提出物はお金なのです。月に2万リット」
「もう、意味解んないんだけど?2万ってかなりの大金じゃん」
「でも、クラス全体で2万リットです。用意できなければ1人づつ退学になって行くです。
王都で手っ取り早くお金を稼ぐには――」
「冒険者になって、モンスターを狩るかクエストをこなすか…か」
「ですです。だから、週に2時間しか授業が無い上に冒険者が教師をやるです」
察するに、実践で鍛え上げるのを名目に金蔓を作り、もし狩りの際に何かあったとしてもクエストを受けた冒険者が責任を取るって形か。
自分達は金が入ってくる上に責任を取らないって訳か。うわ、すげぇ下衆い。
「これの所為でDクラスは奴隷クラスって呼ばれてるです」
「蔑む対象を予め作っておくと言う事か…」
「ちなみに、教室はあそこです」
ミリアリアが示した先は岡の上にある古い木造の校舎だった。
ピカピカのでかい新校舎とは大違いだ。
「隔離されてるー!?」
これは、酷いな。どうしようか……ん?待てよ。
現状として俺はギルド周辺で目立ちまくってる。コレはもうどうしようもない。
だったら、俺と同じような力を持った奴を作り、目立たせれば俺1人に目がむく事はない。
要は他にもフィロウみたいな奴が居ると思わせれば良いんだ。
そして、Dクラスは隔離されてる上に教師も外部のクエストを受けた冒険者。
監視の目なんざ、ある訳がない。つまり、乗っ取って下さいと言ってる様なものじゃないか!!
月2万リットくらい今の俺なら余裕で払える。
結論として、今の俺の為に作られたクラスのような物だ。コレは遠慮なく利用させてもらうとしよう!
「クックックック、よく考えてみればとても美味しい話じゃないか」
「ど、どうしたですか?おかしくなったですか?」
「失礼な!ちょっと良い事を思いついただけだ」
こうして、俺は『量産型 俺』を作るために動き出すのだった。
解説
ワームホール内について
中で時間が止まるなんて事はありません、だからわざわざ封印を掛けて腐らないようにしています。




